第8話サバイバルピクニック
そもそもどうしてこうなってしまったのかと言うと、原因はアリエッテの一言から始まった。
「皆と同じ道を通ったらいちばんなんて狙えないよ? だから皆とは全く違う道を通ろう!」
「え? それって大丈夫なのアリエッテちゃん」
「ほら二人ともこっち!」
「ちょ、ちょっと!」
俺とユイはアリエッテに引っ張られるがままに他の皆とは違う道、正確には道ですらないところに連れて行かれてしまった。
その結果が三人だけ名前も知らない山の中での遭難になってしまったのだった。
「おかあさん、帰りたいよう」
既に遭難してから二時間、遂に耐えきれなくなったユイが泣き出してしまう。まだ幼い子供なのだから当然の反応だしむしろここまでよく耐えたと思う。
「ゆ、ユイちゃん、泣かないで」
これにはアリエッテも動揺を隠せないようで、あわあわとし始めている。
(どうする...どうすればいい)
セフィとしてではなく俺自身の知識としてこの状況の打開策を考える。道は四方八方が草木に囲まれていて、どっちが下山ルートかすら分からない状況。おまけにユイやアリエッテの精神も不安定になり始めている。
(今頼れるのは俺自身の知識のみ。こういう時はまず......)
俺は目を閉じ耳を澄まし音を感じる。山で遭難してしまった時に頼りになるのは己の感覚。
特に聴覚は一番大事になってくる。
「何をしているの? セフィちゃん」
「二人ともしゅうちゅうして音を聞いて」
「音?」
「何か聞こえたりしないかな? 例えば水の音とか」
「それが聞こえたらどうなるの?」
「ちかくに川が流れているかもしれない。それさえ見つければ少しは状況もよくなると思う」
「わ、わかった。聞いてみるね」
「わたしも」
三人一緒に音を探す。水の音や人の話し声とか何か一つでも特別な音が聞こえれば状況は大きく変わる。ただし、体は小学生と変わらないので少し心細いが、今何より重要なのは情報だ。
(集中しろ俺。何か何かあるはずだ)
「あ」
集中すること数十秒。最初に声をあげたのは意外にもユイだった。
「ユイちゃん、何かみつけた?」
「ここからずっとこっちのほうがくで、話し声が聞こえた」
ユイが指を指したのは右の方角。俺やアリエッテはその音を感じとることはできなかったが、ユイには聞こえたらしい。
「それ本当ユイちゃん」
「う、うん。微かな音だったけど、お話ししている声がきこえた」
「どうするセフィちゃん」
「ユイちゃんを信じてそっちに行ってみよう!」
「うん、そうだね!」
「し、信じてくれるの? 私の気のせいかもしれないのに」
「信じるよ! ね? セフィちゃん」
「うん」
俺とアリエッテは頷き合う。この状況で疑う必要はどこにもないし、少しでも状況が改善されるならそれを頼る以外の選択岐はない。
「さあ行こう二人とも!」
「うん!」
今度は強引ではなくしっかりと手を繋いで、三人でユイが示した方角へ歩き出す。
「ありがとうセフィちゃん、アリエッテちゃん」
それから進み続けること五分後
ユイが聞いた声の正体が判明する。
「あらあら、これはこれはセフィさんとアリエッテさんではございませんか」
確かにユイが声の方角に人はいた。それも同じ初等科の子。しかしその人物を見るなり、俺とアリエッテはほぼ同時のタイミングで大きくため息を吐いた。
「よりによって」
「さいあく......」
「え? え?」
事情を知らないユイは戸惑った様子を見せる。
「その様子だとまさかお二人はまいごになってしまわれましたの? ゆうとうせいが聞いて呆れますわ」
金髪縦髪ロールのいかにもお嬢様キャラの彼女はフラン
同じ初等科の一年生で、少し席は離れているが面識はあった。
いや、面識はあったというよりは変な因縁をつけられたと表現する方が近いかもしれない。
(最悪なタイミングだなこれは)
そんなことを考えながらフランを見ていると、俺はあることに気がつく。
「そんなこと言うけど、フランも一人でこんな場所で何してるの?」
「わ、わたくしはその、別に最初から一人でこうどうしていて」
俺達が見つけた時フランは一人ぼっちでとぼとぼ歩いていた。グループでの行動が必須のこの遠足で彼女は今一人ぼっち。
非常に嫌な予感がする。
「もしかしてだけど......フランもまいごになったの?」
状況は改善されるどころか最悪の一途を辿っていた。
「わ、わたくしまであなた達と一緒にしないでくださいます?!」
「それならどうしてフランちゃんは一人ぼっちなの?」
「で、ですからこれは、その......」
アリエッテにも続いて一人ぼっちと言われて涙目になりながらモゾモゾとするフラン。
(この反応は間違いない、な)
彼女が強がっているのは目に見えて分かる。小学生相手にこれ以上虐めても可哀想なので、俺はフランに提案をする。
「ねえフラン、わたしたち丁度道が分からなくて困っていたの。人数が多い方が迷わなくて一緒に行動しない?」
あくまで俺達三人が困っている提にして、フランに助けを求めているような雰囲気を出す。彼女は自分の失態を何としても隠したいタイプの子なので、こっちが持ち上げてあげれば悪い気はしないはず。
「わたくしがあなた達と一緒に行動、ですか?」
俺の提案にフランは驚いた顔をし、しばらく考え込むが、
「い」
「い?」
「いいですわ! 折角のいい機会ですしあなた達と一緒にこうどうしてあげますわ!」
これが親の顔より見た即落ちニコマである。
「だ、大丈夫なの? セフィちゃん。だってこの前」
そのフランを見てアリエッテが複雑そうに小声で話しかけてくる。
「大丈夫。こまっているのお互い様だから、変なことはしないよ」
「うーん、心配だよあたし」
「その気持ちは分かるけど、こんなところに置いていくわけにはいかないから我慢しよアリエッテ」
「わ、分かった」
アリエッテの心配は理解できないわけではない。でも向こうも下手に事を構えるつもりはないだろうし、ここは我慢する以外に道はない。
「そうと決まれば行きますわよ、三人とも。わたくしに付いてきなさい!」
そんな俺達の気も知らずに意気揚々とフランは先陣を切って歩き出す。分かりやすすぎる性格に苦笑いを浮かべる俺と疑いの目を続けるアリエッテ、そして何がなんだか分からないユイががそれぞれ彼女の後を追う。
「ね、ねえ二人とも、あの子と何かあったの?」
「うーん話せば長くなるんだけど、ちょっとフランとはいんねんがあってね」
「いんねん?」