第79話異世界式運動会 特訓編②
「今さらですけど、なんでわたしを誘ったんですか? アリエッテちゃん」
あたしとユイちゃんが実行委員となった運動会。ヤル気満々なあたしに対してユイちゃんは少し不満気だった。
「なんでって、あのときあたし達ってまだ友達になりきれていなかったし、ユイちゃんもどこか引っ込み思案だったから誘ってみようかなっておもったの」
「それだいぶわたしをバカにしていますよね」
ユイちゃんの気持ちは分かる。あたしが初めて出会ったときは内気な女の子だったし、運動もできそうには見えなかった。
だからなのかもしれないけどあたしは彼女を放っておけなかった。
「バカにはしてないよ? ただあたし、どうしても放っておけなくて」
作業を手伝いながらあたし達は会話を続ける。
「わたし、そんな風な人間に見えますかね......」
「最初のころユイちゃん、だれにも話しかけづらそうにしていたでしょ?」
「それは、そうですが」
「だからあたしユイちゃんは人見知りとかなのかなって思ったの。余計なお世話だったかな」
「うれしかった、ですよ。わたしみたいな人間に友達なんてできないって思っていましたから」
ユイちゃん自身は隠していた自分は今の聖女の娘だという秘密。実はあたしはユイちゃんの存在も少しだけ知っていたのだけど、セフィちゃんと違ってライバル心とかそういうのは沸いてこなかった。
「聖女様の子供だって隠すつもりだったの?」
「はい。ナインがセフィちゃんに接触するハプニングが無ければ、ずっと黙っていたかもしれません」
「ふつうは話せないよね......」
あたしにだって誰にも話せない秘密があるくらいだ。ユイちゃんの秘密なんて誰かに話せるようなものじゃない。
「話が逸れちゃったけど、とにかくあたしはそんなユイちゃんと少しでも仲よくなりたくて委員会に誘ったの」
「そういうこと、だったんですね」
「すこし無理矢理だったのはごめんね。許してほしいな」
「べつに怒っていないので、いいですよ。けっきょくはお友達になれましたから」
実行委員が決まったのが入学して最初の頃だったので、あたしはようやくこの件でユイちゃんに謝ることかできて少し満足した。
「それでその運動会ですが、アリエッテちゃんは学年リレーに出るんですよね?」
「そうなのぉ。あたしリレーなんてしたことないのに、なんか成績で決まっちゃって」
「あ、アリエッテちゃん、作業中ですよ?!」
リレーのことを思い出してしまったあたしは泣きつく。
「ぜったいに他に運動がむいている人いるのに、酷いよね?!」
「ま、まあそれはたしかにそうですが」
「このまま練習しないと、あたし恥かいちゃうよぉ。なんとかならない?」
「わたしに聞かれても......あっ」
「なにか閃いたの?」
「ひとり運動神経ばつぐんの人がいました!」
「え?」
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「ということでよろしくねフラン!」
「あのですねぇ、わたくしは先生じゃありませんのよ?」
フランの家でトレーニングが始まって三日目。ユイの提案で何故かアリエッテとユイも一緒に練習することになった。
(秘密にしていた意味ないだろこれじゃ)
まさかユイがフランの運動神経の良さを知っているとは思っていなかった。
「それにしてもズルいよ! あたし達に秘密で特訓だなんてさ」
「言い出したのはエルだけどね」
「その方がたのしいでしょ?」
「楽しいより辛いの方が上回っているけど......」
正直この三日間はまさに地獄だった。
フランの運動神経とスタミナの高さ
ついこの間のピクニックでバテていた人物とはとても思えない。
(毎日トラック何周もするのはキツイぞこれ)
高校生の頃だって運動部じゃなければこんなに運動はしない。つまり俺自身がこの運動量についてこれていないのだ。
「家まで来てしまいましたし、追い返せませんわよね。いいですわ、五人でトレーニングをしましょう。その代わり、手加減しませんわよ」
「「手加減?」」
この後何の事情も知らない二人は地獄を見るわけだが、割愛させてもらうとして。
「私たちは私たちで、リレーのれんしゅうもしないと、ね」
「あれだ走ったのに、まだ、やるの?!」
セフィとアリエッテはリレーの練習をしなければならない。
「リレーで一番肝心なのはバトンパスですわよ。二人がお互いに意志疎通しないと成功しませんわ」
「ねえフランはどうして息切れしてないの?」
フランが言った通りリレーで大事なのはバトンパスだ。渡す側と受けとる側、その両方の意志疎通ができていなければこれが成り立たない。
「つまりあたしとセフィちゃんだけで練習しないと、当日成功しないってこと?」
「うん。順番的にアリエッテがわたしにバトンを渡す側だから、アリエッテはまずわたしの手にバトンを収める練習をしないと」
一応この三日間でエルとフランと一緒にバトンリレーの練習はしたが、当人相手じゃないと間隔とか色々変わってくるから練習を重ねなければならない。
のだが、
「セフィちゃん、ちゃんと掴んでよ」
「アリエッテこそ、もうすこし足を早くしてよ」
「む、むちゃ言わないでよ!」
何故か練習を重ねる度に失敗の頻度が増えていった。
「これ、当日不安ですわね」
「そうですね......」
そして特訓はつにに最終日を迎えることになる。