第90話異世界式運動会 午後の部③
まず俺たちの騎馬が向かったのは、二年生の中でも周りに他の騎馬が無く孤立無援状態にある騎馬だ。
「長期戦はわたしたちじゃ部がわるい。短期決戦でいくよ、みんな」
「「「りょうかい!」」」
まずは三人に対象に接近してもらい、距離を詰める。
「あなたたち、もしかして今噂の」
「その紋章、いただきますよ、先輩」
小学生に果たして先輩後輩があるかは不確かだが、一応一学年上なので断りを入れてから騎馬同士を衝突させる。
「アリエッテ!」
この衝突により相手が一瞬バランスを崩したところで、アリエッテに指示を出す。
「いっけぇ、セフィ」
アリエッテはセフィに向けて魔法を使う。目的はただ一つ。態勢が崩れた騎馬に向けてセフィを飛ばしてもらうためだ。
(騎馬戦は落下さえしなければ、どうにでもなる。魔法で火力を出せるアリエッテなら、セフィの身体を飛ばすことが出来るはずた)
アリエッテの魔法の力を借りた俺は、相手の騎馬に乗り、紋章を奪う。
「この紋章、お借りします先輩」
そして帰りは自分で魔法を使い、アリエッテ達にしっかりとキャッチしてもらう。
なんでもありな騎馬戦で、俺が考えた勝つための作戦は正にシンプルかつ一年生でも勝てる作戦だった。
「ナイスキャッチ」
無事紋章を入手した俺は、アリエッテ達にしっかりとキャッチしてもらい、作戦は成功。
「ずいぶん無茶な作戦考えたよね、セフィも」
戻ってきたセフィを受け止めながら、アリエッテが言う、
「これだけのことをしないと勝てないんだから、むちゃも承知。せっかくいちばんを狙うんだから、三人もついてきてよね」
と答えたものの、これを何度も繰り返していては、きっとこちらの体力がいつか尽きるか、対策を練られる。
(その前に作戦を考えないとな)
最低でも残り100人は二年生を相手しなければならない。
(いくらセフィの体力がもっても、それを支える方が負担は大きいし、いつかは崩れるよな)
短期決戦だとしても、それをいつまで続けられるか、それが一番重要になる。
「セフィ、次は向こうからきたよ!」
考え込んでいるとアリエッテの声で現実に引き戻される。なるべくこちらから先制攻撃を仕掛けたかったが、人数が人数だけにそうも言っていられない。
「三人とも、なんとか踏ん張って!」
正面衝突する二つの騎馬。次の相手も二年生だった。
「あなたが一年生で一番つよいひと、だね!」
踏ん張りきったところで向こうから声をかけられる。
「そういう先輩も、私たちの中でうわさですよ」
運がいいのかも悪いのか、セフィ達の騎馬にぶつかってきたのは、二年生の中でトップと言われているテレシアという名前の少女だった。
直接の関わりはないが、名前と姿は学院生活の中で見たことはある。
「あっちのこと知ってくれててすごくうれしいな。こういう種目は得意じゃないんだけど、参加してよかった」
一人称に少しだけ癖のあるテレシア先輩は、騎馬になってくれている人達に何か話している。
「どうするんですか、セフィちゃん。一年生と二年生では、力の差がすごいですよ」
ユイが不安そうに聞いてくる。確かに彼女の言うとおり、いきなりラスボスに挑むレベルで圧倒的不利なのは承知だ。
ーしかしそんなのは百も承知
「どうするなんて決まっているよね、アリエッテ」
俺は返事の代わりにアリエッテに尋ねる。
「もちろん、セフィ」
言わずもがなとアリエッテはそう答える。
「「しょうめんからぶつかるのみ!」」
少しでも勝ち目があるなら、諦める必要はどこにもない。
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二学年のトップなだけあって、先程のように簡単には紋章を狙わせてくれなかった。
(隙がないなぁ)
こちらも隙を見せていないつもりだが、そうやって油断をしていると一瞬の隙を突かれかねない。
(もっと簡単に崩せると思っていたけど、甘く見ていたな)
「セフィ、そろそろ動かないとほかのひとに狙われる」
膠着状態が続くことに危機を感じているのか、アリエッテが小声で状況を伝えてくる。
「わかってる。私たちに経験はないけど、力ならある。無謀かもしれないけど、しかけよう」
セフィがそう答えたのを確認したと同時に、止まっていた時間が動き出す。
ー最初に動いたのは、テレシアの方だった。
「なっ」
「このしょうぶ、あっち達の勝ち、だね」
一気に詰まる二騎の距離。しかし先に動き出したテレシア側が有利なのは目に見えていた。
「もらったよ!」
テレシアの手がセフィの持っている紋章に伸びてくる。それに対して不意打ちをつかれたセフィ達には為す術もなく。
「すこし痛いですけど、がまんしてほしいですわ先輩」
紋章が取られる瞬間、テレシアの騎馬が大きくバランスを崩した。
「その騎馬ってたしか」
「フランちゃんが乗るはずだった騎馬です」
セフィ達を助けてくれたのは、他の騎馬の人達、本来ならフランがそこに乗っているはずの騎馬だった。
(フラン、借りができたな)
フランがそこにいないことに胸を痛めながらも、これはまたとないチャンスなのは違いない。
「アリエッテ!」
「りょうかい!」
すかさずアリエッテに指示を出し、俺はテレシアの騎馬に向かって飛翔したのだった。