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第82話異世界式運動会 開幕 前編

 結局二人には本当のことを言えずに、俺はそのまま学院に登校することになった。


 〔このままで本当に大丈夫か?〕


 変にプレッシャーを感じすぎる俺が悪いのは分かっている。けど今日まで沢山練習してきたと考えると失敗なんてできない。


「おはようございます、セフィちゃん」


 どうすればいいかと葛藤していると、登校中にユイがいつものように声をかけてきた。


「おはようユイ。今日がいよいよ本番だね」


「はい。少しきんちょうしていますが、今日までがんばってきたことを思い出せば、きっとせいこうするって思っています」


「そう、だよね」


「どうかしましたか? 元気がないようにみえますが」


「うん、きょうが本番だって考えるとどうしてもねむれなくて、そのままあさをむかえちゃった」


 リレーには参加しないユイ相手なら自分の気持ちを話しても問題ないと思い、俺は彼女にだけ自分が感じているプレッシャーを話した。


「がくねんのだいひょうとしてリレーに参加するから、プレッシャーをかんじてしまう気持ちはわかりますが……それだとほんとうのいみで運動会を楽しめないと思いますよ?」


「ほんとうのいみで?」


「そうだよセフィ。あたしだってきんちょうはしているけど、運動会は楽しむものだからむずかしいことをかんがえちゃだめ」


 全てを話し終えたところでアリエッテが会話に入ってくる。


「アリエッテ、いつのまに……」


「セフィがユイになんか相談しているところからきいてたよ。あたしにだって話してくれてもよかったのに」


「でもアリエッテは……」


 昨日の別れ際の彼女の様子を思い出すと、とてもじゃないけど相談ができそうになかった。


『あたし、あしただいじょうぶかな』


 今の俺と同じことを言っていたアリエッテに励ましの言葉を言ってほしいなんて思えなかった。


「もしかしてきのうのこと、しんぱいしてくれているの?」


 そんな俺の心を読まれたのか、アリエッテがこちらを真っ直ぐに見つめながら言ってきた。


 〔本当小学生なんて思えないくらい鋭いよな……〕


 スイカさんに対してもそうだけど、俺の心は簡単に読まれやすいらしい。


「だいじょうぶだよセフィ。セフィが昨日あたしに言ってくれたように、一週間あたしたちは努力をしてきた。きっとそれはけっかにつながってくれる」


「わたしもそうおもいます。ですから、セフィちゃんがプレッシャーをあんじる必要はどこにもないんです」


「ふたりとも……」


 二人から思いがけない言葉をかけられ、少しだけ涙腺が緩む。


 〔こう言ってくれる友達って、本当に最高だな〕


 その言葉を思わず口にしてしまいそうになるが、


「きょうは、がんばろうねユイ、アリエッテ」


 運動会本番はこれからだ。


 2

 学院に到着するなり俺たちは運動着に着替え、リラーシア学院内にある運動場。普段授業では使うことがない運動場は、甲子園球場二つ分くらいの大きさの建物になっていた。


 全体が楕円形の形をしている会場


 初等科の生徒全員が座ってみることができる観客席


 そして保護者席もしっかりと備え付けてある


 〔デカすぎんだろ〕


 オリンピックの種目が行われても不思議ではない運動場の広さに、俺は言葉を失う。


「話は聞いていたけど」


「かなり大きいですわね」


 アリエッテとフランが俺と同じような感想を言うが、これくらいの大きさだったのは噂になっていたらしい。


「私たち今日ここで運動会をやるんですよね」


「うん、会場を見ちゃうと緊張感が高まってきた」


 前述したように運動場は甲子園二つ分の広さをしている。そこに収まりきらないくらいの観客と生徒たちが自分を見ているって考えると、さっき消えかかった緊張感が蘇ってくる。


 〔オリンピック選手になった気分だなこれ〕


 こんな緊張感の中で俺は運動会を楽しめるのだろうか。


『間もなく開会式を行います。生徒の方たちは、運動場入口に集まってください』


 しばらく観客席からボーっと会場を眺めていると、アナウンスがかかる。


「行きましょうセフィちゃん」


「うん」


 アナウンスに従ってユイと一緒に運動場入口へと向かうが、さっきまで一緒だったアリエッテの姿がないことに気が付く。


「そういえばアリエッテは?」


「いっしょにここまで来たはずなんですが、さきに集合場所に向かったんですかね?」


「いまアナウンスかかったのに、先に?」


 席に着いてからアナウンスがかかるまで十分も経っていない。その間にわざわざ先に向かう理由もないし、トイレとか別の用事だったら黙っていなくなるのもおかしい。


「アリエッテならさきほど、運動場の外にでていくのを見かけましたわよ」


 その疑問に答えてくれたのは少し離れた席に座るフランだった。


「運動場の……そと?」


「忘れ物をした、ようには思えませんよね」


「じゃあもっとべつの用事かな」


 このタイミングで黙って席から離れる理由があるとしたら、それはやっぱりアリエッテの両親のことだろうか。


 〔聞きそびれていたけど、遠足での一件の時アリエッテの様子、変だったよな〕


 特に身体測定の結果』を見た時の彼女の反応。あの時はそれ以上言及することはなかったが、あの後に何かがあったのは間違いない。


 ーそしてアリエッテはそんな素振りは一度も見せなかった


「ねえユイ」


「セフィちゃんもおなじことかんがえていますか」


「うん。今すぐアリエッテを探しに行こう」


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