フニフニとマイコスの森
「バーント、バンシーか?」
「ああ、ヘンリス、こっちのは生きてるみたいだぞ」
「ジャクダウ、ちょっと見てやってくれ」
「カリハ、頼んだで」
「は~い」
なんか声がしている。
相変わらず簀巻きのままだが、体が痛い。どうやら投げ出されたらしい。
不意に頬に突かれた感触がした。
─フニフニフニ フニフニフニフニフニフニフニフニ
し、しつこい。
─フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ
「だ〜」
「目、覚ましよった。ジャクダウ様、目覚ましよったで、こいつ」
─フニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニフニ
あ〜、目覚めたって分かったなら、つつくの止めて。
そんな事を思いながら、頬をつつき続ける木の枝を躱しながら目を開けると、目の前に女の子がいた。
小振りな顎に小さな鼻、口角の上がった薄い唇、ちょっと吊り目気味の赤茶色の瞳。薄っすらと日焼けした白い肌と真っ赤なショートヘア。気の強そうな印象。確か、カリハと呼ばれていたような。
「何をジッと見てるん?変態?」
「あっ、いや…………」
急な変態発言に戸惑っていると、カリハは一際口角を上げた。
「ジャクダウ様、これ変態です。死なしときます?」
否定の意味で精一杯身体を動かすと、「変態イモムシ」と、さらなる言葉を浴びせられた。
「カリハ、イジメたんなや」
ジャクダウと呼ばれた少年が近寄ってきた。
◇◇◇
「─で、ここで迷子になってたら、君を発見したというわけだ」
簀巻き状態から助けてもらった僕は、バーントという男と話をしていた。
彼らは五人組の冒険者パーティーであり、クラフダンジョンを攻めようと帝都まで来たけど、ヒナギ山をショートカットしようとして迷子になってしまったらしい。
正確には、『マイコスの森』という、『マイコス・グランバートル商会』お抱えのA級冒険者グループのバーント、ヘンリスと、今ここにいないリーダーであるラチェアの三人に、ジャクダウとカリハの二人が仮組みして五人で動いているのだそうだ。
バーントは、二十代半ばの軽装に盾を持った無精髭だが真面目そうな茶髪の人族の男。
ヘンリスは、棍棒のような鉄の杖を持ち、部分鎧を身に着けている。背が低く、筋骨隆々で整った長い白い顎髭の、まるでドワーフかと思うような人族の男。
ジャクダウは、同い年くらいの男の子、身の丈にあっていない大斧を担いでいる。金髪碧眼の整った顔立ちから、何処となく貴族的な雰囲気がするが、くだけた口調とチグハグな印象がある。
そして、カリハは、少し下の年に見えるが、体型からは小人族の血が入っているような、でも身の丈以上の荷を背負っている事から力補正のあるドワーフの血が入っているような感じの女の子だ。ちなみにパーティー内の役としては、ポーター(荷運び)らしい。
「にしても、バンシーに泣かれて無事だったとは、運のいいことじゃ」
バンシー(Banshee)、『泣き女』とも呼ばれるモンスター。年頃の女の姿で現れ、泣きながら死ぬ運命にある人を指差すと言われる。また、その悲鳴のような叫び声は、生きとし生けるものの五感を麻痺させ、死の呪いを与える。
ヘンリスの言葉に周囲を見回すと、三体の黒衣を着た死体があった。
三人の内の一人は、執事長であった。
義兄の死体は無かったので、生き延びたのだろう。
確か、七人いたはずなので、四人は助かったのか。
死んだ三人共、見たこともない引き攣った表情をしていた。
「大量。大量。肉が取れたぞ〜」
女の声が近づいてきた。
『マイコスの森』リーダーのラチェアである。
「おっ、生き残りがいたのか」
ラチェアは、二十代前半くらいの女性に見えた。
しかし、透けるように白い肌と大きく尖った耳からエルフの血が入っているのが分かる。一般的なエルフより背が低いので、少なくともクウォーター以上、ハーフかもしれない。でも、そうすると、見た目以上の年齢ということになる。
ラチェアは、ズカズカと大股で歩いてくると、僕の顎をとった。
突然の『顎クイ』にドギマギしていると、ラチェアのエメラルドのような鮮やかな緑色の瞳が、僕の瞳を埋め尽くした。金色にも銀色にも見えるギルバー色の柔らかなストレートの髪が鼻先に掛かる。
「男?女?どっち?」
「男ですわ。さっき、股突いたら、ありましたさかい」
「ふ〜ん、にしても、魔力高いね、スゴイ高いよ」
ラチェアは、僕の顎から手を離しながら聞いてきた。
「名前は?」
僕が『ジャリムス・エンファ』と答えると、一瞬、怪訝な顔で質問を続けてくる。
「で?」
「………………」
「で?」
「………………」
「で、なんでこんな所にいたか聞いてるんだよ」
グーパンが左頬に炸裂した。
荒い、この人、荒すぎる。
僕が、エンファ家当主と奴隷であった母との間の子である事、高い魔力で神童と呼ばれていた事を話すと、「それがどうした」と、更に殴られた。
理不尽…………。
【昊ノ燈です】
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