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カリハの悩み

 カリハに呼び出された。

 港地区下町の大衆食堂である。

 正直、相談事には『?』な店だけど、カリハらしいといえばらしい店である。

 二人で、遅ればせな昼食をとっている。


「ここな、値段と量のわりに安いねんで。味はイマイチやけどな」

「味がイマイチとはなんだ!」

「おっちゃん、客の話しに入ってくるもんやないで」

「カリハ。客だと言うなら、もっと儲けになるもの食べろ」

「嫌や。おっちゃんとこの高いのて、脂っ濃くて塩辛いやんか」

「ガキには、分からねぇ味なんだよ」

「だったらガキに、そんなん食わそするなや」

「ハイハイ分かったよ。いつもの煮込でいいんだろ。そっちの嬢ちゃんも、一緒でいいのか?」

「プフ〜。嬢ちゃんやて。おっちゃん、コイツ男や。それもウチより年上やで」

「えっ、あ、すまねえな坊っちゃん。で、コイツと同じもんで良いか」

「おっちゃん、同じもんでいいわ。それしかガキが食べれるもんないんやろ」

「分かったよ」


「ここの煮込みな、ちまい魚と根菜類を煮込んだものやねん。味付けは少しの塩だけやけど、魚からエエ出汁出てるし、魚の臭み消しに香草使てるから、全体に優しい味になってんねん。これやったら『嬢ちゃん』でも食べれる思ったんや」


 それまで、店主と掛け合いをしていたカリハが、こちらに向いて、言ってきた。優しさを感じながらも、ちゃんとイジッてくるところは、カリハクオリティだ。



「ところでな…………」

 一通り腹を満たしたカリハが、問いかけるように口を開いた。

「ラチェア様から聞いたんやけど、ジャム、お前、ウチと一緒にジャクダウ様とパーティー組むんやろ」


 僕は、食べきれない煮込に悪戦苦闘しながらも、首肯する。


「ウチがな、戦闘の役にたたへんからやろ」

 そう言いながら、一枚の紙を差し出した。

 折り目の傷んだ一枚の紙。『ステータスオープン』の紙。

「冒険者登録した時に作ったやつやねん。もう半年くらい前やね」



 ◇◇◇◇◇


【ステータス】


種族:人族

性別:女

年齢:13


体力値  :221(有効使用率19.8%)

魔力値  :78(有効仕様率93.1%)

物理攻撃値:302(有効使用率68.0%)


魔法属性 :風属性−

      土属性−−



 ◇◇◇◇◇


「酷いもんやろ」


 寂しげに俯くカリハ。

 紙を見ながら僕は呟く。


「体力値、僕の三倍以上……。魔力の有効使用率が90オーバー……。物理攻撃値が300って…………」


 使いもんにならん数字やろ。って、悲しげな顔をされても、それ以下の僕はどうすれば…………。コレは、僕をディスってる?今、弄られてるの?


「なぁ、聞いてる?」


 不意に顔が近付く。

 ちょっと潤んだ瞳が、上目使いで覗き込んでくる。

 可愛いんだよな。


 駄目だ駄目。今、そんな事を思う空気じゃない。


「あの……、僕よりずっと強いし……、実戦的な数字なんですが…………」

「そりゃあ、ジャムみたいに幼児なみの『虚弱』やったら冒険者なんてなろう思わんやろ。でもな、魔法陣飛ばすやなんて『変態』な技持ってるからな。特別やアンタは、特殊な『虚弱変態』と、ウチを一緒にしたらあかん」


