表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/126

第91話異世界式運動会 午後の部④

「うーん、あそこまでいけたら優勝まちがいないって思ったんだけど」


「同感。やっぱり学年がひとつちがうだけで、大きな差が広がるんだね」


 騎馬戦を終えて、自分達の席に戻ったセフィ達は、それぞれ悔しさを滲ませていた。


 ー結果から言うとセフィ達の惨敗だった


 援護が入ってくれたのは確かにターニングポイントだったし、それを生かせてれば一番を狙うことだってできた。


「潜在魔力がたかいあたし達なら、そのくらいの壁はかんたんに越えられるってかんがえてた」


「それはわたしも」


 自分の力を過信し過ぎたからこそ招いてしまった結果、そう言われても、思われても仕方がない。


(格好悪いな、俺)


 ただ一度の失敗、それだけのことのはずなのに、なぜ自分がここまで落ち込んでしまっているのか分からない。


 ー自分だけが学院内で特殊な人間と、勘違いしていたからか?


「落ち込んでいる場合ではないですよ、ふたりとも」


 悩めば悩むほど深みにはまるセフィやアリエッテに声をかけたのはユイだった。


「ざんねんな結果になってしまったのはしかたがないことです。でもお二人にはまだだいじな種目が残っていますよね?」


「たしかに」


「そうだけど」


 もう自分が出る種目が残っていない彼女に、励ましの言葉をかけられるとは思っていなかったが、その通りだ。


 セフィとアリエッテの運動会はまだ終わっていない。


「カエデちゃんもふくめて、今度は私たちの代表として出るんですから、しっかりしてください。練習してきた意味が無くなってしまいます」


 ユイの励ましの言葉に、二人で顔を合わして静かに頷いた。


「騎馬戦の借りは、かえさないとだねセフィ」


「うんどうかい最後の種目、有終の美をかざろう」


 初めての運動会も、いよいよクライマックスを迎える。


 2

「本番まですこしだけ時間あるからといれにいってくる」


 最後のリレーが始まる少し前、少し怖いが俺は一人でトイレに向かうことにした。


(さっきのことがあったばかりで、呑気かもしれないが)


 我慢は体に毒だし、いくらなんでも短時間で二度も誰かに狙われることはないだろう。


(何てフラグを立ててるわけではないんだが)


 色々なことを考えながらトイレに向かう道中、



「フラン、どうしてここに」


 遭遇したのは敵ではなく退場させられたはずのフランだった。


「セフィ......無事でしたのね」


 こちらに気づいたフランが、いつもより半分くらいしか元気のない声で返事を返してきた。


「うん、なんとかね。それより話はユイから聞いたんだけど」


 セフィがいない間に起きたことを当人に聞こうと思ったその時、俺はつい言葉を止めてしまった。


 ーフランの目が酷く充血していたのだ


「キャルは......わたくしにとってたいせつな、親友のはずだっだのですわ」


「幼なじみだって言っていたよね?」


 フランは黙って頷くと言葉を続ける。


「ええ。わたくしにとって彼女は、どんな友達よりもたいせつなともだち、ですの。セフィたちよりも」


「そう、なんだね」


 彼女の今の表情を見れば、その度合いが嫌でも伝わってくる。普段は高飛車で、誰に対してもライバル心を見せる彼女の表情がここまで崩れるのは初めてだった。


「キャルはわたくしに執着するなと、言いましたわ。けど、幼なじみに、ともだちに執着したくなるのは当然のことではございませんの?」


 フランの嘆きとも取れる言葉に、返す言葉がない。彼女の事情を知らない自分が、まだまだ彼女と同じ目線に立てない自分が、何かを語ることなんてできない。


(これに近いやり取り、前にもあったな)


 あれは自分の力がアリエッテにバレてしまった時の事だ。


(俺に、彼女達の気持ちを語る権利って、本当にあるのか?)


 その話は一応解決したが、答えはやはり見つかっていない。


「わたくしがどれだけ親友とおもっても、それが一方的だと友達とすら呼べないのですわね」


「そんなことは、ないとおもう。ちゃんと話をすれば」


「話したからこう言っているんですわ!」


 急にフランが声を荒げたので、思わず体がビクっとしてしまう。


「わたくしは、かのじょと何度も話しましたわ。それでも、それでもキャルは......」


 フランはその先の言葉を言うことなく、走り出してしまった。


「フラ、ン......」


 俺は彼女を呼び止めようと手を伸ばしたが、それが届くことはなく、ただ空しく空を切った。


 3

 席に戻ると、リレーが始まる直前で、アリエッテとカエデが「はやく、はやく」と言いながら手を招いていた。


「ごめん二人とも、おそくなった」


「いつまでも戻ってこなかったから、また何かあったのかなって皆心配していたんだよ?」


「だいじょうぶ。ちょっとトイレが混んでたから」


 適当な嘘をついて、呼吸をなんとか整える。


「呼吸が荒いけどだいじょうぶなの? これから走るのに」


 その様子を見てカエデにも心配されるが、「本当に大丈夫だから」と答えてリレーの列に並ぶ。


(色々ありすぎた運動会だったけど、これさえ終わればきっと大丈夫)


「さあ行こう、二人とも」


 自分自身にも気合いを入れるように、俺は二人に声をかけた。


「ここまでの練習、無駄にしないために」


「最後まで出し気ろう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