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第70話母からのメッセージ

 フィアに引っ張られながら家に帰ると、真っ先に出迎えてくれたのはユシスだった。


「おとうさ......」


「よかったセフィ!」


 俺の姿を見るなりユシスは抱き締めてくれる。よほど心配してくれていたのか、ユシスの目には涙も流れていた。


「お前が家を出ていったのに引き留められないで、もしお前が帰ってこなかったらって思って俺は俺は......」


「おとうさん、ごめんなさい。わたしも、一度に知ったことがおおくてすごく混乱して」


 そんなユシスを見たら俺もつい涙が流れてしまう。


「俺もずっと黙っていて悪かった。今話してもきっと混乱するって思っていたから、話すことができなかったんだよ」


「いいよ。わたしだってみんなに秘密にしていたんだから」


「俺は五年も嘘をついていたんだ。謝るだけじゃ許されないことだって分かっている。でも母さんの、ソフィの気持ちも分かってくれないか?」


「うん、ちゃんと分かってる。二人がどれだけ悩んで、計画を行ったのも。だからね、わたし怒っていない」


「ありがとう、セフィ」


 親になるということ。

 それは大人になる前に死んでしまった自分には分からないことだけど、俺が考えている以上にたくさん悩んでいるんだって、初めてソフィの日記に触れてよく分かった。


(もし計画に失敗していたら、俺は無駄死にだった可能性だってある。だからユシスやソフィにだって感謝している)


 手違いでの転生だったとはいえ、この世界でできた新しい家族。


「こちらこそありがとう、おとうさん。私を頑張って育ててくれて」


 俺はその家族を今更ながらに大切にしたい、そう心に誓ったのだった。


 ■□■□■□

「線香と水は持ったか?」


「うん。準備オッケーだよ」


 翌日。

 すっかり遅れてしまったソフィの墓参りをユシスと一緒に行った。


「そういえばこうしげセフィを連れて行くのは初めてだったな」


「うん。おかあさんのお墓、初めて行く」


「俺は毎年ちゃんと行っていたんだけど、ソフィもきっと喜ぶだろうな」


 二人でソフィが眠るお墓の前に立ち、線香を上げたり色々して手を合わせる。


(お母さん、日記全部読んだよ)


 家に帰った後、俺は残りの日記を全部読み終えた。そこに書いていたのは、俺がセフィとしてここにやって来た後の物語、そして最後に残していたメッセージだった。


『セフィ、そして私の我儘を聞いてくれたもう一人の子供、さんへ』


 最初にその文字を見たとき、驚きを隠せなかった。

 俺はこの世界にやって来て、一度も自分の親や周りの人間に本当の名前を言ったことがない。それなのに彼女は全部知っていたのだ。


『貴女がこのにっきをでいるということはきっと、私達がやってきたことを全て知ったあとだとおもいます』


 文字が書けなくなっていったその日記は、所々平仮名でなんとか書いているのを伝わってきた。


『だからまず最初にこれだけはいわせてください。あなたを私達の我儘にまきこんでしまってごめんなさい。きっユシスはずっと黙っていたと思いますし、貴方も彼を責めてしまうとおもいます


 その通りだ。俺は全部知っていて尚今日まで黙っていたことを許せなかった。けど、家に帰ってきて彼に言われた言葉に、俺の怒りはすっかり収まっていた。


 彼も一人の親で、ソフィやセフィの為に今日まで黙っていたんだって。そんなことを知ってしまったら怒れなくなっていた。


『でもおとうさんのことを恨んだりしないでください。ユシスにはあなたしかいませんし、あなたにはユシスしかいません。だからどうかこれからどうか二人で仲良く過ごしてください。そしてもしも困ったときは』


「終わったか、セフィ」


「うん、初めておかあさんに挨拶したから沢山喋っちゃった」


「そうか」


 二人でお墓を離れる。これからは何度もこの墓に訪れることになるだろうし、きっとソフィもそれを望んでいる。


「ねえおとうさん」


「どうかしたか」


「わたしこんな環境で産まれたにんげんだけど、おとうさんもおかあさんも大好きだよ」


「っ、そ、そうか」


「だからね、わたしこうして転生したのも後悔してないし、誰も恨んでない。ううん、恨むことはやめた」


「やっぱり恨んでいたか」


「さいしょはね。だってほんとうは私が転生するわけじゃなかったし、男の自分が女に生まれ変わるなんて考えもしなかったし」


「そうか、男が女に......え?」


 俺の言葉に足を止めるユシス。そんな彼を無視して、前を歩く。


「ま、待てセフィ、今なんて」


「なんでもなーい」


「おい、セフィ、今の言葉もう一度言ってくれセフィー!」


 最後に俺はとんでもない暴露をしたわけだが、心は晴れやかだった。


(本当不思議だな。五年間隠していた秘密がバレたのに)


 まだ想うところは色々あるけれど、とりあえず明後日からの新学期に備えないと。


 ■□■□■□

 同時刻。

 リラーシア学院、学院長室にて。


「が、学院長、これはどういうことですか?」


「どうしたのそんなに慌てて」


「あ、明後日から転校生が初等科のクラスに入るという話は聞いていましたけど、こ、この人」


「ええ。あちらから直談判があって。相手が相手だし断れなかったの」


「だ、だとしてもいくらなんでも」


「いいじゃない。彼女がどうしても会いたいって子が居るらしくて、わざわざ転入してきたみたいだし」


「会いたい子?」


「先代聖女ソフィ様の実の子供、セフィによ」



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