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第95話去る者と進む者②

「おかえりセフィ、ずいぶん遅かったけど何かあったのか?」


 会長と話をしていただけあって、その日の帰りはすっかり日も暮れた時間になっていた。


「ちょっと調べ物をしていたら遅くなっちゃった。あ、でもひとりでは帰っていないから大丈夫だよ」


「ならいいんだが。調べ物をしたかったって昨日話していなかったか?」


「うん。きのうもそうだったから」


 昨日も今日と同じように例のことを調べていたら、同じ時間に帰ってくる羽目になった。しかも今日と違って、一人で帰ってきたのでかなり怒られた。


「そんなに熱心に調べたいものが、前からあったのか?」


「ちがうよ。最近になってから調べたいなって思っただけ」


「何でそんな急に」


 俺はそれ以上は答えることなく、自分の部屋に入って、荷物を置いてベッドの上に倒れ込んだ。


(セフィに見せたいもの、か)


 しかもそれはセフィの、引いては俺の学院生活への意欲を高めるものらしい。


「そんなに学校を嫌っているように見えたのかな」


 ついそんな言葉が漏れる。まだ会長とは二度しか顔を合わせたことがなかったので、彼女がどんな性格で、話の信憑性があるのか分からない。

 勿論本気でセフィの話を聞いてくれたなら、それに越したことはない。彼女が言っていた勝負の世界というのは本当だろうし、それで去っていく人だって本当にいるのかもしれない。


(まさかフランも? まさか、な)


 遠足の時も俺は思ったのだが、学院は生徒に対して厳しいところが所々見られる。遠足自体のイベントもそうだが、問題を起こした生徒に対しての処罰が厳しい以上に度を超している。会長が言っていたようにその環境の中で、心が折れてしまう人が多い、とのことだ。


「セフィちゃん、入っていいですか?」


 しばらく考え込んでいると、部屋の外からスイカさんの声が聞こえる。慌てて身体を起こすと「入ってください、スイカさん」と彼女を部屋に招き入れた。


「ご飯の準備ができたのでお呼びしたのですが、その前にセフィちゃんに聞きたいことがあるんです」


「聞きたいこと?」


「セフィちゃん、運動会が終わってから様子がおかしいですよね? 何か見てしまった、聞いてしまった、そんな感じが」


「......やっぱりスイカさんには分かってしまいますか?」


「これでも貴女の先生ですから」


(本当この人には敵わないよな)


 未だに彼女は目が見えないなんて信じられない。


「先生は、わたしが参加したリレーを見てなにかをかんじませんでしたか?」


「リレーですか? ......あっ」


「やっぱりですか」


「リレーは確か魔法の使用を禁止されています。それなのに、魔力の流れを僅かに感じました、それも一瞬」


「流石せんせいですね。わたしたちは、それを目の前で見てしまったんです」


「それってつまり、不正が行われていたと?」


「そうです。ですが、それ以上に問題なのは、誰もそれを咎めも、気にもしなかったんです。それがあたりまえのように」


「意図的にそれが行われた、そういうことなんですね」


「わたしはそう思っています」


 その結果アリエッテが傷つきセフィ達の中に、学院への不信感が募るはめになった。


「だから今日、わたしは生徒会長さんに話を聞いてきました。わたしの知り合いの中で、一番年上なのが生徒会長でしたから」


「その結果はーー聞くまでもないんですね」


「はい。リラーシア学院は他人を蹴落として聖女を目指す場所だって」


「それが学院、とは言えないですね。聖女になれるのがたった一人とは言えど、蹴落とす相手を間違えていると思います」


「だからわたし、気になって調べているんです。それが本当に正しいことなのか、そして学院はそれをどうして黙認しているのかって」


 多分一年生がそんなことを考えたって、何の意味もないと言われるだろう。けど折原光という人間は、もう大人になっている。だから知りたいことは何でも知りたいし、とことん自分で調べ上げたい。


「わたしがやっていることは間違っているんでしょうか?」


「それは私からは何とも。でもそれだけ厳しい道のりなのは、間違っていないと思います」


「私もそれは理解しています」


 ーけど


「この話はまた今度改めてしましょうか。そろそろご飯ですし」


 それを乗り越えた先に待っているのが、死だなんて残酷すぎると俺は思ってしまうのだった。


 2

 翌日の放課後。俺は会長と約束した通り、生徒会室にやって来た。


「すいません、私なんかのために」


「昨日も言ったけど、そういうの全然気にしてないからね。セフィちゃんが疑問に持つのも当然のことだし、私が力になれるなら力を貸してあげたいの」


「でもわたしは、まだここに入学したばかりの人間ですし。そんなこと知りたいなんて、普通はおもうはずないですよね?」


「うん、普通ではないかな。他の人だったらそれを受け入れているはずだから」


「受け入れるって......」


 会長はセフィと会話をしながら何かを探している。それが俺に見せたいものだと思うのだけど、何を探しているか分からないので手伝えずにそれを眺めていることしかできない。


 ーだから俺は、ふと彼女に聞いてみることにした


「先輩、一つ聞いていいですが?」


「何かな」


「先輩は知っていますか? 聖女になった先にあるもの」


 セフィの言葉に、会長の手がふと止まった。そしてしばらくそのままの状態でいた後に、こう答えた。


「知ってるよ。私達がそこまでしてでも目指すものが辿る結末を」


「ーー知っていても、挫折せず目指すんですよね?」


 昨日会長はこう話していた。争いが多い学院の中で、それに心が折れて去る者が多いと。

 昨日はそれだけで俺は頷いていたが、スイカさんと話をして思い出した。


 ー学院がどうのこうのというより、聖女になった先にあるものに、皆が怖くなっているのではないかと


「昨日は気づかなかったんですけど、先輩がいる教室」


 その証拠が昨日会長に会いに行った高等科二年生の教室にあった。


「高等科二年生の教室の人数が、私たちの教室の人数よりも明らかに少なかったんです。クラス分けがあるわけでもないのに」

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