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第83話異世界式運動会 開幕 後編

 アリエッテが心配になり急いで彼女の外に向かうと、道中アリエッテとは違う女性を見かけた。


 ーけど俺はその人をどこかで見たことがある気がした


「ごめんユイ、先にアリエッテを探しに行ってほしい」


「え? どうかしたんですかセフィちゃん」


「ちょっと心当たりがあるんだけど、そこは私とアリエッテしか知らないから二人で手分けして探してみよう」


「わ、わかりました」


 時間もそんなにないので俺の提案にユイはうなずくと、俺を置いてアリエッテを探しに向かってくれた。


 ーそして俺は、意を決してその女性に声をかけてみた


「あの、すいません」


「え、はい、わたしですか?」


 いきなり声をかけられてた女性は少し戸惑いつつも振り返ってくれた。


 三十歳くらいに見えるその女性は、セミショートの黒い髪をした、少し釣り目気味の容姿をしていて、どことなくアリエッテに雰囲気が似ている気がした。


 〔もしかしたらこの女性は……〕


「ごめんなさいいきなりこえをかけて。でももしかしたらっておもって」


「貴女はもしかして、あの子が言っていたー」


 女性のその言葉を聞いて俺は一安心しながら、女性に改めて聞く。


「アリエッテのお母さんですよね?」


 2

「もうすぐうんどうかいが始まりますよ、アリエッテちゃん」


 セフィと別れたユイが、アリエッテを見つけたのはそれから数分後だった。開会式まで時間もないから早く見つかってよかったとユイは一安心する。


「ユイ、どうしてここに。開会式はもうすぐなのに」


「それは私のセリフですよ。黙って姿を消すからわたしもセフィちゃんも心配してさがしにきたんですよ」


「それは……ごめん。でもどうしても話したかったから」


「セフィちゃんがさっき見つけたおんなのひとですよね?」


「セフィが?」


「はい、セフィちゃんはなにも言いませんでしたが、きっとあの人がアリエッテちゃんのお母さんだって気づいたんだと思います」


「さすがにわかっちゃったか……わたし、お母さん似だってよく言われるから」


 アリエッテはユイが歩いてきた場所、もといセフィと別れた場所を見て俯く。


「ユイやセフィが言っていた通り、あの人はあたしのおかあさん。といっても会うのは入学式以来だったんだけど」


「にゅうがくしきって。もう半年近く前ですよね?」


「といってもあたしのほうから会うのをさけていたんだけど」


「それなのにきょう、アリエッテちゃんには何も言わずにここに来たんですね」


「うん。だから今すぐ帰ってもらおうと思って、いそいで会いに行った」


 そう前置きをするとアリエッテは、一人語りだした。



「どういうつもりで来たの? おかあさん」


 半年近くも顔を合わせていなかった自分の母親。それが自分の許可もなく運動会を見に来た、それはアリエッテにとってはどうしても許されないことだった。


「どういうつもりって、じぶんのこどもの運動会を見に来るのはなにもおかしくないはなしでしょ?」


「あたしがどうして合わないようにしていたりゆう、わかっているでしょ?」


「話は聞いているわ。身体測定の結果を見たから、でしょ」


「なら帰ってよ! あたしはもう二度とおかあさんの顔を見たくない」


 アリエッテは自分の中にある感情を押し殺して自分の母親と対峙する。


「あたし、このあと運動会でだいじなしゅもくをひかえてるの! あたしたちのじゃましないで」


 自分の親に対して言える言葉ではないことはアリエッテ自身も理解している。しかし彼女の中にずっと渦巻いている怒りという感情は、目の前の女性を母親とは思わせようとしなかった。


「だって当然だよ。あたしがお母さんって思っていた人はほんとうのお母さんじゃなかったんだから」


 3

 その後何とかアリエッテも合わせて三人一緒に開幕式の列に間に合うことに成功した。


「セフィちゃん、さっきおかあさんとは……」


 自分の母親と何を話したか気になるのかアリエッテは、セフィを見るなり尋ねようとしたが、その次の言葉を発することはなかった。


 〔今話をするタイミングではないよな〕


 彼女の母親から語られたのは、今から運動会というムードを確実に壊すであろう内容だった。


『貴女とは後で話がしたいです。アリエッテはきっとこのことを尋ねてくるとは思いますが、私がすべてを話すまで何も答えないでください』


 母親からもそう釘を刺されているので、この話の続きは昼食の時、もしくは運動会が終わった後になりそうだ。


「これよりリラーシア学院運動会初等科の開催を宣言します。皆さん全力で運動会を楽しんでください」


 開会式は何事もなく終わり、重苦しい空気を背負ったまま自分たちの席に戻る。


「でもすぐに一年生の徒競走、だよね」


「そうですね。アリエッテちゃんをさがし回ってかなり疲れたので、ぜんりょくを出せるか不安です」


「なんかごめん。あたしがめいわくかけて」


 あんなことがあったからか、どことなく三人の会話も気まずい。特にアリエッテとは直接話していたい俺は、彼女に今どう思われているか分からない。


 〔楽しい運動会になるはずだったのに、始まる前から暗雲がたちこめてきたなこれ〕


 初めての運動会は、ここからが始まりだ。

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