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第89話異世界式運動会 午後の部②

 休むもなく午後の部二つ目の種目がやってきてしまった。


 〈不安なところは多々あるけど、折角の騎馬戦なんだ。集中しないと〉


 異世界式運動会は、日本でもよく知られているあの方式とほぼ変わらない。違いがあるとすれば、


「セフィ、しっかし守ってよね、その紋章」


「わかってる。みんなこそしっかりとわたしを支えてね」


 奪い合うものがハチマキとかではなく、それぞれの組が胸につけている紋章だ。ハチマキを取るよりも難易度が高そうだが、魔法が使えるので何でもありな争いだ。


 ちなみにセフィの騎馬戦の組み合わせは、


 馬にアリエッテ、ユイ、カエデの三人。


 そして紋章を守るかつ相手の紋章を奪う役目を任されたのはセフィだった。


 〈最後まで俺は反対したんだけどな……〉


 魔法を使う分には他には劣らないのだが、弱点があるとすれば。


「やっぱりこわいよ、高いし」


「ほんばんになってそんなこと言わないでよ。練習ではだいじょうぶだったでしょ?」


「れんしゅうは、だよ。本番だと逆にこわくなっちゃって」


 ー俺自身が高所恐怖症なことくらいだ


 2

 リレーの練習以外にも俺たち全員で練習を重ねていたのがこの騎馬戦だった。


「わたしがみんなの上に乗るの?」


 時間を少し遡って。フランの家で練習を始めて二日目のこと。騎馬戦の練習も同時に始めた中で、騎馬に乗る役としてセフィが適任じゃないかって話になった。


「あたしが乗ってもいいんだけど、こういうのはセフィちゃんの方が似合っているんじゃないかって思うの」


「似合っているって……アリエッテかわたしがどっちがやっても変わらないと思うんだけど」


 セフィではなく俺が高所恐怖症なだけあって、何としても別の誰かに代わってもらおうと説得を試みるが、アリエッテだけでなくユイもカエデも賛成をしだして三対一という圧倒的不利な状況になってしまい結局押し切られる形でセフィが騎馬の上に乗ることになってしまったんだった。


「どうなっても知らないんだからね。わたしは嫌だって言ったから」


 こういう経緯もあったせいか、俺は騎馬戦をやるのがあまり好きじゃなかった。ただでさえ自分が高いところにいるのがある意味の恐怖で、それをアリエッテ達が支えてくれているとはいえ、どうしても落ちてしまうのではないかとか余計な不安を抱えてしまった。


「どうしたんですかセフィちゃん、すごく顔色がわるいですけど」


「だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから」


 練習している間も周りに心配されてしまうくらい、体調も悪くなっていったし騎馬に乗るたびに体の震えを抑えることができなかった。


 ー練習五日目


「こうしょきょうふしょう?」


「うん。ほんとうは最初に言おうとおもったんだけど、わたし高いところがだめなの」


 このままではダメだと思い、俺は思い切って三人にこのことを話し、今からでも変えてもらいたいと相談した。


「うーん、もう本番までじかんがないし今から変えるのはむずかしいとおもうんだけど」


 けどそれに対して、アリエッテはそう答えた。彼女の言う通りすごく今更な話なのかもしれないが、俺にとってはとても大切な話だった。


「いまからわたしも必死に練習する。だからどうか変わってほしいの」


 俺は頭まで下げた。ここまできたらプライドとかそんなの一切関係ない。騎馬戦で確実に勝つためには、これが最善の選択だと俺は思っている。


「ひっしに練習するなら、そのこうしょきょうふしょうも克服できたりしないの?」


 しかしそれでもアリエッテは引き下がらなかった。最終的には俺が克服すればいいと言い出す始末で、これ以上何を言っても無駄だと俺は察した。


 〔なんでここまでして、セフィにやらせたいんだ〕


 ここまで言われると俺も不満を持つようになってくる。ここまでセフィが嫌だと言っているのに、それでもと言い続けるのは俺にはとても理解できなかった。


 ーそして理解ができないまま本番当日を迎えてしまったのである


「ねえアリエッテ、今だから聞きたいんだけど、どうしてそんなにわたしがこの役目をするのにこだわったの?」


 彼女の真意がどうしても気になった俺は、騎馬戦開始直前にアリエッテに尋ねる。


「わたしもそれ気になっていました。ぜったいセフィちゃんじゃないといけない理由はなかったと思いますけど」


 ユイも気になっていたらしく、セフィに同調する。アリエッテはすぐには答えずにしばらく黙った後、ボソっと一言だけ答えた。


「あたしじゃできないから、セフィの役割」


「今なんて?」


 その言葉の真意を聞く前に、騎馬戦開始の合図が鳴ってしまった。


 〔アリエッテじゃできなくて、セフィにはできるってどういう意味だ?〕


 結局謎が深まるだけで彼女の本音を知ることなく、騎馬戦が開幕してしまった。


 3

 騎馬戦のルールは先述した通り、とにかく自分のチームの紋章を守り抜いて、かつ相手の紋章を奪うというシンプルなゲームだ。一年生と二年生の約200人、約五十騎近くの騎馬がこのグランドを右往左往している。


「さいしょの作戦はどうしますか? わたしたちの実力だと二年生相手するのはむずかしいかもしれませんが」


 まず開始直後の全体を見回したユイが聞いてくる。学年が一年違うだけで実力は大差ないように見えるが、実は一学年違うだけで天と地の差がある。現に開始してそんなに経たない中で、主に一年生の騎馬が次々と脱落していく様子が見られる。


「たしかにふつうなら難しいかもしれないけど、あたしたちは別、でしょ?」


 ユイの言葉にアリエッテは自信ありげに答える。


「そうだね。わたしたちはこれでも学年トップがあつまっているグループ。一学年の差くらいならうめられる」


 それに俺は同調し、最初の目標を指さす。


「目標、二年生の騎馬。すこしだけ下剋上、しちゃおう四人で」

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