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第80話異世界式運動会 特訓編③

 運動会前日


 この日は明日の予行練習も兼ねてリレーも行われたのだが、


「何がげんいんなんですかね?」


「わたくしにはサッパリ」


「私も」


 周囲からの声の通り、結果は惨敗。


「ねえアリエッテ、いい加減なんとかしないとやばいよ」


「それは分かっている。でもあたし、やっぱりこういうの苦手で」


「それは分かるけど......」


 練習すればするほどアリエッテはリレーに億劫になっていった。根底には苦手意識があるからなのだろうけど、このままでは明日の本番が更に悲惨になりかねない。


「セフィちゃん、あたし、やっぱりやめたほうがいいのかな。他の子にも迷惑かけているし」


 何度もミスをして流石にへこんだのかアリエッテは弱音を吐く。このリレーはセフィとアリエッテ以外にもう二人参加している。だから彼女の言う迷惑は、セフィに対してだけではなく学年全体に対して言っているのかもしれない。


(これは流石にやばいな。アリエッテがここまで弱音を吐くなんて久しぶりだぞ)


「ちょっとアリエッテさん、いじけているばあいじゃないわよ」


 どうしたものかと悩んでいると、リレーの走者の一人カエデがやってくる。


「べつにいじけてないし。カエデこそ練習をしたほうがいいんじゃないの」


「っ、喧嘩を売っているのかしら」


「べつに売ってないよ。あたしは思ったことを言っただけだし」


「あなたね」


「まあまあ」


 彼女はクラスの中でも三番目の成績を誇っていて、リレーのアンカーも任されているのだが、聞いての通りアリエッテと非常に仲が悪い、というよりクラス全員に対してこんな態度なのだ。


「セフィさんも呑気なこと言っている場合じゃないことくらいわかっているでしょ?」


「それはそうだけど。アリエッテを責める必要はないとおもうよ」


「そんな調子だから、きょうもあんな結果に」


 苛立ちを隠せないカエデ。彼女の気持ちも分からなくはないけど、少し言い過ぎな気もする。


「カエデはどうしてそこまでムキになっているの」


「あなたたちには関係ない話でしょ」


「関係ないかもしれないけど、アリエッテを責めるのは無視できないよ」


「......そんな調子だから舐められるのよ。聖女を目指すなら甘さも捨てないといけないのに」


 カエデはそう呟くと、セフィ達から離れる。


「なによあたし達がどれだけ頑張っているのか知らないくせに」


「カエデも悪気はないとおもうんだけどなぁ」


「悪気があるからあんなこと言えるんだよ。絶対に本番でみかえしてみせるよあたし」


 残されたアリエッテは、カエデに対して闘争心を燃やしていた。


(味方同士がこんな調子で、明日の本番大丈夫かこれ)


 だが俺の悪い予感は、別の方向に転がることになる。


 ■□■□■□

「さあやるわよアリエッテとセフィ」


 放課後。いつものようにフランの家にやって来たのだが、そこには何故かカエデの姿があった。


「どういう風の吹き回し? あたしはセフィちゃんと練習すればいいんだけど」


「本当にそれでいいのかしら。このままだとあなただけじゃなく、私たちが、一年生全員が恥をかくことになるわよ」


 会って早々に言い争いを始める二人。周りの俺達が間に入る隙も与えず、二人はまた口論をしている。


「......それはあたしも嫌だけど。でもカエデと特訓するくらいなら場所を変えるよ」


「ここ以外に練習できるばしょはあるの?」


「っ、それは......ないけど」


「でしょ? だから私達三人で練習したほうが効率がいいと思うの」


 カエデの正論に対して、それを認められないアリエッテ。


(この歳で効率とかよく言えるな......それにしても)


「カエデの言うとおりだとおもうよ、アリエッテ。練習できる場所もないし、なによりリレーはチームワークが大事だとおもう」


「セフィちゃんがそこまで言うなら。でも足を引っ張らないでよね」


「それはこっちのセリフよ」


 一見仲が悪いように見えるが、やり取りを見れば見るほど仲が良いように見えるのは気のせいだろうか。


(喧嘩するぼどなんとやらだな、これ)


「当然のようにわたくしの家に集まるのはどうなんですの」


「そう言ってフランちゃんは嬉しそうですよ?」


「べ、別にそういうわけじゃありませんわよ」


 色々あったが特訓最終日はカエデも含めた六人で行うことになった。


「ほらもっとスピード上げて! わたし追いつくわよ?」


「無茶、言わないでよ。これでも全力なんだから!」


 リレーの練習相手が増えたこともあってか、バトンを受けとる側の練習も充実することになり、アリエッテの基本的なスピードも増していった。


「もしかしてカエデって、体育会系?」


「たいいく......なにそれ」


「あ、べつに何でもない」


 授業の時アリエッテはああ言っていたけど、彼女の運動神経は抜群で高学年相手にも劣らない足の早さを誇っていた。


(もしかしなくても、バトンの受け渡しが成功すれば上位も狙えるかもしれない)


 この数日ひたすら走ったお陰か、セフィやアリエッテの足も少し早くなった。カエデ程ではないが間違いなく成長はしている。


「楽しんでますわね、三人とも」


「私達も負けられないよこれ」


「そうですね!」


 少しだけ希望の光も見えたところで、俺達の特訓は終わりを迎えたのだった。

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