第72話家出少女
「そういえば今日、ユイの姿を見ていませんわね」
始業式も終わった放課後、フランがふとそんなことを言い出して、俺もようやく気づく。
(エルやアリエッテのことですっかり忘れていたけど、そういえばユイを今日一日見てなかったな)
「体調不良とか?」
「うーん、そうかもしれないけど。何か少ししんぱいですわね」
色々あった後だからユイの事が心配になってくる。
(気のせい、かもしれないけど)
「せんせいも体調不良とか言っていなかったし、あたしすごく心配」
「行った方がいいですわよね、ユイの家に」
「でもユイの家どこにあるの? 私しらないよ」
「「あっ」」
セフィの家やアリエッテの家には行ったことがない。つまり心配はしても直接会いに行くことができない。
「ユイが学院に来るのを待つことしかできないってことですわね」
「うん。わたしたちに今できることはユイが学院に来るのを待つことしかできないね」
仕方がないこととはいえ、原因が自分にある分申し訳なくなる。
(新学期早々、問題だらけだなこれは)
とりあえず俺は、ユイを信じて待つことしかできないのだった。
■□■□■□
学校の帰り道。
「まさか再会するなんて思わなかった、会えて嬉しいよセフィちゃん」
ユイの事も気がかりだったが、どうしようもないので帰宅することになり、その帰り道にはエルが何故か着いてきていた
「私もビックリしたけど、エルの家はこっちなの?」
「ううん。真逆の方向。でも迎えがくるからだいじょうぶ」
「むかえ?」
どこかアリエッテと同じ匂いを醸し出すエル。
「そういえばいちねんまえに会ったときは、誰かといっしょだったよね」
「あ、うん。キサラって言って、私のメイドみたいな人かな」
「め、メイド?」
「あ、メイドを知らない? えっとメイドは」
「大丈夫。し、知っているから」
アリエッテも似たようなものだし、俺だって家庭教師なり守護天使なりいるくらいだし。
(あれ、俺も大概人のこと言えなくないか?)
「と、とにかく、キサラさんはメイドなんだね。じゃあその人に迎えにきてもらうんだ」
「うん! ふだんはあまりこういうことやらないけど、折角セフィちゃんと再会できたから沢山お話ししたいんだもん」
「そ、そうなんだ。なんか、ありがとう」
俺はエルに気づかなかったけど、そう言ってもらえると何か嬉しい。
(そもそも髪型とか変わりすぎていて、気づかないよな普通)
「それにしてもセフィちゃん、私ちょっと驚いたんだけど」
「なに?」
「セフィちゃんって、先代聖女様の実の子供なんでしょ?」
「う、うん」
「じゃあセフィちゃんって、すごい力を持っていたりするの?」
「え、えっと」
何とも答えづらい質問をしてくるエル。
(そこまで有名なのか? エルは元々王都の人間なのに)
ユシスはともかくとして、まさかそこまでセフィの名前が知れ渡っているなんて思いもしなかった。
「そ、そんなにすごい力は持っていないよ」
「でも聖女を目指しているくらいだし、力を隠しているんじゃないの?」
「ち、ちがうよ」
「ちがう?」
「あ、え、えっと、だから、その、じぶんでも、自信がなくて」
「そうなの?」
「う、うん」
その通りではあるんだけど、ちょっと誤魔化してしまった。再会したとはいえしたとはいえ、まだ出会って一日の関係、下手に探られたくはなかった。
「でも自信がなくても、力はあると思うよ私。もう少し自信を持ってもいいと思う」
「そう、かな」
「週末友達と本当の戦いをやるんでしょ? なら少しでも自信をもたないと」
何故か知らないけど、エルにそんなことを言われると心なしか自信が沸いてくる、気がする。
(全部知っているような言い方なのが引っ掛かるけど)
「ありがとうエル」
「どういたしまして」
■□■□■□
その後エルと別れた俺は、自分の家の前にお客がいることに気がつく。
「あれ、もしかしてユイ?」
「せ、セフィちゃん......」
そこにいたのは何と、さっきまで皆が心配していたユイだった。
「どうしたのユイ。きょう学校に来てなかったから皆が心配していたよ」
「すい、ません。きょうはどうしても学校に行けなくて」
よく見るとユイは片手に荷物を持っている。涙を浮かべている辺り、もしかしたらユイは家出をしてきたのかもしれない。
「話ならきくよ?
「ありがとうございます、セフィちゃん」
下を向いたままのユイを家の中へと連れていく。
「おかえりなさいセフィちゃん。あれ、もうひとつ気配がありますが誰か連れてきたんですか?」
「実は」
出迎えてくれたスイカさんに事情を説明する。
「とりあえず話を聞いてみた方がいいかもしれません。さあ上がってくださいユイちゃん」
「は、い」
ユイは一度スイカさんに連れられ、どこかへ行ってしまう。残された俺は一度部屋に戻り学校の荷物を置き家のリビングに向かう。
「そういうことですか」
リビングでは事情を聞いていたスイカさんが頭を悩ませていた。ユイは相変わらず下を向いたまま。
「なにかわかったんですか?」
「わかった、という、やっぱりって感じですね」
「やっぱり?」
「多分ですけどセフィちゃん、あなたに原因があるかもしれません」
「わ、わたし?」