第78話異世界式運動会 特訓編①
エルの提案で突然行われることになった三人だけの秘密の特訓。
その場所に選ばれたのは何と、
「何故わたくしの家ですの?!」
「だってフランちゃんっていかにもお金持ちそうだし」
「そういう場所とかあるかなって」
「もちろんありますわよ!」
あるんかいと内心ツッコミながらも、エルがそれを言うかと思ってしまう。
(この中だとお金持ちは間違いなくエルだろ)
俺とエルだけの秘密だからそんなことに言えないけど。
「もう、きょうはおとうさまもおかあさまもいらっしゃらなかったからよかったですが、せめて事前にいってくれません?」
「だってさっき決めたことだし。フランちゃんもノリノリだったでしょ」
「それは、そうですが」
若干不満そうなフランの案内で、彼女の豪邸の中にあるトレーニング場へと向かう。
「フランの家にはじめてきたけど、やっぱり広いね」
「広さだけが自慢みたいなものですわよこんないえ。使っていない部屋も多いですもの」
別荘があるくらいだからある程度予想できていたが、フランの家はヨーロッパの豪邸のような洋式の屋敷だった。
「お父さんとお母さんが家にいないっていっていたけど、しごと?」
「そうですわね。ふたりとも仕事でほとんど家を空けていますわ」
「そうなんだ。じゃあ普段のせいかつとかどうしているの?」
「使用人が何人かいますわ。その者達に料理などを頼んでいますわ」
「へえ」
フランのことをあまり聞いたことがなかったので、彼女の私生活を聞くのは初めてだった。
(それにしても使用人、か)
エルの顔を見る。彼女もメイドがいると言っていたが、アリエッテといい使用人やメイドをつけるのは当たり前の事なのだろうか。
「どうしたのセフィちゃん。わたしの顔になにかついてる?」
「あ、ううん。なんでもない」
しばらく歩いた後、ある扉の前でフランは足を止め開く。
「ここですわ」
開かれた扉の先で待っていたのは、
「うわぁ」
「ここ家の中だよね? 学院の運動場とかわらないよ?」
400メートルトラックや鉄棒、その他様々
家のにあるとは思えないほど、大きな運動場がそこにはあった。
(流石はお嬢様)
小学生の運動会なので、そこまでやる必要はないと思うけど。
■□■□■□
「それで具体的どんなれんしゅうしますの?」
準備運動を軽くした後、フランが切り出す。
セフィ達初等科の子が出場する種目はこれだ。
徒競走、玉入れ、そして学年別リレー
そもそもクラスが一つしかないので、クラス対抗とかそういうものがなく、リレーは各学年で選ばれた生徒が出場する感じだ。
「それでセフィちゃんが選ばれてしまいましたのね」
「わたしリレーなんてやったことないんだけど......」
何故かそのリレーに、俺ことセフィが選抜されてしまった。
(運動はそんなに得意じゃないんだけどなぁ)
恐らく潜在魔力測定が基準になっているからなのだろうけど、選ばれてしまった俺とアリエッテは正直うなだれていた。
『あたし当日休もうかな......』
『実行委員は進んでなったのに?』
『走るの苦手なのあたし』
とアリエッテは嘆いていたくらいだ。
「わたしも走るの得意じゃないんだけど、どうしてこうなったんだろ」
「しかたないですわよ。他にひとがいませんでしたし」
「そういうフランは?」
「苦手ではありませんが、魔力測定が悪かったですわ」
「なるほど......」
潜在魔力が高い人が優秀みたいな理論はどうかと思うが、どうやら俺には逃げ場がないらしい。
「そのための特訓、でしょ?」
「そう言うエルは運動は?」
「うんどうなんてしたことないよ?」
「当然のように言わないでよ」
流石は王室の人間。
「そもそもうんどうかいってなに?」
「そこから?!」
一からエルに運動会について説明する。彼女も確か練習の授業に参加しているはずなんだけど、それ以前の問題だったらしい。
「じゃあたくさん走ったり、玉を投げたりすればいいの?」
「あながち間違って、ないかな」
とりあえず俺が問題視している徒競走とリレーの練習から始めることに。
「リレーって、たしかトラックを半周ずつ周って、半周ごとにバトンを渡すんでしたわよね?」
「うん。流石にここよりは短いけど、大体そんな感じ」
最初運動会もあると聞いて俺が驚いたのは、現実の世界の種目とか用語とかがそんなに変わらないということだ。フランも当たり前のようにトラックとかバトンとか使っているし、やる競技も大体一緒だ。
(本当に違和感ないよなこの世界)
「走るということはやはり持久力から鍛えたほうがいいですわね。軽く一周走ってみましょう」
準備運動は済んでいるので早速意気揚々とフランが走り出す。
「軽くはしるって、ここ一周でも充分長いんだけど?!」
「あ、待ってよー」
それに俺とエルは付いていこうとするが、
「って、はやっ?!」
フランは小学生とは思えないほどの脚力をしており、俺達はとてもじゃないけど付いていけなかった。
(走るのが得意とかそういう次元じゃないぞこれ)
俺達の特訓相手はもしかしたら間違いだったのかもしれない。