クラナギ管理区域
頑張りました。
ヒナギ山。
帝都より西北西にある鬱蒼とした樹木に覆われた低山。帝都の西のクラフダンジョンを含んだ一帯をクラナギ管理区域と呼ばれている。
「クラナギ管理区域に入ったんですね。管理区域って言っても、壁で囲まれてるとか、管理人が居るとかではないんですね」
わざと明るい調子で言ってみるが、返事はない。
分かってます、分かっています。返事なんてしたくないですよね、僕なんかに。
自由になる首から上を回しながら、周囲を見る。
「僕は縦穴に放り込まれるんですよね──ボクッ」
再度声を出してみた僕に返ってきたのは、頬への打撃だった。
口の中にドロッとした鉄の味がする。
分かりました。
黙ります。
しかし、自分で言ってみて疑問になるんだが、確かに管理区域と言う割には、国として何の管理もしていないように感じられる。
自分が殺されるだろうと思ったときから、一応調べてみていたが、殆どの場合は、ダンジョン送り手足の筋を切った後、ダンジョンのある程度の層に放置するというのが、主な病死(?)。一般の人々が死んだ後もダンジョンに放置し、ダンジョンに吸収してもらうダンジョン葬というのがあるくらいなので、理に叶っているのかもしれない。
ただ、魔力値が高い者の場合は、ヒナギ山に幾つかある縦穴に放り込む場合があるのだという。
ここで、僕の考察だけど、ダンジョン放置やダンジョン葬はダンジョンにエネルギーを補給しているのではないか?
そして、クラフダンジョンの上にヒナギ山があるとするなら、ヒナギ山の縦穴はダンジョンに通じていて、より深層にエネルギーを届ける為に魔力値が高い者を縦穴に落とすのではないか?
だとしたら、魔力値の高い僕はが落とされる穴は、より深層、深い所になるのではないか。
つまり、管理区域の管理とは、縦穴の把握という事。
帝国経済の一部は、クラフダンジョンの恩恵によっているというのは、誰でも知っていることである。
そう考えてみると、縦穴の脇にある石碑。数字が掘られている。層数だろう。
どちらにしても、今の段階で手足の筋を切られていないのはラッキーだとしか言いようがない。
僕は逃げる!
絶対に逃げて逃げて生き抜いてみせる。
と、前世の知識(ラノベのテンプレート?)には、この辺でモンスターの強襲を受けて、僕を残して皆が逃げる的イベントがマストとして起こる筈なんだけど…………。
「神童が哀れなもんだな」
「所詮、異民族よ」
声が聞こえた。
義兄がいるのか?
黒いフード付きのマントに顔を覆うマスクという葬送服の集団の中に義兄の声がした。別の男と話をしている。こっちは執事長か。
義兄にも執事長にも良い思い出はない。
いつも陰日向から苛めを受けたものだ。
まぁ、その苛めも前世の知識(ラノベのテンプレート?)通りのものだったから、ちょっと笑えたけど、実際にされたら堪えた。特に御飯が貰えないのは辛かった。
って、今気づいた。
皆、葬送服って事は、僕、既に死んでる状況じゃない?
確かに簀巻きにされて担がれてるけど、これって死体って事。
うわ〜、無いわ。
「あったぞ、六十九層だ」
「最下層か」
─シクシク…………
男達の声の後に、泣き声が聞こえた。
女の泣く声。
途端に総毛立つ。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。
これヤバイ奴。
縦穴よりもヤバイ。すぐ死ぬ。
何とか耳を塞いで……って、簀巻きにされてるから耳が塞げない。
何とか…………あっ!
魔法陣!
何とか耳に小さな水の魔法陣を出して、心の中で呟く。
『水よーWATER』
ふっ、魔法が使えなくなったって言っても、魔法陣を湿らせる事くらいできるのだ。それに無詠唱なんて基本だしね。
─キャ……ァァァ…ァァ…………
叫び声が聞こえた。
テンプレ的には、ゴブリンかコボルトの襲撃だろ、なんでバン──。
僕は気を失った…………。
【昊ノ燈です】
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