 ちゃんとワードをぶっ込んでくるカリハ。


「で、その『虚弱変態』に、どんな質問が?」

「あ…………。いやゴメン。お前、むくれた顔、可愛いな」

「はっ?」


 いや、カリハさん、あなたの方が可愛いですよって、カップルか!って、自分に突っ込んでしまう。


「ゴメンて。気にしてたか?ファンクラブもあるいう噂やしな」

「えっ!そんなのあるんですか?」

「知らんのかいな。結構な規模のクラブらしいで。どうも、男も入会してるいうから、凄いわ。流石や」

「何が流石なんですか!で、本題は?」

「ゴメン、ゴメン。つい脱線してまうな、話が。でな──」


 カリハは本題に入ると、急に元気がなくなり、ポツリポツリと言葉を吐き出していく。


「ウチは、ポーターやんか。別にポーターが嫌いうんやないで。鉱物を探しとるジャクダウ様には絶対にポーターは必要や。そこに対して誇りも持ってる。でもな、戦闘でも役にたちたいんや──」

 実際、戦闘になると、非戦闘員のポーターは護られる側になる。今回、ラチェアがジャクダウと組むように薦めたのも、後方でカリハを護る戦闘員が必要と判断したからだろう。

 実際、後方からショートボウやボウガンで支援するポーターもいるらしいが、武器を持つくらいなら、もっと討伐証明部位やら鉱石を持ってほしいというのが、ジャクダウの意向らしい。

 それなら、そこに注視して戦闘の事を考えなくても良いと思うのだけど、僕が仲間になる事により、カリハなりの焦りを感じたのだろう。


「──でな、魔法が使えたらと思うんやけど、ウチ、魔法の素養がないやんか。で、変態的な魔法を使うジャムにアドバイスもらえたらなぁって考えてやな……あっ、変態的いうても悪い意味やないで、勘違いせんでな」


 悪い意味じゃない変態的って、何?とか思いながらも、再度カリハの『ステータスオープン』の紙を見直す。

 自分と比べると低いが、ちゃんと魔力もあるし、有効使用率も高い。属性についても、

「なあ、魔法の素養あるよ。」


「はあ?何言うてんねん。魔力値78やで、それに属性もマイナスやんか」

「一般的な成人で、魔力値は50あれば良い方だよ。ラチェアとか、周りが凄いだけ」

「ジャムも変態的に凄いしな」

「ここで僕の変態的はいらないでしょう。それに、属性も二つついてるじゃないか」

「はぁ?マイナスやで」


 よくある勘違いだ。

 魔法属性の+は、あくまでも一般認識の攻撃魔法に限定した値。有名なところでは、火属性魔法。+だと火の魔法が使える。−だと氷の魔法が使えるという事になる。光属性魔法だと、+は光を出し、−は暗闇を生む。

 風や土、精神状態に影響を与える闇属性については、−の例が少ないので、分かっていないが、確かに何かしらの魔法が使えると判断しても良い。


「だから、マイナスも大きな特性を持っているということなんだよ。それに、魔力の有効使用率に数字が出てるってことは、既に高効率で魔法を使ったという事」

「はぁ?ウチが魔法を使ってる?なんやそれ。まぁ、百歩譲って、魔法属性がマイナスでも何かの魔法が使える。ここまでは許すわ。んなら、土のマイナスは何や?」

「別に百歩譲らなくても、許さなくても良くない?」

「言葉の綾や、そこに一々食いつくなや」

「まぁいいけど……、分からない。土属性のマイナスについては、分かっていない。風も同じ」

「分からんて…………」


 ちょっと困った顔をしたカリハだが、顔を上げると、笑顔で見つめてくる。


「ありがとな。それでもウチが魔法使えるて分かった。なんやかや試してみるわ」


 潤んだ瞳も良いけど、やっぱりカリハは、笑顔が良い。


「本当にありがとな。ここの水代は奢るわ。これからギルド行って、聞いてくる」

「魔法ギルドに行ってみたら?」

「阿呆。あそこは入るだけで金盗られるんやで、冒険者ギルドで聞き込みするに決まってるやないか」


 勢いよく飛び出していった。


「坊っちゃん、カリハ、飯代払ってねえぞ」

「あっ、確か、彼女、水代奢るって……」

「水は、無料だ」

「ハハハ……、二人分お支払いいたします」

「なんか、すまねえな」


 僕は、店主と二人、カリハの飛び出していった戸口を見つめていた。

【昊ノ燈です】


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