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三題噺④「桃色」「糸」「無敵のカエル」ジャンル「王道ファンタジー」

作者: 嘆木鳩

剣、魔法、拳、召喚術。人間たちは、ありとあらゆる力を使い、その昔、魔王を打ち倒した。邪悪な心を持ったモンスターたちは優しい心を取り戻し、人間たちも襲われる心配から解放され、世界に平和が訪れた。

しかし、人間の脅威は、何もモンスターだけではない。否、それ以上に強大な脅威が、人間たちを襲うのだ。


それは我々人類でいうところの、蛙の姿に酷似していた。毒々しい桃色の体、ぬめぬめとした皮膚、ぎょろりとしたな目からは、感情を読み取ることが出来ない。我々の知る蛙とは明らかに違っていた。

それは、あまりにも巨大な姿をしていた。ゆうに10メートルは超えるだろうか。この世界に生息するどの生き物よりもも巨大だった。なぜここまで巨大になったのか、何故いきなり現れたのか、それがわかるものはいない。

唯一わかることは、その蛙は捕食する側であり、人間含む全種族が、捕食される側だったということだけだ。


「やつをどうにかしなければならない。」

円卓に座る、王冠を被った精悍な顔の老人が声を発する。彼は、人類を代表する王だ。その昔、魔王を倒した元勇者でもあった。その場には、人間だけでなく、巨人族、エルフ族、獣人、小人族。その他、あらゆる種族の長達が集まっていた。皆、あの巨大な蛙によって甚大な被害をもたらされた者たちである。

「奴は我々を餌としか思っておらん。否、我々のみでなく、そのすべてが餌だ。家畜などの被害もある。奴に食われるか、食料が尽きて餓死するか。いずれにしろ、このままでは我々は滅びる。」

「だが、どうすればいいのだ。」

王の言葉に、巨人族の長が返す。

「我らも何もしなかったわけではない。精一杯の抵抗をしたのだ。だがあの巨大な体。われらの最も巨大な者と比べても倍近くある。力で押し切るのは無理だ。」

「そうだ。あの巨大な体には、わしらの得意な罠もびくともしない。」

小人族の長が悔しそうに続ける。

「魔法の得意な私たちエルフの魔法も、あの体にはあまり効果がありませんでした。」

そういったエルフの長は、少し震えていた。あの巨大な化け物のことを思い出しているのだろう。

「力も、魔法も、罠も、効果がない。まさに無敵ではないか。いったいどうすればいいのだ。」

その言葉に、皆が沈黙した。どうにかしなければならない、だがその方法がわからない。その絶望感をまとった沈黙であった。

「一つだけ、方法があるかもしれない。」

その沈黙を破ったのは、アンデット族の長だった。

「私たちは毒を利用したのだが、奴の体はさまざまな毒の抗体があるらしく、効果が薄かった。その後もあらゆる手段で抵抗したが、どれもうまくいかなかった。だが、一つだけ試していないことがあるのだ。」

「それはなんだ?」

人間の王が、先を促す。

「それは『呪い』だ。呪いは、影響に個人差があるにせよ、ありとあらゆる生物に効果があるものだ。奴も生物である以上、その効果を受けないわけがない。ただ、あれだけの巨大さとなると、即席の呪いは効果がない。入念に準備したうえで、奴の目の前で呪いを発動する必要があるだろう。」

「確かに、それは有効かもしれない。が、奴のことだ、われらが呪いをかけることを悠長に待ってはくれないだろう。時間をかけるとなるとなおさらだ。いったいどうすれば…。」

「それなら、役に立つかもしれない情報があるぜ。」

ここで、それまで沈黙を保っていた獣人の長が口を開いた。

「奴に対抗するために、奴のことを調べていた。どうやら見た目の通り、蛙の特徴があるようだ。暑さと乾燥に弱い。生半可な暑さでは効果がないにせよ、少しは有効なダメージを与えられる。だが、今重要なのはそこじゃあない。」

