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4.動機

 高校生たち3人を送った後、僕と南山田先輩は僕の部屋で一息ついていた。


「まさかこんな展開になるとはのう。瀬川君に来てもらって良かった」


「まあ、なんとか丸く収めることができたかな、と」


「しかし結局のところあの金貨はなんだったんじゃろうな」


「さあ、本物か偽物かでも意味が違ってくるでしょうし、それこそ想像ならいくらでもできますが。そこはもう僕らの手に負えるものじゃなさそうですね」


「まあ、そうじゃろうな。ところで幾つか聞きたいことがあるんじゃが……今回、横内君に目を付けたのは、さっきの説明のとおり277円がきっかけかの?」


「そうですね。あそこに入っていたのが本来の釣銭と合わせて10万20円なら、偽物を使ったドッキリとか、窃盗したのがバレそうになって隠したとか、考えればいくらでも想像できてキリがない。そうなってたら僕も考えるのを止めて皆と警察に同行していたでしょうね。あの小銭があったから『ひょっとして募金からでは?』と」


「それは分かるが、彼は何でその小銭までわざわざ自販機に入れたのかの?金貨と違ってただの小銭じゃろう。その分自販機前での作業も時間も余計にかかってしまうわけじゃが」


「彼にしてみればそのただの小銭も10万円、ひいては自分のささやかな不正に繋がる証拠に思えたんでしょうね。だから早く手放したかったんじゃないですか」


「なるほどの。それで瀬川君はその推測が可能か現場で自販機、防犯カメラ、募金用ペットボトル、客の入りを確認して自説を検証したと」


「ええ、某全国チェーンのコンビニのようにカメラの死角もほとんど無く、募金箱の造りも複雑なものであったなら、バイトがお金を取り出すなんて不可能ですからね。でも、あの店であれば僕の推測通りのこともあり得ることが確認できました」


 ちなみに北海道で大規模展開している某コンビニチェーンでは今回の店のように監視カメラ1台で募金用容器も改造ペットボトルを使用している店も多い。だからってこんな事件は起きないだろうけど。


「また、僕の説を補強する思わぬ証言も取れましたので、これは益々その可能性が高まったかなと」


「思わぬ証言?」


「オーナーさんの奥さんが言っていたじゃないですか。『横内君もそこら辺でフラフラしてる暇があるなら悠璃ちゃんを待ってあげるくらいしてもいいのにねえ』って」


「それが?」


「横内氏の家は悠璃さんの家の反対方向にあるんでしたね。店を出て自販機に硬貨を入れた後、もう1度店の前を通って帰ったところをガラス戸を通して見られたんでしょう。そんなわけで横内氏が帰りに自販機に寄った可能性は高くなったかなと。まあ、これに気付いたのは悠璃さんに電話を掛けてもらう直前だったんで奥さんに証言の裏を取ってる時間がなかったんですけど」


「ああ、成程。しかしそれでも状況証拠ばかりじゃないかの?瀬川君はどの時点で真相を確信したんじゃ?」


「ええ、決定的な証拠は何もありませんからね。正直なところ、彼がこっちの罠に掛かって10万円の目撃を否定するまで確信はありませんでした。それでも彼が『現時点で証拠がない』ことに気付いてシラを切られたらやっかいですので、『もう正直に話すしかない』と思わせるように言葉を畳みかけていきましたが」


「ああ、やっぱりそうじゃったか。何か瀬川君らしくない物言いだと思っておったんじゃ」


 そもそも警察の指紋採取がどの程度可能なのか知っているわけではないし、店の防犯カメラだってダミーの可能性もないではないのだ。かなり不確実な根拠をハッタリと勢いで胡麻化しての説得だった。


「それで事件自体には納得したんじゃがもう一つ聞きたいことがあっての」


「何でしょう」


「動機じゃよ」


「?はっきりしてるじゃないですか?」


「いや、横内君の動機ではなく、瀬川君の動機じゃ。瀬川君にしてみればただの他人の横内君を助けるために行動する理由が無い。かといって君『真実はひとつ!』とか言って何が何でも事件の真相を突き止めたいというタイプでもないじゃろ?むしろ八方丸く収まる嘘があるならそちらを選ぶくらいのはずじゃ」


 まあ、そのとおりだ。


「現に今日のオーナーとの話し合いの前にも『事実がバレてしまったからじゃなくて自主的にオーナーに話しにきたことにしてはどうか』と横内君に選択肢を与えておったくらいじゃしな。どうしてわざわざ今回の事件を解決しようとしたんじゃ?」


 あー、それは回りくどい話になるんだけど……まあ、聞きたいと言うのだから説明しよう。


「僕は今回の悠璃さんの話を聞いていて不思議に思ってたんです。『なんでこの子はコンビニ店員のバイトやってるんだろう?』って」


「ん?」


「だって悠璃さんって性格的に接客業とか向いてないでしょう」


「確かにの」


「貧乏ならお金のために苦手なことでもやらなくちゃならないかもしれませんが、あの高校に通っているくらいなんだから家はそこそこ裕福なんでしょう。それでも本人がファッションに興味があるだとかお金の掛かる趣味を持っているだとかであればその分を稼ごうということにもなるかもしれませんが、南山田先輩の話によるとそれもない。しかも彼女は平日のお客さんの入りについて伝聞したような話し方で説明してくれました。ということは、そもそもまとまったお金を稼げるほどシフトに入ってないんじゃないでしょうか。つまりどう考えてもお金が目的ではない」


「ふむ」


「一方でこのバイトに入るのにわざわざ中学時代の部活の先輩である横内氏に紹介してもらっています。中学時代の部活の先輩後輩って普通はそれもう『知ってる人』程度の関係じゃないですか。これって」


「バイトの目的は横内君、ということじゃな」


「事件の説明の端々からもそれは伺えましたし、オーナーさんの奥さんとのやりとりからも間違いないでしょう。彼女の性格からしてずいぶん勇気がいったと思いますが」


「そうじゃな。ん?じゃあ瀬川君は悠璃さんのために?彼女とだって初対面じゃろう?まさか一目惚れ」


「そんなわけないでしょう。僕の生活の平穏を守るためですよ」


「?話が見えんのじゃが?」


「ですからね、これで警察が捜査して話が大きくなったら横内氏がクビになったりするかもしれないでしょう?そしたら悠璃さんが悲しむでしょう?そしたら相談を受けた紅美さんも悔やむでしょう?」


「ああ、まあ、紅美のことじゃからな。そうなるじゃろう。あ、もしかして瀬川君、紅美に」


「じゃなくて!そうなったら南山田先輩!貴方絶対落ち込むでしょう!『ワシが気付いてなんとかしていれば』とか言って!で、落ち込んだ後は失敗を取り戻そうとしてアチコチで空回りしまくるでしょう!それに巻き込まれるこっちはたまったもんじゃないんですよ!だから今回は丸く収めてそうならないよう先手を打っておこうと思ったんです」


この人は本当に親身になって面倒を見る人で、それが人を動かす原動力にもなるのだが、その特性は時に、親身になり過ぎて自分自身を潰してしまう諸刃の刃になる側面もある。


「え、いや、そんなことは……ん、確かに以前そんなこともあったかもしれんが……あー、その節は済まんかったの……」


「ご理解いただけたようで何よりです」


「それじゃあ横内君と悠璃さんと紅美とワシを守ってくれた瀬川君に奢るぞ!今日は蕎麦なんかどうじゃ!」


「ですからそうじゃなくて僕の生活の平穏……まあいいや。喜んでごちそうになります」


 僕らは部屋を出て街に繰り出した。


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