第84話異世界式運動会 午前の部 前編
セフィ達の一番最初の種目は、定番中の定番の徒競走
リレーのことに目が行きがちだが、リレーに出ないフランやユイにも活躍できそうな種目がしっかりあり、その練習も裏でやっていた。
そしてその最初の種目が徒競走というわけだ
〔距離は五十メートル。当然魔法は禁止。本物の運動会みたいだな〕
ちなみに一緒に走るのはアリエッテとユイ。これも縁かは分からないが、少し前に魔法で戦った三人だ。
「リレーでは仲間だけど、ときょうそうは負けないからねセフィ」
「私一位取ってみせますよ!」
さっきまでの出来事がまるで嘘のようにやる気を見せる二人。俺も気持ちを切り替えて戦わなければならない。
「わたしも負けないよ二人とも」
~リラーシア学院 初等科運動会 第一種目徒競走~
セフィ達が走る番は四番目。その前にエルやフラン達がそれぞれ走っている。
〔小学校の運動会、そのものだな〕
運動場が大きいのと、魔法を使う競技があるのを除いたらどこにでもある運動会と変わらない。きっと中等科とかに上がったら、体育祭の名前に変わったりするのだろうか。
〔まずは目の前の競技に集中だな〕
そうこうしている内にセフィ達の順番が回ってくる。セフィ、アリエッテ、ユイ、そしてもう一人の四人が、スタートラインに立ちスタートの合図を待つ。
〔リレーの練習で足も速くなったはず。最初の戦い、二人には負けられない!〕
スタートの合図の破裂音が耳に届いた瞬間、一斉に走り出した。
ー距離はわずか五十メートル
最初にトップに出たのはアリエッテ次にユイ、セフィと続く。
〔短い距離なら、このまま逃げ切れる!〕
アリエッテもリレーの練習の成果もあり、以前よりも足が速くなっていた。それは一緒に練習していたユイやセフィも同じで、
「きょうこそは勝たせてもらいますよ」
二番手だったユイがアリエッテを抜き、一位に躍り出る。残りの距離は十メートル。
〔抜くなら今しかない!〕
セフィもアリエッテ、ユイに追いつき残り僅かのところで三人が並ぶ。
「わたしが!」
「あたしが!」
「勝たせてもらいます!」
そして僅かな差でゴールテープを切ったのは……。
2
「あと一センチ靴が長ければあたしが!」
「なんで私がビリなんですか?! わたしのほうが最初にゴールしたはずなのに」
第一種目を終え、自分たちの席に戻って来た俺たちは、レースの結果に各々文句を言っていた。
〔ダークホースがいたとは……〕
胸元につけられた二位というバッジを見て俺はため息をつく。
ーセフィ、ユイ、アリエッテの三人で一位、二位、三位が決まると思っていた最後の瞬間
競馬で言う差しをしてきたダークホースがいた
「それにしてもびっくりしましたわね。まさかあの子が一位を取るなんて」
死屍累々な俺たちを見たフランが少し驚いた様子で言う。
「フランのしりあいなの?」
「わたくしの幼馴染ですわ。ものごころがついたときにはキャルとわたくしは友達で、ここに通うのも二人でやくそくしていましたの」
フランが言ったキャルというのが。俺たちを差し置いて一位を取った人物だ。同じ教室なので名前くらいは聞いたことがあったが、フランが幼馴染だったのを知らないくらいに関わり合いがなかった。
「というかフランってともだちいたんだ」
「よけいなお世話ですわ! たしかに入学してからは話す機会が減りましたが、わたくしとキャルは間違いなくおさななじ……」
「あまりそういう話をよそにしないでもらえる?」
そう言ったのはフランでもユイ達でもない。第三者、
「キャル……」
フランの幼馴染であるキャル本人だった。
「あ! さっきの!」
フランの次に反応したのが、アリエッテだった。どうやらさっきの徒競走のことがよほど悔しかったらしい。
「わたし、あなたを幼馴染って一度も思ったことがないんだけど」
しかしそんなアリエッテを無視してキャルはフランにそう告げた。
「っ、どうしてそんなことを言いますの?」
「そんなのはあなたがいちばんわかっているでしょ」
「そのことはキャルには何もかんけい」
「ない、なんて言わせないから」
「ちがう、わたくしはっ!」
事情を知らない俺達にも伝わってくる二人の間にある大きな溝。淡々と言うキャルにフランは何度か言い返していたが、キャルの方の表情が変わることはなかった。
「言いたいことはそれだけ。せめて名前を汚さない程度にはうんどうかい、がんばって」
言いたい放題言ったキャルはそう言うと自分の席に戻ろうとする。
「ちょっとまってよ」
それを呼び止めたのは、意外なことにアリエッテだった。
「ときょうそうの負け惜しみなら聞かないけど?」
アリエッテの呼び止めに、キャルは振り向かずに答える。
「あたしのともだちに言いたい放題言ってくれたけど、ずるくない?」
「ズルい? 私が?」
「キャル・ハストレア。ハストレア家の跡継ぎだよね?」
アリエッテに自分の名前を呼ばれたキャルは、一度肩を震わせた。
「どうしてそれを……」
「あたしの家も、あなたやフランといっしょ、っていえばわかるでしょ」
「どこかで聞いたことがある名前って思っていたけど、そういうことだったんだ」
キャルは振り返らないが体が小刻みに震えているのが分かる。
アリエッテもフランも、そしてキャルもどこかの貴族の家系だ
そのあたりの事情を知らない俺は何も分からないが、ハストレア家に何かがあったのかは彼女の反応でよく分かった。
しばらく場に沈黙が続くと、キャルは「とにかく」と前置きをすると、
「この話は今この場ではかんけいのないこと。けどフラン、わすれないで」
「なに、を」
「私が貴女を友達、ううん幼馴染って呼ぶことは二度とないから。たとえ同じ学校で、同じ教室だったとしても」