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先輩ネタ多すぎです  作者: 阿垣太郎
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内臓破裂1

私が最も死にかかったエピソードです。

「本当にいいんだね」とドクターが確認の為か聞いてきたが、私はどうしようもなくだるくて、軽く頷くのがやっとであった。

「カンフル剤投与して」とドクターの決断が下ると、看護婦さんがガンガン注射して来たが、血圧が下がり過ぎていて痛みも感じなかった。

 死ぬんだなと思った私の脳裏に、過去のことが走馬灯のように浮かんでは消えた。そして新入社員歓迎コンパの前日に、近々死ぬような予感がして、東京でOLやっている大学のW先輩に電話で、「近いうちに死ぬ気がするんで、そんときは葬式の受付やってくださいね」と頼んでいたことを思い出した。

W先輩に「何、馬鹿なこと言ってるの」と怒られたが、私はこれで葬式のときも安心だなと思った。あまりのだるさに死への恐怖を全く感じず、死後の世界ってどんなところなんだろうと、あの世に行くのを覚悟していたとき、「先生、血圧が八十まで上がってきました」という看護婦さんの切迫した声が聞こえた。

ドクターから「よし、運べ」と指示が出ると、私はキャスター付きのベットに乗ったまま、ガーッと廊下を疾走した。手術室に到着すると、バン、バン、バンと手術室の天井の照明が点灯した。TVで観た事のあるシーンだなと思っていると、麻酔医らしきドクターが口元に酸素マスクのようなものを近づけて言った。

「はい、じゃあこれ吸って」

 私はただ言われるままに、出来る限りの力でガスを吸った瞬間、意識が飛んだ。


 次に私に意識が戻ってきた時、そこは天国でも地獄でもなく、病院のベッドの上だった。ベッドの横には、母が憔悴して座っていた。

「お母様ですか」とドクターが話しかけ、母が頷くと手術の説明を始めたので、私も耳をそばだてた。

「最初、盲腸が破裂して出血しているのかと思い、開腹したのですが全く綺麗だったので、別の所を開腹したところ脾臓が破裂していたので摘出手術をしました。二・五リットルほど出血したので大量の輸血をしています。この三日がヤマです」

 血圧の下が測れなくなる訳である。普通、人間は三リットル出血すると死ぬと何かで耳にしたことがあるので、あとロング缶一本で死んでいたんだと私は思った。躰に目をやると手にも足にも輸血だけでなく、いろいろな点滴の管が刺さっている。鼻からも管が入っていて、酸素マスクでかろうじて息をしている状態であった。

 あと三日と宣言された私は、目も見えるし、耳もはっきり聞こえるが、身体は鉛のように重く、全くどこも動かせない。私はこのまま植物人間になってしまうのかと思った。

「どうしてこんな事になってしまったんだ」

 週末に旅行に行っていて、日曜の夕方に病院にやってきた父親が絞り出すように唸った。

私はそれに答えてあげたかったが、しゃべることが出来ても、原因に記憶がなくて説明できなかった。

火曜日になると噂を聞きつけた大学の友達やら、高校の同級生が病院にやってきた。

女の子は皆、私を見るなり涙ぐんでいる。私が葬式の受付を頼んだW先輩も、お見舞いに来てくれた。前日に死ぬかもしれないなんて電話があって、それが本当になりそうになったので驚愕の表情をしていた。

植物人間状態の私に対する見舞客の言葉は遠慮がなかった。

「もう助からないね」と、大学の後輩の女の子はそう言ってハンカチで目頭を押さえている。

「俺、まだ喪服持ってないんだよな」と、高校の同級生も死ぬこと前提に呟いた。

「植物人間だと思ってなめるなよ。全部聞こえているぞ」と叫んで驚かしてやりたかったが無理だった。見舞客が皆ネガティブな反応なので、きっと死人のような顔色をしているのだろうなと思った。

私の病室は御陀仏の部屋と呼ばれるナースセンターのすぐ横で、その中でも最も入り口に近く看護婦さんがすぐに飛んでこられる場所にベッドはあった。その御陀仏の部屋でも一番あの世に近い患者に間違いなかった。


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