1.あり得ない釣銭
ある日の午後、学内のエントランスで僕と雑談をしていた南山田先輩のスマホに着信があった。
「あ、済まん、瀬川君、ちょっと外すぞ」
数分後、通話スペースから戻ってきた南山田先輩はちょっと困った様子でこう言った。
「ああ、瀬川君、悪いんじゃがこれから行くとこにちょっと付き合ってくれんか。今、紅美から友人のことで相談があっての。これから詳しい話を聞きに行くんじゃが、瀬川君のアドバイスも欲しいと思うんじゃ」
紅美さんというのは南山田先輩の妹さんの1人で、確か市内の私立進学校に通う高校2年生だったはずだ。僕も何度か挨拶くらいはしている。
「それは構いませんが。何があったんですか?」
「その友人が自販機でお茶を買ったらお釣りが100297円出てきたんじゃとか」
「?なんですかそれ?」
「ワシにも訳がわからんのじゃが……」
詳細は分からないが、ともかく南山田先輩の車で紅美さんとその友達が待つという公園に向かうことにした。
「いずれにせよ警察に届けることになると思うんじゃがの。まあ、その紅美の友達、小沢悠璃ちゃんというのじゃが、彼女は自分が盗んだと疑われたりするんじゃないかと怖がっとるらしくての。紅美が言うには、警察と関わったことの多いワシから話を聞いて安心させたいということじゃ。それで同じく警察と関わったことの多い瀬川君にも助力をお願いしようと思っての」
「まあ、確かに多いですね。全部南山田先輩が原因ですけど」
「うむ、すまんの」
『南山田先輩が原因』というのは、この先輩の持ってきた奇妙な拾得物を一緒に警察に届けたり、その奇行に巻き込まれて職質を受けるはめになったりということであり、何か犯罪の共犯になったとか、警察も解けなかった難事件を2人で華麗に解決したとかいう話は一切ない。
「今、サラッとフルネームが出てきましたが、南山田先輩も面識あるんですか?」
「ああ、よくワシの実家に遊びに来る子たちの一人での。ワシも実家に帰った際に色々と話もしておる」
「結構昔から知ってる子なんですか?どんな子なんです?」
「いや、去年の春に紅美と同じクラスになってから仲良くなったそうじゃ。紅美の友人たちのなかでは大人しい感じじゃの。読書が趣味で、紅美達と遊ぶ都合が合わなかった休日には図書館に行くことが多いとか」
駐車場に車を止め、強めの風の中2人で公園に入っていくと、紅美さんが出迎えてくれた。
「えっ!?瀬川さん!?」
「うむ、ワシ同様に警察関連の経験豊富な瀬川君のアドバイスもあった方が良いかと思っての」
「何でそうなるの!?すみません、まさか瀬川さんにまでご迷惑をかけることになるとは思わなくて」
「ああ、いや、いいですよ。僕なんかでもお役に立つのなら」
すると、紅美さんの後ろにいた女の子が僕らに頭を下げてきた。この子が小沢悠璃さんらしい。
「す、すみません、あの、私のせいで。でも、もうどうすればいいのか分かんなくなっちゃって……」
「なに、紅美の友人のためならできるだけのことはするぞ。まずは詳しい話を聞かせてくれんかの」
「は、はい、えーと……」
そんな訳で小沢悠璃さんの話が始まった。
◇◆◇
~今から1時間程前のこと~
「横内せんぱーい」
悠璃はアルバイト先のなんちゃってコンビニであるセイユ―マートのロッカールームから出ると、同じシフトに入っていた先輩を呼んだが、彼の姿は見当たらない。
シフトの入れ替わりで入った店員のうち、オーナーの奥さんである五代さんが話かけてきた。
「あら、悠璃ちゃん?横内君ならもう帰ったわよ。残念ねえ」
「あ、いえいえ、いいんです。まあ、そうですよね……」
中学時代に同じ文芸部だった縁で、親戚が経営するこの店を紹介してくれたのが横内先輩だった。家が逆方向なので一緒には帰れないけれど、帰りの挨拶くらいしたかったのだが、ちょうど悠璃が着替えているときに母親から電話が掛かってきて話し込んでしまったため、その間に彼は既にレジのチェックや引継ぎ、着替えを終えて帰ってしまったようだった。
悠璃は店を出ると、店の側面に向かった。
普通のコンビニには自販機はないが、ここはコンビニを模した個人雑貨店なので店が管理しているドリンク自販機が設置されてある。
バイト後はその自販機で抹茶ミルクを買うのがなんとなく習慣になっていた。
自販機に150円を投入し、130円の抹茶ミルクを購入してお釣りを取ろうとお釣りの取り出し口を開ける
「な、何これ!?」
そこにはお釣りにしては多すぎる枚数の硬貨があり、そのうち黄金色に輝いている1枚には額面として拾万円の文字が刻まれていた。
「拾万円って……え!10万円!?」




