アフログローブ
「開いてますよ~?」
私は彼の家の玄関のドアが半開きだったので、ドアを開けてみた。
「知ってる~」
「あ。なんだ。みんなは?」
ソファに座ってマンガを読んでいたのは、ドラマー。
「おやつの時間用に買い物行ってるよ。多分余計なものも買ってくるだろうけど・・・」
「お留守番?」
「君が来るだろうから、ってね」
「えっ・・・」
「で、何それ?」
「あ、ああ、これ・・・アフログローブ」
私は首から下げていたアフロがついたボクシンググローブをテーブルの上に置いた。
「なんだ、新しい髪形かと思った。はめていい?」
「どぞ。トイレかりまーす」
「ご自由に~」
トイレに行く私。
グローブをはめようとするドラマーが、説明書に気づく。
「『ふわっと攻撃して下さい』・・・ふわっと・・・?」
玄関のドアが開く。
「たっだいま~・・・あれ?何それ?」
「アフログローブ」
「帰ったよ~・・・ん?何それ?」
「アフログローブ」
「戻ったぞ~い・・・なんだ、それ?」
「アフログローブ」
ドラマーに近づいてみるボーカル。
「わ~・・・片方だけキラキラ、なんかイヤだ~」
「ふわっと攻撃・・・」
ふわっとボーカルの顔を攻撃するドラマー。
アフロがほほを優しく包み込むように撫でていく。
「いっ、やーーーーーーーーっ」
「ボーカルーっ」
ソファに倒れるボーカルを心配したのか、ベーシストが駆け寄ってくる。
「なにするのーーっ」
「ふわっと攻撃・・・」
ベーシストにふわっと攻撃するドラマー。
「うわぁーっ。やーらーれーたーぁーっ」
ボーカルの上にわざと倒れこむベーシスト。
「次は俺の番だっ」
「ふわっと・・・」
ふわっとアッパー。
「ぐわっ・・・ガビーンっ」
ギタリストがわざとらしくよろめくと、ボーカルが叫ぶ。
「俺は本気でイヤがってるのっ」
トイレから戻って来る私。
「ああ、やっぱり戻ってたんだ。悲鳴聞こえたから気づいてました」
みんなが片手を上げて挨拶。
『「ただいま~」』
片手を上げて挨拶を返す。
「お帰りなさい」
「ふわっと・・・」
ふわっと攻撃されそうになる私。
開けたままの玄関から声がする。
「ただいま~。いいもの買ってきた~」
みんなが見ると、そこにはボクサーの格好に、アフログローブをつけた彼の姿。
『「ええっ?」』
「あっ、藤色のアフログローブだっ。僕のは青っ」
『「ええっ?」』
彼は抱えていたダンボール箱の、人数分のアフログローブを見せた。
「色違いだよ」
彼以外全員が、アフログローブをつけているお互いを想像した。
数秒の間。
『「ええーーーーーーーーーーーっ」』