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カリハと追う者達

 ジャムが消えた夜から二日経っていた。


 ネシュレトがしたことは許せないけど、それ以外に皆が助かる方法が無かった事は分かる。

 ジャムを魔力爆弾にするしか、あの場を切り抜けられなかった。そして、ジャムを崖下に突き落とす事が、ジャムを自分自身の魔力暴走から逃がす最良であった事も理解できる。

 一番許せないのは、その後の二人や。


 ジャクダウ様は廃坑への道を急ぎ、ネシュレトは探さない方がいいと言う。


 ネシュレトは、最後にジャムの事をジャリムスって言い間違えてた。確か、『ジャリムス』って、ジャムの本名違ったか?

 二人共、帝国出身やし、ネシュレトはジャムを知ってた?ジャムの方は知らんみたいやったけど。

 もしかして、ネシュレトの仲間いうのが探しに来てたのってジャムの事?

 ジャム、ダンジョンの餌にされかけたて言うてたし……。

 このまま火の所近くに行ったら、ジャムがネシュレトの仲間と遭遇する確率が上がる。せやから、ネシュレトは『探さない方がいい』言うたんか?

 それとも、このままジャムが死んだほうが良いと考えたんか?

 ネシュレトの仲間が既に崖下でジャムを捕まえてるとか?

 分からん。



 火の所が廃村だとかろうじて見えた所で、ネシュレトと別れた。


 初めはイケスカン奴やな思てたネシュレトも、少し高飛車なとこもあるけど、いい奴やて思えてきていた。

 ウチが『ジャムと知り合いやったんか?』て聞いたら、いつも笑って誤魔化しとったけど、なんとのうジャムを可哀想がってた気がする。

 大体が、初めて見たジャムを女の子と勘違いせんかったんは、ネシュレトが二人目やった。あやしい。

 一番目はウチやけどな。



 別れ際、ネシュレトは小声で言った。

「怖い奴らがいるから、早目に隠れるんだぞ。廃坑なりダンジョンなり、入るならすぐに入っとけ」


 多分、怖い奴らいうのは、ネシュレトの仲間の事やろう。せやったら、こないな所まで同道させんなや。

 まあ、奴一人やったら、絶対にココに来るまでに死んでた思うけどな。


 って、ネシュレトの言葉を思い出したのは、今、まさに追われてるからやけど。


 なんや?

 何で急に魔法撃たれんねん!

 急にビシーッて雷が走ってきた。

 おそらく、三人。

 笑うような声がした。

 まるでネシュレトのような綺麗な魔法。

 魔法の腕と追いかけてくる様子にチグハグさを感じる。

 バタバタと走ってきて、魔法を撃つ。温室育ちの魔法使いが、兎狩りでもしているような……マンハント?

 そんな言葉が思い浮かぶ。


「カリハ、右から来る」

 ジャクダウ様の声に反応して、左に抜ける。


 ジリ貧や……。

 いくら下手な追跡やいうても、向こうは三人。

 何か手は……。


「カリハ、斧任せてもいいか?」

 ジャクダウ様の大斧を手渡され、両手が埋まる。

 「このまま真っ直ぐ進め」

 指示のまま進む。


 ジャクダウは身を沈め、藪の中に消える。


 囮だ。

 大きなバックパックに大斧。

 相手からすれば、実に追いやすい兎だろう。


 雷撃が横を掠めていく。

 遊ばれている?


 地面に着弾した雷撃が足場を穿ち、バランスを崩す。

 転倒。


 若い男達の声がする。

「やった。俺のがヒット」

「どんなだ。女か?」

「ここからは分からん。でも、逃げたのは女のガキだったろう」

「ん?そういえば、あんな荷物を持ってたか?」

「あ!人違い?」

「まぁいいじゃないか。殺したら一緒だ」

「遊べたらラッキーだな」


 ゲスい!

 人違い?

 何、こいつら。

 ヤバイ、近付いてくる。


 見えたのは二人の男だった。

 ジャクダウ様よりも少し年上くらいの、揃いの豪奢な装束を纏った男。ネシュレトと似た服装。


「女じゃねぇか」

「とりあえず、手足を潰しとくか?」

「ところで、ハシャトはどうした?」

「はぁ?左から回っていったろ」

「いや、見てねえ」

「お〜い、ハシャ──ブツッ」


 男の一人が、仲間を呼びだそうと、大声を上げた時だった。

 不意に喉元に添われたナイフが、男の喉を裂く。


 ──ゴプッ……シャアァァァァァ


 大きな気泡の後、鮮血が吹き流れる。


 いつもの大斧から小型のナイフに持ち替えたジャクダウが背後から男を始末していた。


「なっ!」

 驚き、距離を取ろうとした残る男。


 転んだまま、ジャクダウから預かった大斧を薙ぐ。


 遠心力のついた大斧が男の両脛を砕いた。


「グッ痛。なっ……なっ……、待ってくれ、じょ……冗談だよ。冗談」

 途端に弱腰になる男。

「ま、魔族のガキを追ってたんだ。魔族だぞ魔族。人類の敵だろ」


「…………ふっ!」

 ウチから大斧を取ったジャクダウ様が、振り上げて、下ろした。


 ズバッという音がして、男の首が落ちる。


「ジャクダウ様、もう少し情報を聞き出してからでもよかったんちゃいます?」

「人違いなんやろ、だったら関係ない。急いで廃坑に行こ」

「でも、確か、もう一人おったんちゃいます?」

「殺した」


 あっけらかんと言うジャクダウに、なんとも言えない不安を感じた。



 ◇◇◇


「ジャクダウ様、魔族って、この辺にもいるんですか?」

「聞かんな」

「でも、さっきの人、魔族のガキを追ってるって言ってましたよね」


 魔族。

 比較的人種について緩いリュンシハ国でも見かけない。

 目が紅くて、角が生えてて、凄い魔力を持ってて、エルフ並に長寿命という噂を聞いたことがある。

 物語の中では、邪神を崇拝して世界を乗っ取ろうと戦争を起こした話もある。


「怖いですね。戦争起こすんでしょ」

「阿呆か。戦争なんぞ、人族同士でも起こすやないか」

「あ…………」


 そうだ。ジャクダウ様の領も戦争でなくなった。


「それに、昔は魔族もそこいらによくおったらしいで」

「えっ、でも、今は見いへんけど……」

「殺されてもうたんやないかな。ほら、こん近くのダンジョンも魔化したいうやろ。そこな、魔族を虐殺したから呪われて魔化したいう話やで」

「ちょ、ちょっと、あきまへんて、帰りましょ。危ないです」

「ビビリやなカリハは。噂や噂。そろそろ行くで」

「あっ、うん…………」


 魔化。

 極端に魔素量が増えて、生態環境に影響を及ぼす現象。獣の魔獣化頻度が上がり、魔素過敏症、鱗肌症や獣化等の人体にも影響が現れるとされている。人族の亜人化の原因と考える説もある。


 

【昊ノ燈です】


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