僕と二人
僕は、闇の中に落ちていった。
「────。」
目が開かない。声がでない。身体が重く、四肢が動かない。
あぁ、コレは死んだかな?
どのみち、動けなかったら死ぬのは必定だし。
でも、カリハたちは助けられたかな?
魔法陣を壊されると、あんな感じになるんだな。
う〜わ、身体に残ってた魔力も全部持っていかれた感じ。
怖い。
痛い。
開かない瞼越しに感じる明るさから、既に夜が明けたというのは分かる。
「──コレ、死んでます?」
「K CURUrupa」
「でも、動きませんよ、マドゥ様。キュラの知っている感じだと、死んでますよ、コレ」
「NURA……」
ん、声がする。
幼い女の子の声と、低い男の声。
マドゥ様?マドゥ?マドゥ。
「マ……ドゥ……?」
自分からでたのは、思いの外、掠れた声だった。
喉が痛い。
「とぅおった!しゃ……喋りましたよ、コレ」
「GUFAOwo」
口に水袋が当てられた。
何か助かったみたいだ……。
何か助けられたみたいだ……。
◇◇◇
僕を助けてくれたのは、マドゥさんとキュラという獣人の女の子だ。
兎の耳に額から生えた一本角。白い。全体的に白い幼女。
僕は、今までの経緯を伝える。
キュラからも、教えてもらう。
獣人の村があった事。
人族の男達が来た事。
オークの襲来と、討伐。
人族の裏切りと、蹂躙。
捕まっている妹と友達。
逃げ出した自分。
森の奥で出合ったマドゥ。
マドゥに助けられて、森にいる。
ツラい話だった。
同じ人族として申し訳なかった。
「酷い…………」
言いながら思い出すのはネシュレト。
仲間の所に行きたいと言っていた。仲間とはぐれたと言っていた。そして、仲間は火の元にいると……。
そして、キュラは人族と言っていた。どこの国の人かなんて分からない。
もし、帝国の人間であれば、他種族、他民族の命なんて、虫けら以下だ。
「カリハとジャクダウが危ない!」
立ち上がろうとする僕の肩をマドゥが優しく押さえた。
「IUODV」
「今は、身体を休めろって。あの上から落ちてきたんでしょ、生きてただけでも奇跡なんだから。それに、魔力も尽きてるみたいだし」
◇◇◇
食事をとった僕らは、ゆっくりと歩き始めた。
マドゥは、優しかった。
傷だらけの僕の身体は、練り込んだ薬草だらけで、動き難かったけど、いつでもマドゥが手を貸してくれた。
僕らは、ジャクダウ達を追った。
キュラの心は、妹達を取り戻したい、村の皆の敵討ちがしたいという想いと、あの男達から逃げたいという反する想いに揺れているように見えたが、それ以上に、マドゥを巻き込みたくないという想いが強いように感じた。彼女もまた優しい。
「──で、そのジャクダウって人、信じられるの?」
「えっ?」
「だって、マドゥ様のお宝を盗んだ人なんでしょ?」
「えっ?」
「JASSImmno」
「はい。マドゥ様」
「Ttce」
「え〜」
キュラは、マドゥと話をする。
何故、言葉が分かるのか聞いてみると、『愛』なんだって。
『愛』って何?
そんな事で言葉の壁が越えられるの?
なんて事で気を紛らわしている自分。
気になるのは『ジャクダウが宝を盗んだ』って事。
魔法陣が飛ばせなくなった自分の事。
魔法陣に魔法を当てられて起こった魔力暴走。魔法陣が砕ける瞬間に感じた全身を穿く痛みが、心に残る。
わかっている。理解している。自分の心の問題だと。
ついさっきも、一匹の魔獣が襲ってきた。僕は左手を前に魔法陣を飛ばそうとした。でも、左手の前に現れた魔法陣は小さく、動かなかった。
魔獣の首を落としたマドゥが、優しげに頭に手を置いてくれたが、僕は立ち尽くすだけだった。左手の魔法陣は、ゆっくりと消えていった。
唯一の攻撃手段を失った僕。
そんな僕の希望通りにマドゥたちは、ジャクダウたちの後を追ってくれている。
幼いキュラですら、自分の望みを叶えることを諦めているのに、僕は望みを捨てられない……。
森の中を歩き続ける。
◇◇◇
「でもね、そのジャクダウって人がマドゥさんの部族の宝を盗んだ事については、話せないの。マドゥさんが話すなって言うから」
キュラが申し訳なさそうに話した。
「マドゥさんの部族ね、もう無いんだって。戦争に巻き込まれて滅んじゃったんだって。だからね、せめて部族の墓にね、部族の宝を返したいんだって。火事場泥棒みたいな感じで盗まれた宝であっても、部族の伝統通りに正々堂々の試合で取り戻したいって……。男だよね、マドゥさん。だから、キュラもマドゥさんの気持ちを汲んで、何も言わないの!」
全部言った。
なんとか…………。




