カリハとキュラと空のバックパック
カリハが目を覚ましたのは、少し経ってからのことだった。
ちょうど、キュラが「何か食べ物ないかな?」って、カリハのバックパックを漁っている最中。
「ツッ……ん、ここは?」
「カリハ!」
「ん、ジャム?と、あ〜、そこのガキ、ウチの荷物!何、漁ってんねん──って、なに泣いとるん。ちょっ、やめてえな、な、ジャム、泣きやんで、な、な」
「カリハ……カリハ…………」
僕は、カリハの名を呟きながら抱きしめた。
カリハは、荷物を漁るキュラを警戒しつつも、泣いている僕の頭に手を添える。
「なぁ、いい子いい子…………泣き止んでぇな、なぁ、ええ子やから…………」
「…………グスッ…………カ……カリハ、僕の方が年上だよ…………グスッ」
いくらなんでも『いい子いい子』は、なしだと思う。でも、カリハの手は温かくて、困ったように照れる顔は可愛い。
なんとなく背後から生暖かい視線を感じつつも、涙が止まってくれるまで、カリハに抱きつき続けた。
「愛だねぇ」
「OFV」
キュラもマドゥも煩いよ。
カリハは、別れてからの事を話してくれた。
僕の魔法陣がネシュレトの魔法で壊れて爆発が起こって、ゴブリン達が吹き飛んだ後、カリハが僕を探そうとしたけど、ジャクダウとネシュレトに止められた事。
自分の仲間に気を付けるよう言い残して別れたネシュレト。森の中でいきなり襲ってきたネシュレトの仲間と思われる三人組と、その三人組をジャクダウが殺した事。
廃坑に辿り着いたら、沢山の虫型魔獣に襲われた事。
急に魔法を撃ってきた奴らがいた事。
廃坑が崩れて大変だった事。
逃げても逃げても魔法を撃たれた事。
僕からも、ここがダンジョンだと言う事を伝える。
「で、ジャクダウはどうしたの?」
「あっ、せやな、あ〜、行ってしもうた」
僕の問いに、カリハは遠い目で答えた。
「流体ミスリル鉱石。例の流れるミスリルを見つけたんや。いや、それらしい物を見かけた気がするて言う方がええかもな。そしたら、行ってしもうたんや」
キュラが、カリハの顔を覗き込むように言う。
「なあなあ、お姉さん。何で荷物に石ばっかりなの?」
「あ〜!『泥棒ウサギ』。アンタな、人の荷物、勝手に開いてエエと思とるん」
「だって、ほとんど死んでたし」
「生きてるわ!むっちゃ生きてるわ!」
「ウンウン、生きてて良かったね。で、なんで石ばっかりなの?」
「冷静か!」
「ウン、お姉さん、落ち着いて」
「ジャム〜、この子ウサギ何〜〜?」
一気に涙目のカリハ。
キュラとは相性が悪いのか、言い負けてる。
大体が他人の荷物を漁っている方が悪い筈なのに、荷物の中身で怒られている。
「まぁええわ」
そう言いながら、バックパックの中の石たちを取り出した。
「もう必要ないさかい……」
ジャクダウは目的の鉱石を見つけてしまったから、この旅で集めた石達も用無しになってしまった。そんな風にカリハは言う。
なんとなく、用無しになった石達とカリハ自身の価値が同じような気がして、自分自身までジャクダウにとって用無しになったって、カリハが言ってるような気がして、寂しくなった。
「本当、もう要らないの!じゃあ、この干し肉も干し野菜もビスケットも全部貰いますね」
「こら、子ウサギ、石だけや。食い物はウチのや…………って、まぁええか。あんたらも腹減っとんのやろ、皆で食べよか」
「KFCn!」
「やった!マドゥ様、干し肉どうぞ。ジャムとキュラは、肉苦手だからビスケット貰お。お姉さんも何かいる?」
「やから、皆で食べよ言うたんや。ウチも含めた皆で!」
「だから聞いたのに……怒りん坊なお姉さんですね~」
「コン、クソ子ウサギが」
珍しくマドゥまで反応していた気がする。
マドゥもお腹減ってたんだね。
カリハの食料を食べながら、ジャム、キュラのこれまでの話をした。
ネシュレトの仲間がキュラの村で行った事を聞いた時、カリハは涙を流しながらキュラを抱きしめる。
マドゥが今まで二人を守って来たことを聞くと、なんとなく社交辞令的なお辞儀をしていた。今まで、カリハにとって、マドゥはジャクダウを襲う、面倒くさい敵としか見ていなかっただろう。でも、ジャクダウとの関係を抜きにしたマドゥは、良い人だ。優しく、包容力があり、強く、頼りになる、良き隣人だ。
そして、皆が落ち着いた頃、再びどこかで激しい音がした。
音を合図に、僕たちも歩き始める準備を始める。
カリハは、石を出し、ほぼ空になったバックパックを背負いなおす。
残した食料は、僅かな干し肉と干し野菜、ニ枚のビスケット。それだけならウェストポーチにでも詰めて、荷物になるバックパックは置いていったほうが良いと、キュラが言っていたが、カリハは「このバックパック、防水やし、意外と気密性あるし、何より買ったら高いから」と、捨てるのを拒否していた。
でも、それ以上に、なんとなく別の理由でカリハはバックパックを下ろせないんだと思う。
カリハにとって、バックパックを持つということは、ジャクダウの役にたつ為の唯一な手段であった気がしたから…………。
モチベーションが…………。
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