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ジャクダウと白銀、そして黒

 ジャクダウの前に壁があった。

 ダンジョンの中にそびえる断崖のような壁。


「なぁ、すっごいなぁ。これ全部ミスリル銀やで─」


 振り向きながら笑顔で話すが、そこには誰もいない。


「あっ、カリハ……」


 何処に行った?そんな言葉を飲み込んだ。

 分かっている。カリハを見捨ててしまった。

 足場が崩れた時、カリハが落ちるのは分かった。でも、それ以上に、その瞬間に目に飛び込んできた、流れるように見える白銀を選んでしまったのだ。


 落ちる時のカリハの姿すら見ていない。視線は白銀にあった。でも、カリハの顔が脳裏に残る。見ていない筈の表情は、泣いていた。

 今まで、よく仕えてくれていたのにな。

 自分は、何と冷たい人間であったのか……。

 自分には、主たる資格はなかったのだ……。

 そんな事を思ってしまう。


 壁に目を戻す。

 蒼い光の中でも白銀の存在感を醸すミスリル銀。

 確か落ちた時、左側手の方に流れる感じが見えたから──上か。

 背中の大斧の位置を直し、ロッククライミングの要領でミスリル銀の壁を登っていく。

 凸凹とした壁面は、掴みやすく、順調に登れたが、時折、フラフラと飛び回る巨大な羽虫に気付かれないように慎重に進むのに神経を使う。


 左手の少し上に滑らかな白銀が見えた。

 手を伸ばす。

 ──グニュ

 想像と違い過ぎる柔らかで湿った感触。


 白銀は蠢き、左手を包み込んでくる。


 しまった!

 まさか、こんな色の…………。


 白銀の中に気泡が立ち、左手が熱を帯びる。

 皮膚の表面が赤く崩れていく。

 スライム──。

 紅いコアを持つ白銀のスライム。

 慌てて左手を引き抜こうとするが、既に肘まで包まれてしまっている。

 振り解こうにも、右手は岩を掴み、左右の足は大きく開いて出っ張りに踏ん張っている。身体が捩れない。

 その間にも、左手は溶けていく。

 既に手の甲の皮膚は無くなり、筋繊維の隙間から白い骨が見えている。

 怖い!

 ただ怖い!

 生きながらに自分の身体が消化されていく恐怖。


 ── バスッ!


 不意に背中に衝撃。


「ハハッハハハ。こんな所にいやがった。死ね【Thunder】」


 男がいた。左腕を失い、右足を引き摺るように歩いてくる男。衣服は破れ、襤褸布となり身体を僅かに覆っている。ほぼ全裸となった肌は、青黒く朽ちた場所と赤く垂れる血がサイケデリックなグラデーションを見せている。


 ジャクダウの右側の壁に雷撃があたる。

 振動が足を滑らせる。

 体制を整える間もなく、次の雷撃。


 落ちる!

 覚ったジャクダウは落ちる勢いに任せ、スライムごと男に向かい、左手を振り抜いた。

 ブチブチッと音がする。

 左腕の千切れた皮膚ごとスライムが男の方に飛んでいく。


「アアァァ…………ァ……」


 男の悲鳴を聞きながら、ジャクダウは落下していった。



 ◇◇◇◇◇


「ジャクダウ様?」

 カリハが急に声をあげた。

 僕が視線を送ると、首を振る。

「なんかな、ジャクダウ様の声が聞こえた気がしてん」


「えっ」

 耳を澄ますが、人の声は聞こえない。

「ジャクダウ、どっちの方に行ったんだ?」


「ウン、あっちだと思うよ」

 言葉を返したのは、キュラ。

 耳を器用に動かしながら、右前方を指差す。

「あっちから、何か聞こえたから」



 その時、急に全身を締め付けるような圧力を感じた。


 ── ……エ カ?


「えっ、何?」


 ── ノゾム?


「誰?」


 ── コロ ス ……


「なんやねん、この声」

「いつの間に?気付かなかったよ……」

「Kfx」

 皆にも聞こえていたようだ。


 いや、声ではない、何か胸の奥にそのまま送られてきたような『思い』。たどたどしい言葉のような、途切れ途切れの『思い』だ。


 ── ワレ ト ワレラ ノ


 そして、『思い』と共に送られてくる巨大な魔力。


 締め付けられる魔力の中で現れたのは、影のような人型。

 微かに透ける身体は、縁がぼんやりと周囲に溶けるように見える。目も口も手指すらハッキリと認識できないのに分かる、人。


 その、朧気で人のようなモノは、ゆっくりと近付いてくる。


 ── ホシイ? ホシイ


 子供?

 老婆?

 子供のようにも、老人のようにも、若い男性のようにも感じられる。


 ── タスケテ 呪 コロ


 手を伸ばせば触れるくらいの距離。

 全身に感じる圧力が大きくなる。

 魔力?

 空気中にある魔素ではない。

 生物が魔素を取り込んで生成される魔力。

 筋肉から生み出されるようなエネルギーに似た、魔力というエネルギー。

 そのエネルギーが、僕を締め付ける。


 キュラが脂汗を垂らしながら、一歩前に出る。

「…………い、要らない。……キュラたちは違う。……助けられない」


 ── コロ ス ワレ ラ アア


 去って行った。


「危なかったね」

 汗を拭いながらキュラは教えてくれた。

 あれは、キュラの村では『黒』と呼ばれていたそうだ。廃坑となる数年前から、時折ダンジョン内に現れるようになり、「要らない。違う。助けられない」と言うと立ち去るのだとか。キュラ自身は、出合った事がなかったらしいけど、親から教えてられていたらしい。


「でもや、言わんかったらどないなるん?」

「ウ〜ン。分かんないけど、凄い力を貰えるけど、取り憑かれて魔獣になるって噂」

 カリハの質問に、答えるキュラ。


 結局は、何か分からないけど、怖いモノらしい。

 ひょっとして、あの『黒』というのがダンジョン魔化の原因なんじゃ?

 そんな事を考えた。

【昊ノ燈です】


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