2.現地確認
以上が悠璃さんの話だ。話し始めた当初は混乱が続いていたらしく、話が変な方向に飛んだりしては悠璃さんが謝って話を戻したりしてなかなか説明が進まなかったが、紅美さんが上手くフォローしていると次第に落ち着いていったようだった。
「で、そのお釣りがこれ、と」
公園内の東屋に入り、そのテーブルの上に並べられた硬貨を見て南山田先輩が言う。
硬貨のうち1枚は500円硬貨より一回り大きく金色に輝いている――スマホで調べたところ『天皇陛下御在位60年記念10万円金貨』にそっくりだった。
「なるほど、本物かどうかは分からんが、確かに合わせて100297円じゃの。最初聞いたときにはどういうことかと思うたのじゃが」
他の硬貨については百円玉が2枚、50円玉が1枚、10円玉が3枚、5円玉が3枚、1円玉が2枚といった内訳だ。
このうち10円玉の2枚は悠璃さんのお釣りの分だろう。
「自販機販促宣伝サービスの一環とかじゃろうかの?」
「な訳ないでしょう」
思わず僕が突っ込む。紅美さんも呆れたように先輩を見ていた。
「警察に届けなきゃと思ったんですが、もし盗まれた物なら私が疑われるんじゃないかと思うと……取り調べとか怖くて……どうしたらいいのか分からなくなって紅美に電話しちゃったんです……ごめんなさい、ご迷惑を……」
「なーに、迷惑でも何でもないぞ。ワシらの話で気が落ち着くなら何よりじゃ」
悠璃さんは、どうやら警察物のドラマのように個室で取り調べられるイメージを抱いていたらしい。
もちろん拾得物の届け出でそんな扱いを受けることはないので、その旨を南山田先輩と僕の経験から説明すると悠璃さんも安心したようだ。
「発見場所が少々おかしいが、身近に金貨の持ち主でも居るならともかく、悠璃ちゃんが窃盗犯として疑われることもなかろう。心配なら後で保護者と一緒に警察に届けても良いじゃろう」
「いえ、持ち主の方が困っているかもしれませんし、これから警察に届けに行きたいと思います。お二人のお話を聞いて安心しました。ありがとうございます」
「うむ、ワシらも一緒に行こう。皆ワシの車に乗ってくれんか」
こうして皆が南山田先輩の車に向かいだしたのだけど、どうにも気になることがあるので提案した。
「あ、ちょっと待ってください。警察に行く前に悠璃さんのバイト先に寄ってもいいですか。ちょっと確認したいことがありまして。そう時間は掛けないつもりですが」
「瀬川君がそう言うからには、何か重要なことなんじゃな」
「今のところはっきりとは言えないのですが。何かそうした方が良いような気がしまして」
「ふむ、分かった。悠璃ちゃん、紅美、そんな訳でちょっと寄り道したいんじゃが良いかの?」
「まあ、私はかまわないよ」
「はい、私も構いません。じゃあ、私がナビしますね。」
その店は公園からすぐ近くにあった。南山田先輩の車に乗っていったが、歩いても10分もかからなかっただろう。
店は人通りも車の行き来も多い大きな通りに面しているのだが、僕らが着いたときにはお客さんの車は1台しかとまっていなかった。
「交通量の多い割にお客さんは少ないんですか?」
「平日は時間帯によっては常連さんでかなり混むみたいですけど。今みたいな休日の昼間なんかは品揃えの確かなチェーンのコンビニにお客さんが行っちゃうんじゃないか、ってオーナーさんが話してました」
そして自販機は店の側面のサンルーフの下に1台設置されていた。
「ところで、悠璃さんのお家はどちらの方なんですか」
「ええっと、あっちの方ですけど」
と、悠璃さんは東の方向を指さす。自販機は店の東側面にあるので、南向きの出入口から出て自販機でドリンクを買った後はそのまま東側に向かって帰ることになる。
僕は取り敢えずその自販機の前に立ち周囲を見渡す。
自販機の設置された側面も駐車場になっており、開けてある程度広い範囲が見渡せる。
その後、僕は皆と一緒に店の周りをぐるりと一周した。
次に入口のガラス戸を開け、皆で店内に入る。と、店員のおばさんが話しかけてきた。ネームプレートに『ごだい』とあるので、この人がさっきの話に出てきたオーナーの奥さんのようだ。
「あら、悠璃ちゃん?帰ったんじゃなかったの?」
「え、えーと」
「あ、私がドリンク買いたいって逆戻りさせちゃって」
返答に詰まった悠璃さんを紅美さんがフォローした。
「ああ、そういうことなのね。あ、今日は残念だったわねえ。横内君もそこら辺でフラフラしてる暇があるなら悠璃ちゃんを待ってあげるくらいしてもいいのにねえ」
「そ、それは別にいいんですっ」
からかうような奥さんの言葉に、ちょっと慌てたように悠璃さんが返す。
その間、僕は店内の様子をざっと視ていた。
悠璃さんが『なんちゃってコンビニ』と説明していたとおり、店内のレイアウトは一見普通のコンビニだが、自家製の大福が並んでいたり、防犯カメラがレジ後ろの1台だけだったり、BGMが有線放送だったりと、やはり個人商店っぽさが残っている。
4人がそれぞれドリンクを購入する。南山田先輩が悠璃さんと紅美さんの分を含めて支払った。
僕の分も奢ってくれると言ったのだが、僕はそれを断って自分で支払った。
そして、帰り際、お釣りを入口近くに置いてあった募金用改造ペットボトルに入れて店を出た。
店を出る際、悠璃さんは五代さんに「また今度もお願いねー」と声を掛けられ「はい、こちらこそお願いします」と頭を下げていた。
店を出てから悠璃さんに話しかける。
「うーん、個人商店のせいか、何というか、普通のコンビニよりアットホーム?そんな雰囲気を感じたんですけど、どうです?オーナーの奥さんとも仲良くやってる感じに見えたんですが?」
「はい、オーナーさんも奥さんもとても優しくて良くしてもらっています。全国チェーンのコンビニでバイトしてる友達の話を聞いてそっちは大変そうだな、と感じましたので、自分は恵まれているかなと思いますけど……」
質問には素直に答えてくれるが、怪訝そうな表情を浮かべている。隣で聞いている紅美さんも同じような表情だ。まあ、それはそうだろう。なんでそんな質問されるのかさっぱり分からないだろうし。
ともあれ、僕はこの悠璃さんの回答を聞いて少し安心する。これなら円満解決できる見込みは有りそうだ。
「で、瀬川君、必要なことは確認できたのかの」
「ええ、大体のところは。それで悠璃さん、ちょっと連絡をとっていただきたいんですが」
「はい……?」




