ジャムは闇の中に
暗転する世界の中、僕はマドゥの声を聞いた。
「T……Ta……タ タ タカラ ヲ タ タマ」
たどたどしい言葉に、強い意志を感じさせる。
「タ 珠ヲ 我ヲ ゴーレムニ 我ノ魂ヲ ゴーレム ニ 生贄ニ 素材 ト 大イナル魔力 我ニ 我 仕エル 主ニ…………」
マドゥがゴーレムとなるのを願った。
ジャクダウの持っていた宝珠でゴーレムを創るには、生贄となる魂とゴーレムを成す素材、そして莫大な魔力が必要。
マドゥが魂を捧げるから、僕にゴーレムを創れと言う。
人の命を犠牲にすることに抵抗があった。
しかし、今のままでは全員殺されてしまう。
素材は、このダンジョン。
僕の魔力ならできるかもしれない。
皆が死ぬ…………カリハが、キュラが死ぬ。
僕は、ジャクダウの手から転がってきた宝珠に手を伸ばした。
握りしめた左手に魔力を込める。
手の中で宝珠が細かく震えだし、言葉が頭に直接届いてきた。それは、僕にどうすべきかを教えてくれている。
言葉の通り、依代となるマドゥの口に宝珠を納め、魔力を込め続ける。
マドゥの身体が、素材である床に沈み込む。
いや、溶けていくようにも見えた。
これで、依代と素材の同調が完了。
次は組成。
出来上がるゴーレムの形は、依代の想いによって変わる。
素材のミスリル銀は、魔力との親和性が高く、素早く隅々まで魔力が流れていく。
が、魔力が足らない。
おそらく、これが石や鉄なら、僕の魔力でも足りていただろう。もしくは、小型のゴーレムをマドゥが創造していたのなら、僕の魔力でも足りていたかもしれない。
魔力の枯渇という問題。
創造以上にミスリル銀は、僕の魔力を持っていく。
もしかすると、ミスリル銀以外の特殊な鉱物が混ざっているのかもしれない。
いや、ミスリル銀すら伝説的な金属なのだ。
自分の魔力を過信していた。
魔力の枯渇が現実に近づいた時、僕は思い出した。
魔族となった男を。
『黒』に入り込まれ、魔族化した後、明らかに魔力が大きくなっていた。
既に『黒』はいない。あの男の中に入ってしまっている。僕は、この空間にあったモノを思い出す。
『黒い池』
あの『黒』と同様にして、より禍々しく、深い魔力を感じさせる漆黒の淀み。
違うのかもしれない。
関係無いかもしれない。
もし、そうだったとしても、あの中に入って、大丈夫なのだろうか。
でも、早く決めないといけない。
枯渇してしまうと、マドゥが犬死にだ。
成功しないと、カリハが殺される。
僕は、『黒い池』に身を沈めた。
『やっぱり水じゃないんだ』
── ワレラ ハ ワレ
── コロ コロコロ サレ
『重い空気?いや、質量を失った水?』
── アア ヒト デ アル モノ
── ウラ 厶
『マドゥに魔力を送ラナキゃ』
── マリョク ノ タメ
── カナシ イ
『魔力をマドゥ ニ 送ら ナイ ト』
── コロサ レタ
── ナニ ヲ
『マドゥ に 魔リョク ヲ』
── ワレ ハ ワレラ
── ナゼ ナゼ
『ゴーレム ニ スル タメ』
── ハ コロサ レタ
── ナゼ ニ
『タス ケル タメ』
── エサ ト ナッ タ
── ダレ ヲ
─『カ リ ハ』
── 呪
── ナゼ ナゼ
──『タス ケ タイ』
── ヒト ヲ
── ドウ スル
── 『モウ イチ ド キス』
── スベテ ヲ
── ドウ スル
── 『ダキ シ メ ル
── オマエ モ ワレ ラ
── ドウ シタ イ
── ダク オカ ス ダ ク
── トモニ 呪ウ
── アァ カナシ イ
── カ リ ハ
(…………泣き声が聞こえた)
(カリハの声………………………)
──── チ ガ ウ チガ ウ チガウ 違ウ 違う!
『カリハを泣かせない』
「僕はカリハを護る!」
◇
『黒い池』は、床の中央部で蟠っていたが、いつの間にか球になっていた。
球は、呼吸をするかのように、ゆっくりと肥大化と縮小を繰り返していた。外輪は次第に整えられていき、人程の大きさで安定する。
魔族となった男は、真っ暗となった最下層で、足元に擽られるような感触を感じていた。
「【FLAME】」
詠唱により現れた炎が足元を照らす。
モゾモゾと動く人の手首が、自分の足に引っ掛かっているのだ。
思わぬ所で多足の虫に出合ったような怖気が走り、足を上げ、振り払う。
自由となった手首は、層の中央部にある黒い球に吸い込まれた。
何だ、あの球は?
あんな物があったか?
そんな疑問を持つが、分からない。
この層にあるのは、一つの死体と、二つの死体予備、そして、自分の横で蹲り泣いている次の死体となる女だ。
んっ、死体予備の二つがいない。
まだ動けたのか?
男は、炎を回して周囲を警戒する。
その時、黒い球に掌大の魔法陣が現れていた。
周囲を見回し、再び黒い球に視線を戻した時、線が奔った。
髪の毛程の厚さの蒼く白い光の線。
線が動く。
レーザーのように真っ直ぐな線が、壁面から男の左脇腹を通り、右肩を通り、天井へと向かい、消えた。
線の通った軌跡通りに壁から光が差し込む。
細い細い線。
線は壁の低い所から天井まで、壁を貫き、陽光を最下層へと導いていた。
一方、カリハは、訪れない自分の死を不思議に思い、顔を上げた。
光が差し込んでいた。細い光であるが、ここで見ることのないはずの光。
そして、目の前の男は、左脇腹から右肩にかけて線が入り、身体がズレていく。
滑り落ちるように上半身がズレていく男。
── ズシャ
男の上半身が落ちた。
切断面はから血が出ることはなく、焼かれている。
── オオ ヒカリ ヒカリダ
── オマエハ ヒトリ ノコルカ
── ワレラハ イク
── ヒカリノモトへ ヒカリノモトへ
── オマエハ ワレラ デハ ナカッタナ
── ワレラノ タマシイハ ヒカリヘムカウ
── ワレラノ チカラヲ ノコス
── チカラハ マリョク
カリハは、声が聞こえた気がした。
沢山の人の声。
そして、小さな光の隙間から外に向かおうとする、小さな銀の粒達を見た。
いつの間にか現れていた黒い球は、拳大の黒点となり、地面に落ちて、円となった。
地面にできた染みのような黒い丸。
不思議な光沢を放ち、地面の一部となった。
── ゴプッ……ゴボゴボ…………
音がした。
【昊ノ燈です】
今回は、書きやすかったです。
どうも自分は、こんなクドい感じが好きなんでしょうね。
ちなみに、
── ①
── ②
── ジャム
── ①
というふうに読んでいただけると、わかりやすいかと思います。
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