第77話聖なる剣
「わたしお父さんみたいに強くなりたい」
そんなことを言い出したのは、リラーシア学院に入学する少し前の話。
まだスイカさんも、フィアもいない二人きりの生活だった頃の話。
「俺みたいにって、セフィは十分強いじゃないか。母さんの血を引いているんだし」
「それをいうなら、お父さんの血もだよ」
「それはそうだが」
最初そう言い出した時、流石にユシスは困っていた。当たり前だ、自分の娘が自分みたいになりたいだなんて言い出したら、俺だって戸惑う。
「どうしてそんなこと言い出したんだ?」
「わたしお母さんの血は強いかもしれないけど、お父さんの血はどうなのか分からないし、もしちゃんと引いているならお父さんみたいに誰かを護れる力もほしいの」
「欲張りだなセフィは。母さんも流石にビックリしているぞ」
「すぐにつよくなれないのはわかっている。でも少しずつでいいから、じぶんで護れるちからがほしい」
「そうは言うが、いくらなんでも本当の剣は持てないだろうしな......」
ユシスはしばらく考えるように黙ってしまう。
(流石に無茶なお願いだったか?)
すっかり忘れていたが、俺は男でもセフィ自身に握力とかそういうのがなければ、剣を持つことすら間にならない。
「ひとつだけ、案はある」
「え?」
「普通の剣は持てないかもしれないが、セフィの素質なら魔法で剣を作れるかもしれない」
「まほうで剣を?」
「魔法剣、いやセフィの場合は聖なる力の剣、聖剣とで言うべきか。ただセフィはまだ幼い、そんな簡単には使いこなせないと思う。だから時々だけど俺が稽古をつける、なんてのはどうだ」
聖剣
ゲームの世界とかでしか聞いたことがないそのワードに、俺の心が踊るのを感じる。
(厨二病心がくすぐられるなこれ)
「なあセフィ、正直俺はお前が剣を覚えることに賛成していない。セフィはまだ五歳だ、他の道だってあるんだ」
「そうだけど、わたしはわたしなりに色々なことを覚えていきたいの」
「そうか......なら、止めないが手加減はしないからな」
「はい、お父さん!」
こうして俺はユシスから剣を学ぶことになった。その修行はまだまだ途中だが、人並みに扱えるくらいには成長している。
(アリエッテには申し訳ないけど、セフィとしての切り札を来るときに使わしてもらう)
チートだけに頼らない自分だけの力、それで俺はアリエッテに証明してみせる。
ズルだけが全てじゃないことを。
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「まさか影で剣まで学んでいたなんて」
聖剣を取り出したセフィに流石に驚いたのか、スイカさんはすっかり呆気にとられていた。
「ごめんねアリエッテ、わたしあなたに負けられないの」
「流石だね、セフィちゃん。でもいまの私の魔法なら」
アリエッテが高まる魔力で生み出したのは、複数の槍。俺みたいに持つのではなく、それを直接投げるつもりなんだろう。
「その剣でも貫ける!」
アリエッテはそう言いながら複数の魔法の槍を俺にめがけて投げてきた。
それに対して俺は、
「どういうつもり? そんな小さなけんで防げるわけ」
剣の中腹で受け止められるような防御の態勢を取る。アリエッテの言う通りこんな剣一本で槍を防ぐのは難しいだろう。
「でもちがうよアリエッテ」
「え?」
しかしこの剣は文字通り魔法でできた剣。全体を防げるバリアの魔法を張ることだってできる。
「ま、魔法の剣からまほうを?!」
全てを防ぎ、隙ができたアリエッテに、俺の方から接近する。
「あっ」
「ちょっと手荒だけどごめんね、アリエッテ」
そして彼女を足払い転倒させ、剣を突きつけた。
「これで勝負あり、かな」
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「さすがに予想できなかったよ、セフィちゃんがそんな隠し玉持っていたなんて」
「だれにも話していなかった事だしね」
時間にしてものの数分で決着がついてしまった三人の戦い。それが終わったあとはいつも通りの自分達に戻っていた。
「ユイもスゴかったよ。魔導書一冊であそこまでまほうをひきだせるなんて」
「そ、そんな大したことはしていないですよ私。ただ二人に勝とうと必死で」
「それがすごいんだよ、ユイは」
自分も戦いたいと言い出したのはたった数日前。その間にユイは自分が今できることを全力でやった。その努力は誰にも劣らないと思っている。
「ありがとうセフィちゃん、あたしと正面から戦ってくれて」
「お礼なんかいらないよ。わたしはアリエッテがいたからあそこまでのちからを引き出せた」
「そんな、あたしはあんなこと言ったのに」
「今は気にしてないよ。それよりもさせっかくわたしが勝ったんだから、ひとつお願い聞いてくれない?」
「おねがい?」
アリエッテの本音を聞いてから俺はずっと考えていたことがある。
(俺もアリエッテも互いに勝手にライバル視していたけど、今なら本当のライバルになれるんじゃないか?)
これから先も互いを高めあう為にも、ライバルは必要になってくる。もうズルなんて言われないくらい自分自身で強くなっていきたい。俺はいつしかそう思うようになっていた。
「これからお互いに成長していくために、わたしのライバルになってほしいの」