キュラと怖い人 1
怖い人達が来た。
キュラたちは、山中の集落で隠れるように生活していた。
兎の獣人の村。
兎人と呼ばれる兎の獣人は、幾度となく人族に襲われてきた。捕まると、愛玩奴隷というものにされるらしい。獣人の中でも、特に人族に好まれる外見の兎人。それは、キュラのような子供でも変わらないのだそうだ。
お昼前、村の大人達が耳を立てて集まっていた。
暫くすると、キュラの耳にもその音が聞こえた。
カシャカシャという金属の擦れる音。
ズッズッズッという足を引き摺る音。
ゼイッゼイッという荒く呼吸する音。
十数人の音だ。
明らかに何かに襲われ、追われてきたと思われる者達。
大人達は、助けるべきか見捨てるべきかで言い争っている。
でも、あの者達が何から逃げているかが問題だった。近年、増えてきた凶暴な魔獣。あの者達が今のままの進路を通った場合、この村の近くを通ってしまう。また、途中で死んだとしても、その場所によっては魔獣が集まり、村が見つかってしまうかもしれない。
三人の男衆が様子を見に行くことになった。
暫くして、男衆は十六人の人族の男達を連れて帰ってきた。
正に疲労困憊、満身創痍といった様子の男達。
治療を終えると、丁寧な言葉で礼を返す。
「オークだ。オークの集団に襲われたらしい」
「この者達は、魔法が使えるらしく、共闘を申し込まれたので受けた」
男衆が村長に伝えると、集まった村人に衝撃が走った。
オーク。
豚鼻の亜人。集団で狩りを行う好戦的部族。強い腕力と、蓄えた脂肪がスタミナを支える。
奴らが近付いできたなら、村を捨てるしかない。
奴らの後には、おこぼれを狙うゴブリンの群れも居るはず。奴らの周囲は食い尽くされる。
もし、この男達が本当に戦えるだけの魔法が使えるなら……。
もし、オークの群れとゴブリン達を撃退できるのならば……。
村を守れるかもしれない。
村長は、そう判断した。
男達が食事をし、魔力の回復に努める間、村の男衆は総出で柵を作り、堀を掘る。
女衆は、戦時食である兵糧を準備し、男達の軟膏を塗り替え、包帯を巻き直す。
子供衆は、男達の為に魔力回復に効果のある木の実を準備する。
キュラも、他の子供に混じって男達に木の実を渡した。
男達は、満面の笑みと丁寧な言葉使いで返してくるが、何か怖かった。笑顔の瞳の奥にある冷たい物を、キュラは感じていた。
夕方になり、お日さまが橙色に染まりかけた頃、オークの姿が見えた。
大きな大きなお腹に、丸太のような腕と短い足。潰れた饅頭みたいな頭に、正面向いた豚鼻。豆粒みたいな目に、牙の生えた大きな口。
この辺りで見たことは無かったが、ママに聞いた通りの姿がそこにある。
キュラは隠れた。
家の下の僅かな隙間に蹲るように。
オークが怖かった。
でもそれ以上に、男達が怖かった。
何故か怖かった。
初撃は、ウルノおじさん。
キリキリと引かれた弓から放たれた矢は、一体のオークの胸元に刺さる。
そこから一斉射撃が始まった。
雨のような矢の中、オークの歩みは止まらない。
魔法を使うという男達は、数人ごとに輪になり、聞き慣れない言葉を唄のように合わせている。
オークの先頭が堀まで近付いたところで、男の一人が叫んだ。
「調った!伏せろっ!!」
「「「「「「「「「「「「【Arges】」」」」」」」」」」」」
アルゲース。
落雷を冠する単眼の巨人の名前。
数人で魔力を合わせ紡がれた魔法は、その名の通り、前方に幾重もの雷の幕を降ろしていた。
耳を劈くような轟音がしとどと濡れる雨のように続く。
大気が震える。
肉と木の焼ける臭いが鼻孔の奥を突く。
「や、やった……」
「凄え……」
「一瞬じゃないか……」
「「「勝った~!」」」
歓声が沸き起こる。
「教科書通りの同調魔法でしたね」
「あぁ、でも、グループ内で詠唱を合わせながら魔力を調整するのには時間がかかるのが問題だな」
「それにしても、一発で三チーム共に成功するなんて、俺等凄いんじゃないか」
「ああ、これから俺達のサクセスストーリーが始まるんだな」
男達も、互いを褒めあっている。
「君たち、凄かったな」
「君たちの力添えが無かったら、この村はなくなっていたよ」
村の大人達が男達を褒め称えながら寄ってくる。
「いやいや、まだまだ──」
男達の中のリーダーと思われる男が、引き攣るような笑顔で言葉を返す。
「仕事が残っていますから……」
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