僕とダガーと食後の運動
帝都の居住区を超えると、帝都内と雖も荒野が広がる。疎らに存在する木々と森が茶色の風景の中に濃い緑色をもってアンバランスに感じられた。
焚き火の周りには、先程までの食事での肉の焼けた香りと、捨てられた内蔵の生臭さが空間を漂う。
「帝都を出たのは初めてか?」
荒野を眺めていた僕にバーントが話しかけてきた。
そして、大きく頷くと、一本のダガーナイフを差し出す。
「最低限、身を護る道具くらいは持っておけ。そろそろ始まるから」
始まる?
その言葉に疑問を持った僕の視界の端に黒い物が動く。
蟻?
確かに蟻であったが、遠目からでもわかる大きい。
一匹一匹が成人男性程のサイズがある。
『Giant Ants』
ジャイアントアントである。
ポツリポツリと見えていた巨大蟻は、徐々に増えていき、茶色い大地を黒色に染め尽くす。
「ほぉ、今日は一段と多いな」
「ウチ、あの黒光りしてる感じ、嫌いやねん」
気楽な感じで話すバーントとカリハの横で、僕は突然の襲来に怯えていた。
何気ない表情でラチェアが矢のない弓を、天空に向かって素引きすると、蟻達に向かい、大気が揺れる。
甲高い弦音の残滓。
間をおかず、ヘンリスが鉄の杖を地面に叩きつけた。
「【Quake】」
地面が揺れ、陥没、隆起が始まる。
蟻達がまるで水に溺れるように大地に呑まれていく。
これが魔法……。
魔法を使えない今ではなく、神童と呼ばれていた昔であっても、これ程の魔法は見たことがなかった。否、人の身でこれ程の魔法が使えるのか…………。
ただ、呆然とするだけであった。
神童と呼ばれていた自分が、なんと幼かったことか…………。
ただ、ヘンリスが魔法使いだなんて。
絶対に鉄の棒を振り回す脳筋と思っていたのに……。
次いでラチェアが今度は、矢を射った。
天空に射られた矢は、大気に消える。
「【Rain】」
刹那、消えた筈の矢が、無数の矢となり雨のように降り注ぐ。
「大方消えたな。後はこっちの出番やで」
ジャクダウが大斧を構えながら、笑った。
「なにしてん、ウチら足手まといは下がらな」
カリハが手を引いて、後方に避難。
ジャクダウは、独楽のように回転しながら身の丈程の大斧を大蟻を裂いていく。
向こうでは、盾と剣でラチェアに寄り付く大蟻を捌いていた。
蹂躙。
程なく、見える限りの範囲に生きている大蟻はいなくなった。
「この辺って、来た時もこんな感じやってん。でも、強いやろジャクダウ様。お三方は別格やけどな」
何処となく自慢気なカリハ。
僕は、バーントに貰ったナイフを握りしめ、あまりの自分の不甲斐無さに唇を噛んでいた。
◇◇◇
後で聞いたら、ジャイアントアントは荒野の掃除役として必要な存在らしく、スタンピードと起こしそうになるまでは、巣の駆逐、女王蟻の殺害はしないそうだ。
『食後の運動には最適だろ』
そんなことを言うラチェアを見て、ちょっと格好良いなって思った。
【昊ノ燈です】
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