マルバツゲーム
彼の家で、おのおのくつろいでいるいつものメンバー。
「そう言えば今日は、おやつの時間にみんな遅刻していないね」
「そう言えばそうだ」
「ねぇ、アイスの天ぷらって知ってる?」
「は?」
飲み物を運ぶ彼。
おやつを運んでいる私。
「なに、ほんとの話?」
「そうみたい」
「君が言ったの?」
私を見るボーカル。
「はい。お母さんが小さい頃食べたことあるんですって」
ソファに寝転んでいたボーカルが突然立ち上がる。
「マル、バツッ、クイーーーーズッ」
そこらへんに転がっていた、おもちゃなのか本物なのか分からないマイクを握る。
何故か小指がたっている。
「またか・・・」
「僕、パス」
「わしも」
「うん」
「なんで?僕やりたい。何?」
「何ですっ?」
アップのカメラ目線のまま、ボーカルが言う。
「参加するぅ?」
私と彼だけがノリノリで応える。
『「する、するぅっ」』
「じゃあ、僕達は見ておこ」
「そうしよ」
「うん」
何故だか立ち上がるバンドメンバー。
「並んで~」
「そう、横にぃ~」
「こっち、こっち」
彼と私は目を合わせる。
何が起こるのかよく分からないが、とりあえずメンバーの横に並ぶ。
「あ、もうちょっと引きじゃないと全員映りませんよ」
「あ、ああ・・・」
視聴者から見たら、画面がうなずいている。
「え、今、誰がしゃべった?」
「カメラマン」
「なんだ」
カメラからちょっと離れて、みんなと同じ位置に立つボーカル。
「今から、編集力を使って瞬間移動だーっ」
私と彼がボーカルにいきおいよく振り向く。
『「まさか、アレをっ?」』
「場所移すよーん♪」
『「せーのっ」』
何故だか知っていたこの効果。
バンドメンバーと一緒にジャンプする私。
そしてジャンプせずに取り残された彼は、ヒーローが空を飛ぶ時のポーズをしている。
数秒の沈黙。
「あれ・・・?」
カメラ越しにカメラマンを見る彼。
あ、っと彼が空気を読んでジャンプすると、編集上、彼の姿も消えた。
瞬間移動先は、別スタジオ。
並んでいるメンバー。
そこに走って現れる彼。
「あ、来た。来た」
ぜーはーしながらの彼。
「やっとこれた・・・」
何があったのかは聞かない私達。
「じゃあゲームしようぜっ。あれを見よっ」
示した先には、大きくマルとバツが書いてある壁がある。
その映像に、いきなり入ってくるマイクを持ったボーカル。
やっぱり小指がたっている。
「やっほ。今日は僕が司会をつとめるよん♪これからふたりに、問題を出します。答える時に、二人同時につっこんでもらうからね~。覚悟はいいか~ぃ?」
『「イエーイッ」』
片方の拳をあげる彼と私。
「じゃあ、問題。アイスの天ぷらは、実際に存在しているかどうかっ。マルかバツで答えろっ。さぁ、走るのだ~」
「僕バツの方に走る~」
「じゃあ、私マル~」
「いけーーーーーーっ」
『「わぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」』
「助走、長っ」
壁に体当たりして、ぶち破る私と彼。
彼の方はふかふかのマット。
私が転んだ所にあるのは、大量のカラーボールだ。
数秒の間。
「え、どっちが正解?」
ふたたびカメラに自分からぐいっと寄ってくるボーカル。
「実際にお母さんが食べたことあるって言ってるんだから、このクイズしなくてもよかったの~~~」
『「はーーーーっ?」』