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第86話反聖女教会Ⅰ

「聞いたことはないかしら。聖女という存在を許さない組織があるって」


「そんなのきいたことが……ありません」


 セフィの目の前に突然現れた『反聖女教会』という初めて聞く組織。黒いマントを全身に纏ったその人は女性の声をしていた。


 〔反対組織がいるのは何となくそんな予感がしたけど、直接接触してくるなんて思わなかった〕


 しかも運動会をしているこのタイミングで、前聖女ソフィの子供であるセフィに、ピンポイントで接触してくるのはどう考えても不自然だった。


 〔誰かが情報を流しているとか、それくらいしか考えられない〕


「まあ、知らないのなら仕方ないわ。でも私が何故まだ幼い貴女に接触したのか、その意味は分かるわよね」


「さっき言っていた、わたしのおかあさんが前聖女だから」


「ええ、そうよ。そしてその血を引く貴女は、近い未来私たちの脅威になる。だから」


 黒マントの女性は、セフィの首を絞めてくる。魔法を使うつもりはないらしい。


「くっ、っう……」


「だから今ここで貴女を殺してしまってもいいのよ」


 息が苦しくて言葉を出すことができない。助けを求めようとしてもこの場に人の気配はないし、誰かが助けに来る気配もない。


 〔こんなところで終わるのか? 俺〕


 朦朧していく意識の中、黒マントの女は言葉をつづける。


「私たちが何故聖女を恨んでいるのか、貴女にはまだ分からないでしょう。でもいつかは知るわ、"アルマルナの遺……」


 その言葉を全部聞き終える前に、俺は意識を失った。


 2

『起きて折原光』


 意識が暗闇に沈む中、俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。この声を聴いたのは約六年ぶりだ。


『この声……シェリ、か』


 声の主は他でもない、俺をこの世界に転生させた張本人、女神シェリ。彼女の声が聞こえるということは、俺は死んだのだろうか。


『大丈夫、ちゃんと生きているわ。かなり危険な状態ではあったんだけど』


『殺されかけた、そういうことか』


『反聖女教会はその名前の通り、聖女という存在をこの世界から排除しようとしているの』


『聖女を排除……やっぱりそうなんだな。そしてその一番のターゲットにされたのがセフィ、というわけか』


 その辺りは納得できたが、彼女との邂逅のせいで謎が余計に増えた。


 ー特に彼女が最後に言っていた”アルマルナ”という初めて聞く言葉


 その先の言葉は聞き取れなかったが、それが人名だというのは分かった。


『アルマルナ……まさかその言葉を聞くことになるなんて』


『知っているのか?』


『もちろん知っているわ。何と言ったって彼女はこの世界の初代聖女だもの』


『初代、聖女?』


『今は詳しく語れないけど、その内知ることになると思う。彼女がこの世界に残したものを』


『おい、それはどういう』


 まだ彼女には聞きたいことがあったが、俺の意識はそこで回復してしまう。


「セフィ! 大丈夫か?!」


 目を覚ました先にいたのは、今にでも泣きそうな眼をしたユシスだった。


「おとう、さん。ここは?」


「学院の保健室だ。トイレの前でセフィが倒れていたのをスイカさんが発見して、ここに運び込んでくれたんだ」


「スイカ、さんが……」


 そう言いながら俺は時計を見る。時刻は昼過ぎ。丁度運動会もお昼休みに入っている時間だ。


 〔よかった、午後の部には間に合いそうだな〕


 こんなところで参加を辞退したら、リレーの練習がすべて水の泡になる。このタイミングで目を覚ませたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。


「なあセフィ。何があったんだ」


 ホッとしているとユシスが聞いてくる。どうやらスイカさんは倒れているセフィを見つけただけで、その前に何があったのかは分からなかったらしい。


 〔じゃあ何があったか知っているのは、俺だけか〕


 もしこれが誰かに知られていたら運動会どころじゃなかったから、結果的にはよかったのかもしれないが、反聖女教会の存在をユシスには知らせておいた方がいいかもしれない。


「ねえおとうさん、ききたいことがあるんだけど」


 3

 場所は変わって運動場出入口。お昼休憩の時間なだけあってさっきまでの歓声が嘘のように静かな時が流れる中、スイカはその人物を発見した。


「やはり貴女が犯人ですね。反聖女教会幹部、マルティア」


 黒いマントを全身に纏う女性、先ほどセフィを襲撃した犯人だ。スイカの呼びかけにマルティアと呼ばれた人物は足を止める。


「相変わらず目は見えなくても、誰だか分かるのね。スイカ」


「私は目の代わりに他の感覚は鋭いですから。魔力の流れでその人が誰なのかも分かります」


「そういうところ本当に腹立つ」


 マルティアはスイカの方には振り向かずに歯ぎしりをする。


「何故こんなことをしたかは聞きません。貴女には貴女の理由がありますから。その代わりに一つ教えてください」


「……どうせ例の遺物について聞きたいんでしょ?」


「分かっているなら話が早いです。聖女教会が血眼になって探しているそれは、一体何ですか?」


「知ってどうする? 聖女の資格もない貴女が知っても、結果は変わらないわよ」


「結果?」


「あれが存在する限り、この世界はいつか滅びる。聖女が存在し続ける限り、ね」

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