ここからが重要だとばかりに一息入れ、獣人の長は続ける。

()()()()()()()()()その間は完全に無防備な状態だ。魔法でも、剣でも、召喚術でも、何でも使いたい放題ということさ。ただ、冬眠中でも生半可な攻撃はできない。中途半端な攻撃だと、逆に起こして被害を拡大しかねないからな。だが、冬眠中に特大の呪いを与えるというのは、可能性のある話だと俺は思うぜ。」

獣人の言葉に、皆の顔が少し明るくなる。わずかに希望が見えたのだ。当然の事だろう。

ただし、と獣人の長が付け加える。

「もう一つ問題がある。それは、奴の冬眠する場所だ。奴の動きを観察して、冬眠する場所を割り出した。十中八九間違いない場所だ。だが、その場所が、あのヴェルドワールン迷宮だ。」

その言葉に、皆がざわつきだす。その迷宮は、あまりに巨大かつ広大すぎるが故、一度入ったら絶対に出ることが出来ないといわれている迷宮であった。当然どの種族も、その迷宮の正確な地図など持っているわけがなかった。

化け物を倒すすべがある。さらに、それを行う絶好の機会。しかし、化け物のもとにたどり着かなければ意味がない。長たちの顔は、またしても曇り始めた。

「しかし、行かねばなるまい。俺に任せてくれないか?」

沈黙を打ち破り声を発したのは、人間の王であった。

「いかに広い迷宮といえども、歩き続ければゴールにたどり着くはずだ。俺が、その迷宮に挑み、必ずや蛙のもとにたどり着いて見せる。」

「しかし、あまりにも危険すぎる。」

獣人の長は言う。

「確かに歩き続ければ、運が良ければあの化け物に会えるかもしれない。首尾よく呪いをかけ、倒すことが出来るかもしれない。だが帰りはどうする?そのまま野垂れ死ぬ気か」

「それも、考えがある。」

人間の王は続ける。

「我々の古い物語にこのようなものがある。昔、人間を食らう怪物がおり、迷宮の奥に住んでいた。とある勇者がその怪物を退治すべく、迷宮に向かうと言い出したのだ。それを聞いた王女は、その勇者に糸を授けたのだ。」

「糸?」

小人の長が疑問の声を上げる。

「そう、糸だ。戦闘に何の役にも立たない糸だ。しかしその糸が勇者を助け出した。勇者は、迷宮に入る際に、その糸を垂らしながら進んでいったのだ。そして怪物を倒したのち、その糸をたどって、無事迷宮から脱出したのだ。俺も、その方法で、迷宮から脱出してやる。」

長たちはその言葉に顔を上げる。糸というのは少々頼りないが、可能性はゼロではないと、思い始めたのだ。さらには、それを言っているものが、その昔不可能と言われていた魔王盗伐を成し遂げた者だ。わずかな希望であるにせよ、皆に勇気をともすには十分だった。

「人間の王よ。確かにその方法ならいけるかもしれない。だがあなただけに行かせるわけにはいかない。呪いのことを熟知している私も同行しよう。」

そうアンデット族の長が言った。

「迷宮の中にはどのような罠があるかわからない。わしも同行して、安全に進む道を切り開いてやろう。」

小人族の長が立ち上がりそう言った。

「あの巨大な迷宮だ。奴以外の魔物が住んでいてもおかしくはない。それらは、我が排除しよう。」

そう巨人族の長が続いた。

「あの迷宮だ、生半可な糸ではすぐに尽きるか、切れるかもしれない。私たちが魔法で強化した糸を用意しよう。」

エルフの長はそう言って、さっそく魔法で部下に指示を出し始める。

「なら俺たちは引き続き奴のことを観察しよう。奴が冬眠に入ったと確信したら、すぐにでも知らせてやる。」

獣人の長もすぐに動き出すべく、席を立つ。

こうして、全ての種族が力を合わせた、世紀の化け物退治が幕を開けた。


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