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第96話去る者と進む者③

「すごいねセフィちゃん、そこまで気づくなんて」


 セフィの言葉に、会長は少し寂しそうに笑顔で答えた。


「みんな最初は驚くんだよね。特にセフィちゃんみたいに、初等科から高等科の教室に来ると」


「みんな、いなくなっちゃうんですか?」


「うん、いなくなっちゃう。生徒会役員の学年がバラバラな本当の理由もそこにあるの」


「そうなんですね......」


 そういうものだと俺は思っていたが、それ以上の事情があった、そういうことらしい。


「みんながそれを知っているわけじゃないけど、先代の聖女がどんな結末を辿ったか、多くの人が知っている。だから自ずと察しちゃうんじゃないかな」


「でもおかあさんは、途中で聖女を引退しているから最後をしっているひとは少ないんじゃ」


「お母さん? あ、そうだったね。セフィちゃんのお母さん、ソフィ様だったんだよね? 嫌なこと思い出させてごめんね?」


「大丈夫です。それよりも」


「ソフィ様は子供を授かってすぐに、引退されたのはその通りだよ? それでもだからと言って、世界が完全に無関心なんてそんなことはできない」


「それは......」


 思い当たる節はあった。ソフィという人間を見れたのは、僅か一年という短い期間ではあったが、その間に何があったかは俺がハッキリ覚えている。


 ー毎日のように訪れる客。その大半が“聖女”としての彼女を頼ってくる人ばかりだった


 その頃にソフィは聖女ではなくなっているのはユシスの話から分かっている。


「おかあさんもおとうさんも、すごく大変そうでした。みんな、分かっているはずなのに何度も何度もやって来るんです」


「聖女はこの世界の中心人物。引退したとしても、誰もが聖女に救いを求めてしまう。だから誰も忘れるなんて事はできない。たとえ短命だとしても」


「それをみんな知っているから......」


 聖女の結末を嫌でも知ってしまう、そういうことらしい。


「ほら、これだよ。私がセフィちゃんに見せたかったのは」


 それからしばらくして、ようやく目的のものを見つけた会長が、数冊のノートを渡してくる。古いものから比較的新しいものまで、表紙には「生徒会日誌」と書いてあった。


「これは歴代の生徒会長、勿論私も記した学院の記録。ここには学院の歴史が記されているの」


「リラーシア学院の歴史......」


「セフィちゃんがこの学院の在り方に疑問を持つのもごもっともだし、私もそれが全部正しいなんて思ってない。けどそれがすべてじゃないって事をこれを読んで少しでも分かってほしいな」


 2

『どうせ誰も読むことはないから、持って帰っちゃっていいよ。全部読み終わるのに、かなり時間がかかるだろうし』


 その日から会長から借りたノートを手に、放課後は自分の部屋に引き籠もった。


(歴代の生徒会長が残した歴史、か......)


 日誌なので中身は大体が予想していた内容だった。その名の通り生徒会長の日記みたいなものだ。それも毎日記しているからなのか、変化もなく同じ内容だけが綴られている。


(これのどこに、セフィのやる気が出るような内容があるんだ?)


 気づけば日誌も二冊目後半になっている。恐らくこの日誌を初めて書き出したであろう人物は、エレクシア・マーベルという女性だった。記載時期はソフィがまだ生きている頃、約二十五年前。


『生徒会顧問に言われて、生徒会長としての記録を残していくことになった。正直あまり気が進まない。生徒会長になったのだって、周りに言われるがままだったし、何より学年の人数が少なすぎて適任がいなかった』


 最初のページから日誌というより愚痴に近い内容が綴られていて、本人としてもこの日誌を書くことに反対していたらしい。それを表現しているかのように、日誌の内容は常に短文で、早く終わりにしたいというような愚痴が書かれていた。


 ーしかしそれがある日を境に大きく変化した


『今日、聖女が亡くなった。とある病気が原因らしい』


 それはその頃にいた聖女が病死したという内容だった。とある病気というのは、恐らく俺が知っている病気と同じものだろう。


『ニュースによると、先代の聖女も同じ病気だったということが分かったらしいけど、もっと昔から同じ病気で亡くなっているのではないかと私は思う。詳しくは調べていないから分からないけど、どの聖女も恐ろしいくらいに短命だった』


 続きにはそう的を射ている内容が書かれている。


(この人は、自力で気付いたのか? 聖女の秘密に)


 その内容の続きは、別日の日誌にも記されている。


『例のことをあれから調べてみたところ、私の考えは間違っていなかったらしい。私達が目指している聖女はそういうもの、それが調査結果だった』


 更に別日。


『こんなに辛い思いをして目指した先が、こんなにも真っ暗だったなんてとても受け入れられない。何のために今日まで』


 これがエレクシアの最後の日誌だった。次のページには新しい生徒会長の名前に変わっていた。


 ー日誌の始まりにはこう記されている


『先日亡くなった前生徒会長エレクシア先輩に代わり、今日から私が彼女の意志を継ぎたいと思います』

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