第6話潜在魔力
この学園で行われる授業は、やはり日本でいう聖典の暗記や魔法の使い方、および治癒の魔法や聖魔法といったいかにも聖女を育てるためのものの内容が多かった。
俺もこの五年で基本的な言語や知識は、父親に教えてもらいながら頭の中に叩き込んだため、授業に遅れを取るということはなかった。
(転生以外だったら、一から学ぶのって大変だからなぁ)
まあ普通は体験しないことなんだけど。
「皆さん、明日は身体測定です」
そんな学園生活もあっという間に一週間が経った。この一週間特に大きな出来事はなかった。というよりは、まずはこの学園生活に慣れる事に必死で、何があったか具体的に思い出せない。
「セフィちゃん、セフィちゃん」
「何?」
「明日のしんたいそくてい、勝負しようよ」
「勝負? しんたいそくていで?」
隣でそう耳打ちしてきたアリエッタに、一瞬何を言っているか分からなかったが、彼女の言う勝負とは多分、
「アタシ達のからだの中にある、まりょく? せんざいまりょくって言うんだっけ? それがどっちが高いからしょうぶしよ?」
潜在魔力値
これはあらかじめ父親からも教わっていたのだが、人それぞれが今現在どれだけの魔力を体内に保有している値の事を指すらしい。
そしてこの潜在魔力値が高い人ほど優秀な力を持っていると言われている。勿論それで全てが決まるというわけではないが、この潜在魔力値が今後聖女に本当になれるかどうか大きく関わってくる事には間違いないらしい。
特にアリエッテにはここで負けたくはないのだが。
「じゃあ明日それで勝負しようよ」
「うん! その代わりまけたらお昼のデザートちょうだい!」
「分かった! 約束ね!」
正直お昼のデザートに関してはそこまで興味ない。大切なのは俺がこれから先目指すものに、届くだけの力があるかどうか。
そしてライバルというべきアリエッテにその力が優っているか。
「楽しみだね、あした」
「うん!」
そして翌日の身体測定。
「セフィ・エスティ、潜在魔力値不明です」
周りがざわついた。
「え?」
一瞬俺は何を言われたのか分からなかった。
測定値不明?
「では次の子」
「ちょ、ちょっと待ってください。そ、それほんとうなんですか?」
「はい」
思わず俺は測定をしてくれた人に聞き返してしまう。思わず素の自分が言動に出てしまうほど驚きを隠せなかった。
(具体的な数値が出るどころか、不明ってなんだそれ)
いや、そもそも小学一年生くらいの体型で、測定値が出てこないって、どれだけ魔力を秘めているんだ。
(これが俗に言うチート能力というやつなのか?)
流石は神様が与えてくれた力。と思っていたのもつかの間、
「アリエッテ・シュバルツ、潜在魔力値不明です」
再び周囲がざわつくことになったのだった。
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「すごいよセフィちゃん。アタシといっしょだなんて思わなかった!」
「う、うん。私もビックリした」
結局二人とも測定値不明という結果に終わり、デザートを賭けた勝負は今回は引き分けという形で終わった。
(俺の結果がこうなったのは少し驚いたが、それ以上に驚かされたのが……)
アリエッテが噂通りの才能を持っているということ。俺とは違って彼女は、神から才能を授かったわけでもなく、生まれながらしてその力を持っていた。
多分アリエッテは、まだ今回のことの重大さに気づいていない。いや、まだ小さいから理解もできていないんだと思う。
生まれながらにしての天才と神から力を授かった天才
どちらが格好いいかと聞かれればそれは……。
「アリエッテちゃんはさ、どうおもうの? 魔力値が出なかったこと」
「うーん、アタシはなんとなくだけどそんなよかんしてたかな」
「よかん?」
「うん。アタシ、ものごころがついた時から、おとうさんに色々教えてもらってたから」
「いろいろって?」
「いろいろはいろいろ!」
きっとアリエッテは俗に言う英才教育というやつを受けてきたのだろう。アリエッテの両親がどんな人間なのかは、俺は知らないけど、きっと聖女として育て上げるためにもっと小さい頃から……。
「どうしたのセフィちゃん。だまっちゃったけど」
「ご、ごめん。アリエッテちゃんはすごいなっておもって」
「すごい? アタシが?」
「だってアリエッテちゃんは私とおなじ年なのにずっとがんばっているんでしょう? それに比べたらわたしなんかまだまだ……」
それに比べて俺は神様がくれた力を信じ切って(本当なのかはまだ疑わしいが)、ここまで大した努力はしてこなかった。いや、入学するために沢山勉強してきたが、アリエッテなんかに比べたら……。
(まだ小学一年生の年で、考えすぎなのは勿論分かっている。けど……)
「そんなことないよ! セフィちゃんだってじゅうぶんスゴイよ!」
「え?」
「だってセフィちゃんもそれだけの力があるのは、わたしと同じように頑張ってきたからでしょ? それにこのがくえんに入るためにだって頑張ってきたはずなんだから、そんななら落ち込まないで!」
「う、うん……」
思わぬアリエッテからの言葉に俺はたじろいでしまう。まさか彼女からそんな言葉を言われるなんて考えてもいなかった。
しかも友達になって一週間しか経ってない人間に対してだ。
(もしかしたら勝手に悪いイメージを持っていたのは俺の方だったのかもしれないな)
「ありがとうアリエッテちゃん」
「こちらこそどういたしまして!」