ダンジョンの湖
ユンシャウのダンジョン。
崩れた柵のある入口の中は、寒い程にヒヤッとしていた。
怪我をしたマドゥをキュラに任せ、僕は入口の陰から周囲を確認する。
追ってくる様子はない。逃げ切れたようだ。安堵の息を吐く。
「今のところは、大丈夫みたいだよ」
僕の言葉に安心したのか、キュラは覗き込むような仕草で、笑顔をこぼす。
この子のこういった表情って、反則だよな。
幼い子供特有のコロコロと変わる顔に、ついシリアスを忘れてしまう。
それに兎耳。ちょこっと生えた額の角に、ほぼ黒目だけの瞳。小動物的な可愛らしさと…………。
駄目だ、ダメダメ、今はそんな事考える場合じゃない。
「良かった。じゃあさ、ちょっと奥に行こ」
「えっ?」
「この奥にね、水が湧いてるの。マドゥ様の傷口を洗いたいの」
「でも、ここダンジョン……」
「大丈夫だよ。この辺はキュラの庭だから」
言うなり歩き始めるキュラ。
僕は、マドゥに肩を貸して後ろを歩く。
「うっわ…………」
辿り着いた水場は、神秘的だった。
洞窟の壁部、天井は、キラキラとした鉱石が発光し、静かに水を湛える湖を蒼く照らしている。
幻想的な風景に言葉が止まる。
「早く。マドゥ様をこっちに」
急かされるままにマドゥを水辺のベッドに横たわらせる。
曰く、この地底湖はキュラ達の村の人々が利用する癒やしの湖らしく、大怪我をした者の治療に使っていた寝台等も残っていたのだ。
「でも、ここって魔化したダンジョンじゃ……」
「あ、この層は大丈夫。下は知らないけど」
マドゥの傷口の洗浄に掛かっているキュラに聞いてみたら、あっけらかんとして答えられた。
湖を覗いてみる。
蒼く澄んだ水中には、一匹の魚も見られない。水草すら無く、湖底がユラユラと見える。ただ、自分にも感じられる程に魔素が多い。立ち昇るほどの魔素。
やっぱりダンジョンの魔化の影響か……。
キュラは村の治療に使用していたと言う。魔素が多いと怪我が早く治るのか?
そんな事、どの本にも書いてなかったけど……。
ただ、痛みは抑えられるのだろう、マドゥの顔から痛みを堪える眉間の皺が消えていた。
まっ、とりあえず────ドウン!
大きな音が響き渡る。
「えっ何?」
湖面が大きく揺れ、盛大に水を浴びたキュラが驚いて立ち上がる。
「上?奥の方?」
目を凝らすが何も見えない。ここから距離がある所で何かあったのか?…………と、思ったところでパキッパキッという音が天井部分から。
何かヤバイ気がする。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。
「逃げ──!」
僕が言い切る前に、キュラとマドゥが走りだした。
──ガシャシャシャシャシャシャ
崩落。
天井が落ちてきた〜!
入口方向は、もう無理。奥に行くしかない。
生き埋め。生き埋め。生き埋めになってしまう。
うっわ、キュラ速!
マドゥもマジな顔して走ってる。
僕も、今一度、人生で一番の速さで走るぞ~!
──ガラガラガラガラガラガラガラ
──バラバラバラバラバラバラバラ
──ガシャガシャガシャガシャシャ
にしても、崩れ過ぎでしょ。
前世で観た映画のワンシーンみたいになってるよ。
でも、こういった崩落のときって、砂煙が質量もって迫ってくるシーンって、本当なんだな。
って、それどころじゃない!
と、いう事で、下層に降りてしまいました。
モチベーションが…………。
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