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商人ハイゲンの勘違い

 ハイゲンは、ホクホク顔だ。


 年一回のユンリゲンへの仕入れ。それは、片道十日、荷馬車四台の長旅となる。しかも、途中からは、国の整備が整っていない田舎道をひた走ることになる。当然、盗賊や魔獣の襲来もある。

 遭遇するのが獣であったら、大きな音や火で追い払えるのに、魔獣はどうしてか、音や火で脅しても襲ってくる。

 毎回、冒険者ギルドに護衛を依頼するのだが、これが痛い出費だ。その上、ギルドの職員達からは、依頼料が安いと文句を言われるし……。冒険者の上前をはねて銭をもらっているグズ共が、自分の力で稼ぐ商人にツベコベ言うな。と、言いたい。


 いつもなら、役に立つか立たないか不安なEかFランクのクズ冒険者。時には、Gランクなんて年もあった。それが今年は、Dランク。それも『橙の麗人』。力量だけでなく、目の保養にもなる、嬉しい冒険者パーティー。もしかして、ウフフな展開もあるかもしれない。

 で、もう一組は『JKS』とかいう、駆け出しらしい。

 『橙の麗人』が受けてくれると分かっていたら、募集人数も減らしてたのに……。この二組に同じ依頼料を払うなんて、金の無駄。

 でも、今更、一方だけでいいです。なんて、言えないし…………。



 顔合せ。

 『JKS』は、年若い男一人と女の子二人の三人組。身の丈に合わない大斧を背負った、スカシ顔の男のハーレムパーティーか?

 女の子は二人共可愛い。一人は、気が強そうな感じが良い。それに、もう一人は別格。イカンイカン、儂にロリの気は無い。絶対に無い!もっとこう、ボン・キュッ・ボンな女を感じさせる妙齢な女がベストだ。絶対に!


 「護衛の仕事に、ガキが一人にお嬢ちゃん二人か、役立たねぇ」


 つい口から出た言葉に、『別格』な方が不満気な言葉で返してきた。


 えっ!男?


 『別格』が男?

 勿体ない…………。



 妙齢の女性三人が現れた。

 『橙の麗人』!

 噂では聞いていたけど、間近で見ると……そそりますな。

「いや〜。『橙の麗人』の皆さんに受けていただけるなんて。分かっていたら、六人も雇いませんでしたのに」


 正直に感想を言う。だって、そうだろう。Dランクの冒険者パーティーが、あんなガキ共と同じに扱われたら気を悪くするだろう。


「ホホホ」

「ちょうど日程が合いましたから」

「ジャムきゅん…………」


 んっ?

 なんか、言葉に棘を感じるような?

 ジャム級って何?



 ◇◇◇


 『儂も、チヤホヤされたい……』

 それが、道程の最初に感じた事だ。

 同行する下男達も、指を咥えて見ている。


「ジャクダウ様、お疲れやないですか?」

「ジャムくん、喉乾いていない?」

「お姉さんが守ってあげるからね、ジャムくん」

「ジャムきゅん」


 モテモテか?

 ガキ二人、モテモテなのか?

 儂は依頼主なのに…………。



 ◇◇◇


 三日目にリャンシャンテの管理区域を出る。

 ここからの道は、舗装され続けている左の道と、舗装されていない直進に別れる。

 進むのは直進。ガタガタ道が馬車内に響く。


 ここからは、魔獣との遭遇確率が上がる。


「皆さん、気を付けてくださいよ」


 その声に反応したのは、ジャムという男の子。目を輝かせて、大きく頷いている。

 お前に言ったんじゃないよ。と、言いたいけど、可愛い。くそっ、儂はノーマルだ。爪の先程も戦力として期待していないガキだが、観賞用に良いかもなんて、思っていない。絶対に思っていない。



 左右に木々が繁りだした頃。


「左に魔力反応。数は10、11……14、14個体。サイズから犬、又は狼に類する」

 『橙の麗人』リウが気配を察し、告げた。


 えっ、どこ?儂には見えん。

 流石、Dクラス、頼りになる。


「おそらく、犬だね。『シャッキードック』だろう。と、いうことは囲まれてるってことはないだろうから…………ジャムくん、ジャクダウ行く?」


 サリファンの言葉に耳を疑った。

 シャッキードックといえば、ヘルハウンドの一種で、子牛程のサイズがある魔獣。それが14。どう考えても、この小娘然としたジャムという少年と、身の丈に合わない大斧の小僧に任せる?

 無理。絶対に無理だ。


「なあなあ商人さん。魔獣討伐した時の取り分は半々でええんやろ?」


 小娘が聞いてきた。

 たしか、カリハとかいったか?


「た、倒せるなら……全部やる…………」


「豪勢やなおっちゃん。聞いたかジャム。目一杯やってくれや」


 少女の言葉に、少年は笑顔で馬車の前に立つ。


 シャッキードックが森からゆっくりと歩み出してきた。

 大きい…………。

 そして、多い…………。


 ゆっくりとした歩みから、コンマで最速に変わる。

 土埃が舞い、黒々とした肢体が上下に揺れ、迫ってくる。

 開かれた口からは、赤い舌が垂れ下がるのが見えた。

 ハッハッという、呼吸音が聞こえてきそうになる頃、少年はしゃがみこんだ。


「もう駄目だ!」

 言葉が漏れた時。


 飛び掛かろうとしたシャッキードックの群れが止まった。

 一斉に止まり、口を開けたまま倒れた。


 少年の前方の地面には、巨大な魔法陣。

 薄く煌めいている。


「んなら行ってくるさかい、止めてんかジャム」


 ジャクダウという小僧が駆けだす。

 振り回せると思っていなかった大斧を、事も無げに振りかざし、シャッキードック達の首を刈っていく。

 魔法陣が消えた大地を疾走し、大斧を振る。


「な……なんなんだ……コレは」

「ウチの男たちは強いやろ」

「あ、ああ…………」


 そう言いながら、少女はシャッキードックの死体に近付くと、手際よく捌いていく。


「ラッキー。討伐部位の犬歯14組と魔石11個ゲットや〜。それに今夜は犬肉のステーキ。残ったんは、塩振って陰干しして、簡易ジャーキー。大儲けや〜〜!」



 儂は、目の前で起こった事が信じられず、茫然としたまま、馬車の横で様子を覗っていたサリファンに聞いていた。

「なぁ、あの子等は何なんだ?」

「強いだろ」

「何が起きたんだ。何者なんだ?」

「JKS」


 サリファンは言い残すと、少年へと駆け寄る。

 既にリウとルーは、少年を抱きしめている。



「ええ買い物したろ、おっちゃん。今日はステーキやで、量も多いし、皆で食べんか?ええやろ?」

「ああ、ええぞ。ええぞ。良い買い物をさせてもらったからな。調味料は、儂の馬車から出そう。──もちろん、儂らも食べて良いんだろ」

「当たり前やがな。ウチ、好きやで、気前のええおっちゃんは!」


 ガキが……。

 小娘のクセに……。

 儂は、熱をもち、赤くなる耳を隠しながら、下男達にバーベキューの指示をだした。

【昊ノ燈です】


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