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迷子のネシュレト

 廃坑の道すがら、今出てきた森を見下ろす。

 黒く広がる大海のような中に、今でもポツンとあの火が見えた。大きな物が燃えているようであるが、燃え広がる様子もない。どこかの部族の集落が成した火なのであろうか?

 何にしろあそこに近付く事などしない。

 森の中で此れ見よがしに、あんな大きな火を起こしているのだ。余程の好戦的民族か呪術的要素の高い民族に違いない。

 見つかったらいきなり攻撃されるとか、生贄にされたりとか、怖すぎる。



 カリハが声をかける。

「ジャクダウ様、鉱山の入口て、こないな上の方にあるんです?」


 確かに。

 本の中でしか知らないが、普通に考えても、こんな山の上の方に入口があったら、排出が大変ではないか?


「いや、もっと下の方やで、ただな、山の向う側やねん」

「えっ、だったら麓をグルッと回ったほうが……」

「んな事言いなや。麓をグルッて行っとったらな、ダンジョンの方に出てまうんや。魔化したダンジョンやで、道自体封鎖してるかもしれへんやないか」


 それに、国の管理者がいてるかもしれへんし……と、ジャクダウは言葉を濁した。

 えっ、国の管理者がいる可能性があるって事は、立入禁止区域に指定されてるって事ですか?

 お〜い。冒険者でも、ある程度の安全は考えようよ。ってか、自己責任の冒険者だからこそ、安全を考えようよ。

 と、その時、後方?下方?から声がした。


「お〜い、そこに誰かいるのか〜?」


「なんや?遭難者かいな?それとも管理者か?」

 カリハの言葉に、管理者がいて捕まったら面倒と、体勢を低く、声の主から気取られ難い位置で、様子を見る。


「誰かいたと思ったんだがな……」

 声の主は、若い男であった。片袖を失った革鎧、片方の肩紐が切れたバックパック。全身にこびりついた泥汚れの感じから、遭難者であることは、間違いないだろう。

 念の為と、ジャクダウのハンドサイン通りに魔法陣を準備し、隠れ続ける。

 対応は、ジャクダウが行う。


「お前、一人か?」


 急に現れたジャクダウの声にビックリしながらも、男は答えた。

「あ、ああ、今は一人だ。仲間とはぐれてしまってな」


「冒険者か?」

「ああ、帝国から来た」

「帝国から?」

「ああ、人探しをしている友人についてな」

「で、こんな森の中で人探しか?」

「途中でヘマして森に逃げ込んだら、今度は森でヘマしてオークの群に襲われた」

「どうヘマしてオークの群に襲われるか知らんけど、犯罪系か?」

「犯罪系って、ちょっと世間知らずなお坊ちゃん達が、ヤンチャしてしまっただけだよ」

「世間知らずなお坊ちゃん達のヤンチャって、想像しただけでもヤバげやけどな。で、そのお坊ちゃん達は、今何処に?」

「はぐれた」

「仲間が何処いるんか見当ついとんか?」


「あそこだ」

 男は、森に見える火を指さした。

「この旅のリーダーが、異常な程に暗いのを怖がる男で、夜になったら、いつも火を灯すんだ」


 はあ?

 夜が怖い?

 そんな奴が冒険者になるな!

 おそらく、ジャクダウ、カリハと気持ちが重なったと思う。


「いやいや、そんな奴が冒険者になるな、なんて思わないでくれよ。今、絶対にそう思っただろ?奴にも、理由と原因があるんだよ。でな、俺をあそこまで連れて行ってくれ」

「はあ?仲間の場所が分かっとるなら、行けや」


 この状況で、自分の依頼が断られると思っていなかったのか、男は狼狽えながら、ジャクダウに縋りついてきた。


「は?なんで受けない?俺がお願いしたんだぞ!」

「知らんがな」

「知らんて何だ。武器も失い、食料もポーションも尽きてしまった俺が、一人でたどり着けると思うのか?死ぬぞ。確実に死んでしまうぞ。良いのか?」

「だから知らんがな。助ける義理が何処にあるねん。だったら、そこ左に下りたら旧道があるはずや、そこから道沿いに行ったらどこかしらの町なり村なりに着くはずや。勝手に行けや」

「お前な、こんな世間知らずな俺が、一人で町に着いたとして、何ができると思う。何もできないどころか、町の者達に喧嘩を売った挙げ句に無視されて、居場所無く死ぬだけだぞ。この人殺し!」


 何か変だ。

 こいつ、何故、自分のヘタレなとこをこんなにも自慢気に、かつ当然なように交渉の材料にできるんだ?


 僕が、そう思っていた時、僕と同じく姿を隠していたカリハが、ジャクダウに話しかけていた。


「ジャクダウ様、途中までやったらええんちゃいます?」

「カリハ、出てきたんか」

「この阿呆、放っといたら死んでまうやろし、下手に助けても死んでまう。なら、保護者んとこに連れてくしかないんやないですか?」


「おお、レディ。君のような可憐な乙女がいたなんて、気付かなかったよ」


「きっしょいな。近寄んなや。なあ、ジャムもそう思うやろ」

「うん。途中まで送るのは、仕方ないのではないでしょうか」


 カリハに誘われ、暗がりから姿を現した僕を見た男は、明らかに動揺を見せながら言う

「ジャ…………、ジャムくんと言うのか?何故、途中なのかな?」


「あっ、せや俺も気になっとった。カリハも言うとったけど、何で途中なんや?」

「元々、世間知らずなお坊ちゃん達がヤンチャでヘマして森に逃げてたんですよね。世間知らずなお坊ちゃんが集まってんですよ、で、ヤンチャって。面倒以外にないでしょう?」

「せやせや、ウチもそう思った。世間知らずなお坊ちゃん一人で、こんなにウザいんや。集まったら大変やで」


 結局、僕とカリハの言葉が決め手となり、そこまで遠回りにならない程度の所まで送るということになった。


 男は若干不満気であったが、仕方ないと受け入れた。まあ、受け入れなかったら、置いていかれるから仕方ないんだけどね。



 でも、口には出さないけど、考えてしまう。

 あの男が帝国からやって来た。

 人を探していると言っていた。

 明らかに僕を見て、顔色を変えた。


 でも、そんな事じゃない。

 森に見えた火の光、山火事じゃないなら、今晩はゆっくりして、朝になってから動けばいいじゃないか!

 夜は、暗いから歩き難いんだよ。

 ほら、カリハも頷いている。

 

 でも、カリハは言っていた。

 あの男、変だ。

 僕を見て、女の子と間違わなかった。って、そこは別にいいじゃん。


 って、そうそう、男の名前はネシュレトって言うんだって。

 もしかしたらって思ったけど、やっぱり知らない名前だった。

やっとできました~!

読んでくださってありがとうございます。

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