第77話憧れ
戦いが終わった日の夜。
「じゃあユイは明日、家に帰るの?」
「はい。予想以上に長居してしまいましたから」
ユイから明日には家に帰ると告げられた。何だかんだで一週間近く家にいたので少しだけ寂しさも感じる。
「でもだいじょうぶなの? 一週間ちかく誰とも連絡を取っていないんでしょ?」
「はい。ですが、わたしもいつまでも逃げてはいけないと思ったんです」
「そっか」
「それにちゃんとはなしをするって約束ですから。わたし、ちゃんとおかあさんと話をしたいと思います」
そう言うユイの目は真っ直ぐで、どこか決意をした顔をしていた。
「これもセフィちゃんとアリエッテちゃんのおかげです」
「わたしは大したことできてないよ。むしろ傷つけたくらいだし」
「そんなことありませんよ。今日二人と戦って、自分も前に進まなきゃいけないって思えたんです。それに」
「それに?」
「わたしセフィちゃんみたいになりたいって思ったんです」
「わ、わたしに?」
ちょっと予想外な展開に俺が戸惑う。
(俺なんか人に憧れるようなこと一切してないのにな)
憧れているのはセフィにで、別に俺に憧れているわけではないのだけど。
「ど、どうしていきなりそんなことを」
「今日の戦いでおもったんです。セフィちゃんがわたしが目指したい人なんだって」
「わたし、ユイが憧れるようなこと一つもしていないけど」
「それはセフィちゃんが思っているだけです。今日の戦い、あの剣をだしたとき思わずかっこいいと思ってしまいました。セフィちゃんもセフィちゃんなりに頑張った結果があれなんだなって」
「カッコいいだなんてそんな」
「カッコいいからセフィちゃんみたいになりたいって言いたいんです。ダメでしょうか?」
「だ、だって」
俺として恥ずかしくて仕方がないのだが、何を言ってもユイが引いてくれそうにないので、
「わかったよユイ。その代わり皆のまえではあまり言わないでね。恥ずかしいから」
「わかりました、ありがとうございますセフィちゃん」
こちらが折れるしかなく、何故かユイに尊敬されるようになったのだった。
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色々あった新学期の始まりも大分落ち着き、半月後。
「なんというか私たちの知らないところで、色々なことがありましたのね」
「黙っていてごめんなさい。私たちも話せないことがおおくて」
この半月にあったことを、何も知らなかったフランに報告していた。
「それにしてもユイちゃんが家出とは、驚きましたわ」
「お母さんと、ユリエル様と色々あったみたいでさ。一応は解決したみたい」
「それならいいですけど。それより気になるのが」
フランが俺の隣にさりげなく座っているエルの顔を見る。
「なんでエルもいますの?」
「いたらダメ? わたしもその話が気にあるんだけど」
「まあいいですが......」
エルの場合は気になるというか、多分だけど俺達の動向を観察したいだけなのだろうけど、未だにここまでセフィに、そしてユイに執着するのか分からない。
「それでセフィちゃんはユリエル様ともう一度会えましたの?」
「ううん、まだこれから。ユリエル様の予定が合わなくて」
「なるほど。今度は一人で会いにいくんですのよね」
「うん、そのつもり。フランも行きたかったの?」
「いいえ、そういう訳じゃありませんの。ただとなりの彼女が行きたそうの顔をしていまして」
フランに言われてエルの顔を見ると、明らかに行きたそうな目をしていた。
「エルもつれていかないよ?」
「どうして?!」
「どうしてもなにも」
(思惑が見え見えなんだよなぁ)
せめてその思惑は隠せよと思ってしまう。
「とにかくダメだから。アリエッテも連れていかないし、今回はわたしとユイだけ!」
「「えー」」
「えーじゃないし、どさくさに紛れてフランもそっち側に行かないでよ! あと二人とも、それよりも大事なイベントがあるでしょ」
「あっ、そうでしたわ」
ユリエル様に会うことも勿論大事だが、この時期の学校のイベントとして欠かせないイベントが、ちゃんとこの世界にも存在した。
「大事なイベント?」
「うんどうかいだよ、うんどうかい」
それは運動会だ
小学生なら運動会、中高生なら体育祭と呼ばれる秋のイベントとしては欠かせない大イベントが待っていた。
「そういえばアリエッテちゃん達がここにいないのって」
「運動会の係員? みたいなのにユイも一緒に任命されちゃって居ないの。そういえば入学してすぐに決めたことだから、エルはしらないんだっけ」
運動会の実行委員に率先してなったアリエッテと、それに半ば巻き込まれるようになってしまったユイはこの数日実行委員の仕事で忙しく今日もいないので、この三人だけが放課後取り残されてしまった。
「ユイちゃんも可哀想ですわよね。いちばん運動がにがてそうなのに」
「それがさ、ユイもさいしょは嫌がっていたんだけど最近妙にやる気があるんだよね」
その理由を聞いてもユイは答えてくれず、何故彼女がやる気なのかイマイチ分からずにいた。
「わたくしたちも備えないといけませんわね」
「うん、そうだね」
「なら二人に提案があるんだけど、三人で秘密の特訓をしない?」
「秘密の......とっくん?」