第94話去る者と進む者①
運動会が終わってから数日後。アリエッテが学校に復学した。
「いろいろあったけど、今日から私も復帰だよセフィ」
「とりあえず無事でよかった。みんな心配してたから」
「ただ転んだだけだし、そんなたいした怪我じゃなかったんだけど。念のためにけんさとかしたんだ」
「そっか。それで大丈夫ってかくにんできたから、学校に来れたんだね」
「そういうこと」
アリエッテは何事もなかったように元気に走り回る。彼女は知っているのだろうか? その怪我が人為的に起こされたものだと。
(知らないなら知らないで、言わない方がいいよな)
とりあえずアリエッテが大事に至らなくてよかった。
「そういえばフランの姿がみえないけど、まだがっこうにきてないの?」
「それがあれから私たちもフランを見てないんだ」
「退場させられただけなのに、どうしてだろう。何かあったのかな」
「うーん、わからない」
フランとの最後の会話を思い出すと、学校側がそうしているのではなくフラン自身の意思で学校に来ていないような気がする。
(そうなると、俺の責任だよな)
あの時もっと彼女に言葉を掛けられればよかったと今更ながら後悔している。
けど果たして俺が言葉を掛けたところで何か彼女の心に響くのだろうか。
(友達は当事者同士でしか解決できない問題だから、第三者にはどうにもできないよな)
同じ事を以前にも言った気がするが、その関係に俺が当事者なら何か解決策を探ったと思う。アリエッテ達との時は他でもないセフィが当事者だった。
しかしフランの件は彼女とその友達との間の話であり、そこに俺が口を出してしまったら拗れてしまう可能性だってある。
「セフィはなにかしっているの? フランのこと」
「え、わたし? わたしもこの前のこと以外は何もわからない」
「みんな同じなんだね。時間が経つのを待つしかないのかな」
「それしかないとおもいます」
ただそれがどれくらいかかるのか、今のセフィ達には知るよしもなかった。
2
その日の放課後。いつもだったらすぐにユイ達と一緒に帰っている時間なのだが、俺はある場所を尋ねていた。
「あれから一度もここに来てくれないから、全部忘れられてたのかと思ってたよ、セフィちゃん」
「すいません。わたしがここに来るのは似合わないと思って」
「私達がスカウトしたんだから、そんなことないよ。セフィちゃんもそれを了承してくれたんだよね?」
「それはそうかもしれないですが......」
萎縮するこちらに対して、リラーシア学院生徒会長クイナは笑顔でセフィの反対の椅子に座る。
ー俺がやって来たのは生徒会室。夏休み前に来て以来、一度も訪れていなかった場所だった
「今日ここにいるのは会長だけですか?」
「うん。私以外はみんな生徒会室以外で仕事をしてもらってる」
「それってもしかして、私が無茶を言ったからですか?」
「ううん、元から今日はその予定だったから気にしないで。セフィちゃんの聞きたいこと、多分二人きりで話した方がいいと思うから」
高等科の教室まで足を運んで頼んだ甲斐もあったのか、会長はセフィの目的を察してくれたのかもしれない。
「初等科の運動会が終わってから数日、セフィちゃんがリレーに出たって話も聞いているし、私の所に来る予感もしてたよ」
「じゃあやっぱり、わたしがみたことは」
「うん、何も間違ってないし、それが真実だよ」
「そう、なんですね......」
突きつけられた事実に、つい言葉を失ってしまう。
「ここはセフィちゃんが知っての通り、誰もが聖女を目指している場所。私だってそう。けど聖女になれるのはただ一人」
「だから他の人を蹴落とすのは日常茶飯事、って言いたいんですか?」
「難しい言葉を知ってるね、セフィちゃん。とても一年生には見えないよ」
「茶化さないで、ください」
「ごめんごめん。でもその通りだよ。自分が一番になるにはどんなことをしても他人を蹴落とす。それがたとえ入学したての生徒でも、ね」
つまり何も知らない一年生のセフィ達は、高学年の人達からしたら格好の的というわけだ。
ーただ一つの椅子を何千人で同時に狙う椅子取りゲームのように
ここはそういう場所、聖女とはそういうものなのだと改めて俺は実感した。
「そんな勝負の世界だから、退学しちゃう人も多いんだ。一人また一人いなくなっていって、いつの間にか教室も空席ばかりになる」
「それじゃあ何のためにここに」
「皆、夢を叶えたいからじゃないかな」
「夢......」
皆がそのたった一つの夢を叶えるために同じ道を進んで、挫折し諦めていく。
夢と現実の違いを見せつけられたとき、誰だって心が折れてしまう。
(俺もいつか、そんなことになってしまうのか?)
文字通り生まれ変わってまで目指そうとした道から、いつか外れてしまうのか?
「セフィちゃん、セフィちゃん!」
「あ、すいません、いろいろとショックがおおきくて、どう言葉にすればいいかわからなくて」
「それが普通の反応だよ。私だって同じだったから」
「先輩も......」
「それより明日、少し私に付き合ってくれないかな」
「明日ですか? 私は大丈夫ですけど」
「セフィちゃんがこれからも頑張れる、とっておきのものを見せてあげる」