キュラと怖い人 2
「いやいや、まだまだ──」
男達の中のリーダーと思われる男が、引き攣るような笑顔で言葉を返す。
「仕事が残っていますから……」
男達が一斉に村人に向けて魔法を放った。
「「「【Fire】」」」
「「「【Thunder】」」」
「「「「「「【Bind】」」」」」」
「なっ、何を──ボシュ」
「こらこら、何でお前達、攻撃魔法を使ってんだよ」
「そうだ、ここはバインドで動きを止めてから、ゆっくりとヤラないと」
男達の一人は、そう言いながら、魔法によって縛られている村人の頸をナイフで切り裂いた。
「ア……アガガガ…………」
「あ〜あ、苦しそうに。頸を切られて息ができないのに、のた打ち回る事もできないなんてな〜」
「卑賤な亜人種共が我らと肩を並べられると思うたか!」
「仕方がなかったとはいえ、亜人種なんかに助けられたなんて、末代までの恥ですからね」
「殺せ!」
「殺し尽くせ!」
虐殺が始まった。
オーク達が入って来ない為の柵は、村から逃げることのできない檻となり、堀は越えることのできないデッドラインとなっている。
笑っている。
笑っている。
魔法を撃ちながら、手足を砕きながら笑っている。
悪魔。
そうとしか思えなかった。
「なぁ、チクナルデル。亜人の女、姦っても良いか?」
「あぁ、下賤といっても、見た目だけは良いしな」
「国でも見たことない上物だよ。顔見るだけで疼いてくるよ」
「こいつらも、死ぬ前に高貴な精を受けられるんだ。本望だろう」
「違いない。獣人の分際で貴族に姦ってもらえるんだ。幸せな事だよな」
嗚呼、終わっていく。
村が、馴染みある人々が、友達が、両親が終わっていく。
「ん、どうした?」
男の一人が子供を引っ張って来た。
数珠繫ぎに並んだ子供達。
その一人一人は、結ばれているのではない。右肩の下のところにロープを通されている。
サシャナ!言葉が出そうになった。
妹がいる。
向いに住んでいたバリスラの後ろ。
サシャナの後ろはマキヨラ。
右肩と胸の間をロープが貫いている。赤い血がロープをの撓みから滴っている。
「チクナルデル、こいつら魔族ですよ」
「魔族?一角兎の獣人ではないのか?」
「一角兎は魔獣。魔獣ベースの獣人は確認されていませんよ。それにほら、黒目がちで分かりにくいですが、黒目の横、白目のところが真っ赤でしょう。赤い眼球結膜と角、魔族です」
「親に角が無くて、子供だけに角が有るから、変だとは思ったんだ。でも、獣人から魔族が産まれるのか?」
「分かりません。ですが、親の世代までは普通の獣人、子供の世代から魔族になったとしか考えられません」
「あり得るのか?」
「分かりません」
「クソッ、理由を聞こうにも、分かりそうな奴は殆どが死んだか壊れてしまったしな」
そう言いながら、チクナルデルと呼ばれていた男は、少し離れた所で行為の最中の男に声を掛ける。
「おーい、マクリース、お前のとこ──」
「うっ、いく。出る出る出る──【Fire】」
マクリースは、絶頂をむかえ、射精の瞬間に魔法を唱えた。
── ボウッ
── アアアアァァァァァァ…………
くぐもった炎の音の後、マクリースが抱いていた女の下腹が赤い光と共に一瞬膨らみ、萎みながら黒ずんでいった。
女の口から、声にならない悲鳴が聞こえる。
「ママ!」
声が出てしまった。
自分の口を手で押さえ、呼吸を落とす。
気付かれた?
気付かれてない?
止めどなく流れていく涙のまま、隠れ続けた。
「呼んだか?」
あっけらかんとしたマクリースの言葉に、チクナルデルは、呆れたように答える。
「いや、もういい。遅かったようだ」
「んなことより、見たか?俺の新必殺技『チン○ファイア』。チン○の先に魔法陣作ってんだぜ」
「ん……ああ」
「俺のチン○が火を吹くぜ!キャハハハ」
「すまない、アルキルゲーゼ。奴に振ったのが間違いだった」
「いや、あれは事故だ。君のせいではない」
「そういえば、この付近にあるダンジョンが魔化していると、聞いたことがあるが、その関係だろうか?」
「分かりません。が、関係していると考えても良いでしょうね」
「魔化か…………。ダンジョンが意思を持つなんてあり得るのかな」
「分かりません」
「ところで、その魔族の子供がどうしたんだ?」
「連れて帰るのですよ。もし、貴方の義弟……いや、義弟と言われるのは嫌なのでしたね。ジャリムスが見つからない場合、代わりに連れて帰るのですよ。魔族ですよ、ジャリムスなんかよりも高い魔力に決まっています。それに、この人数」
「一躍、有名人だな」
「個人で爵位も十分可能性ありますよ」
「家を出て、個人で爵位か!」
「可能性ですがね」
何故、笑える?
こんな酷い事をしておいて、何故笑えるのだろう?
キュラには分からない。
人族は壊れている?
それとも、こんな事を考える自分がオカシイのか?
分からない。
「ところで、何故、子供がボタンに糸を通すみたいに繋がれているんだ?」
「いや、初めは頸のところで結んで繋げようとしたんですけど、力加減が分からずに、一人縊り殺してしまったんですよ。まあ、この方が簡単ですし」
「剣で突き刺して、ロープを通すだけだもんな」
「やってみますか?」
「おう、やってみようか」
「そこに一人いますからね」
「ああ、そこにな!」
二人は、こちらを見ている。
見つかっている。
見つかっている。
見つかっている。
見つかっている。
見つかっている。
飛び出した。
駆け出した。
駆けた。
駆けた。
必死に駆けた。
後ろから、男達の声がする。
顔の横を魔法が飛んでいく。
背中に魔法が当り、よろける。
それでも走った。
心臓が熱い。
心音が煩い。
気が付いたら、森の中にいた。
どうやって、村を囲う柵を、堀を越えたのか覚えていない。
ただ、疲れた…………。




