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手違い転生〜男の俺が聖女として人生を歩む〜  作者: りょう
第1部第1章転生聖女入学する
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第7話恩返しの形

身体測定から一週間が経ち、ようやくこの世界での勉強にも身体が慣れ始めた頃。入学後初めての大きな行事が迫っていた。


「皆さん、来週はいよいよ遠足です。今日まで学んできたことを活かして、精一杯楽しみましょう!」


 それは遠足


 小学生のイベントらしいといえばイベントらしいが、どうも引っかかるのは今の先生の言葉。


 今日まで学んできたことを活かす


 遠足に果たしてその言葉はあっているのかいささか疑問だ。俺の中では遠足というものは皆で楽しむものであって、勉強してきたことを活かすような場所ではないのははっきりしている。


 ましてや小学一年生レベルの生徒達が行う遠足


 この学院は果たして俺たちに何を求めようとしているのだろうか。


「たのしみだね遠足」


「う、うん」


 もはや日常となってしまったアリエッテとの帰り道


 楽しみだというアリエッテに対して、疑念が拭えない俺は少し曖昧な返事をしてしまう。


「あれ? たのしみじゃないの? セフィちゃん」


「楽しみじゃないわけじゃないけど、ちょっと怖くて」


「こわい?」


「なんか先生の言い方だと、楽しめるような遠足じゃない気がしちゃって」


「そうかな? あたしはすごく楽しみなんだけどなぁ」


「なにもなければ私も楽しみなんだけど……」


 何もなければそれでいい。ただここはいわば育成校。遠足がただの楽しいイベントで終わるとはかんがえづらい。


(考えすぎであってほしいが……)


「あたしはセフィちゃんがいっしょならどんな事でも楽しいよ」


「は、恥ずかしいこと言わないでよ」


「セフィちゃんは嫌?」


「嫌じゃないけど……」


 アリエッテの言葉に一瞬でもドキってしてしまった自分。相手は小学生。小学生なんだ。そして俺も小学生。こんなのでときめいてしまってはいけない。


「すごく楽しみだなぁ、遠足!」


「わ、私も」


 もう一度笑顔で言うアリエッテに、ドキドキを隠すように俺は小声でそう答えることしかできなかった。


(頼むから楽しいままの遠足で終わってくれ)


 しかしそんな俺の思いはいとも簡単に裏切られることになる。


「ではこれから皆さんには、事前に決めてもらったチームに別れて、争ってもらいます」


 遠足

 それは入学、もしくは新しい学年に上がった学生たちが新しいクラスメイトと親睦を深めるために用意されたイベント。


「こっちの道って通ったっけセフィちゃん」


「分からないよ。同じ道だし」


「ふぇぇ、怖いよ二人とも」


 しかしこの世界の遠足はやはりというべきか俺の知ってる遠足ではなかった。


 まず一に、この遠足では魔法の使用が許可されている。


 基本使えるのは授業で習った初歩的な魔法に限られているが、(セフィ)やアリエッテの様に生まれながらにして魔法を使える子は、それの使用を認められている。


 とは言え、俺が使えるのは傷を癒す魔法くらいだが。


 二にこの遠足は初等科一年生全員であることが競われている。


 その内容は至ってシンプル。予め分けられたグループで協力して連れてこられた名前も場所も知らない山から下山し、その順番をグループ同士で競う、というルールになっている。


 そして三にその競いあいのなかでグループの妨害が可能。


 魔法を使っていい理由がこれだ。


 仲間と協力して他のグループを倒して一番を狙う。とても聖女の育成校とは思えない過激な内容に、俺はこの説明を聞いたときドン引きしていた。


(せめてピクニックは楽しいイベントにしてほしかった......)


「ねえセフィちゃんはどう思う?」


 心の中でため息をついていると、アリエッテが話を振ってくる。


「へ? な、何が?」


「だからあたし達で一番狙えないってユイちゃんが言うから」


「だ、だってぇ、わたし二人みたいにまほうなんて使えないし......」


 アリエッテの言葉に三つ編みの眼鏡をかけた女の子が体を震わせながら言う。


 彼女はユイ


 幸か不幸か俺とアリエッテの班に数合わせで入れられた同じグループの子。彼女は今の様子から分かるように、小心者らしくセフィかアリエッテの背中に張り付いてプルプル震えている。


(よく考えると俺達は小学一年生。親離れなんてできてない年だし、これが普通の反応だよな)


 俺はともかくとしてアリエッテはそんな素振りを一切見せないのだから、なんというかすごい。


「別にわたしも一番は狙わなくてもいいんじゃないかなって思うんだけど......」


「セフィちゃんまでどうして弱気なの? 折角なんだから一番ねらおうよ!」


「そうは言うけどわたしもユイちゃんと同じでちょっとこわいもん。ここ何か出そうだし」


 アリエッテには申し訳ないがこれは俺の本心だった。今はまだ朝なので山の中は明るいが、時間が経てば暗くなる。一応時間は決まっているものの、ここは異世界の山。地球での常識が通るはずがない。


(熊や猪ならまだマシだよなぁ。あれもあれで危ないけど)


「それにわたし戦えるようなまほう使えないよ?」


「それはあたしに任せて! セフィちゃんとユイちゃんはサポートしてくれればいいから」


「うーん、それなら構わないけど......」


 潜在魔力値から分かるように、アリエッテに頼れば問題なさそうに見える。が、しかしそれ以前の問題を俺達は抱えていた。


「まずここはどこなの?」


「え、えっと、山のどこか?」


「それはそうだけどね?!」


 遠足が始まってから約二時間。

 最初の会話から分かるように俺達三人は山の中で遭難していた。周囲を見回しても生徒一人の姿も見えない。


(大人ならまだしも、流石に小学一年生三人が遭難はまずいよな)


 文字通りサバイバルとなった遠足はまだ始まったばかり。

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