第67話セフィの秘密
「双子を産めない?」
「産めたとしても、子供が無事か分からないですね」
私達に突きつけられた現実。聖女になってから五年近く経っていた私の身体は、子供を二人産むのは難しくなっていました。
(フィーネ様が言っていた通り、私が幸せになるのは難しいのでしょうか)
もうすっかり大きくなった自分のお腹を見て、私はそう思うようになってしまいました。
「なあソフィ。お前はどうしたい」
「え?」
「お前は自分の命を張ってでも子供を産みたいか?」
「それは......」
ユシスの言葉に私は黙ってしまいました。
(私は命を張ってでもこの子達を産みたい。でもそしたら、ユシスを、子供達を不幸にしてしまいます。本当にそれで私はいいのでしょうか)
「俺はなソフィ、お前にどうしても生きてもらいたい。たとえそれで、俺達に子供ができなかったとしても、俺はお前に側にいてほしいんだ」
「ユシス......」
「残酷かもしれなけど、俺はそれも幸せの一つだと思うんだ。だから」
私の想いを汲み取りながらも、ユシスは自分の想いを言ってくれました。
「確かに、それが正しい答えかもしれないですね」
「だろ?」
「でもユシス、私にはやっぱ諦めることができません。この子達の命を捨てることができません」
だから私は一つの大きな決断をすることになったんです。
「なら......どうするつもりなんだ」
「一つだけ、たった一つだけ私に賭けがあります」
「賭け?」
「聖者転生計画」
「それって、まさか」
「そのまさかです」
私が聖女になろうとした全てのキッカケ。残されてしまったただ一つの希望。
(本当はこれを止めるために私は聖女になったんです。ですが、聖女として一つだけ我儘を聞いてくれるなら)
「神様にただ一つの願い、叶えてもらいましょうユシス」
「だ、だがその計画には二つの犠牲が」
「私達の子供、そして転生してもらう別の世界の犠牲、ですよね」
「......俺達はともかくとして、そっちの犠牲は簡単な話じゃないんじゃないか?」
「だから賭けなんです。私達の願いを神様が叶えてくれる賭け、」」
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(......は?)
ここまで日記ではなくユシスの口から語られた本当の歴史。俺はその話を聞いて、ただただ愕然とするばかりだった。
(セフィには双子の姉か妹がいた。そこは何とか分かるし、出産が簡単じゃないのも分かっている。ソフィの身体も)
俺はもっとこの計画を知るべきだった。
転生して身体ごと生まれ変わったのではなく、魂が産まれるまえ、もしくは産まれた後に移ったことを。
俺が自我を持てているのはそういう理由で、それを成功させるためにはこちら(ソフィ達)側で何かをしなければならなかったことを。
つまり、だ。
「おとうさん、今の話、ほんとうなの?」
「......ああ。本当はこれは墓場まで持っていこうって思っていたんだ。なのに、こんなに早く話すことになるなんてな」
最初から全部知られていたことになる。
そして俺は、産まれてくるはずだった本来の魂の犠牲の上で、今日この場に立っている。
ソフィやユシスがどんな想いでセフィを産み、今日まで育ててきたのかは分からない。
でも、だ。
「こんなのって、ないよ。おとうさん」
「ソフィ......」
「この五年間、私はなんのために頑張ってきたの?! なにも知らないこの場所で、言葉から、文化から全部学んで、私という人間を隠して生きてきた! なのに、こんなのって」
自然と涙が溢れ出す。
折原光という人間を捨て、セフィとして何とか生きようと頑張ってきた五年間
それが全部最初から知られていて、日記で知らなきゃ一生知ることがなかっただんて、あまりにもふざけている。
(俺は、俺は今まで何の為に)
感情が抑えられなくなった俺は、ソフィの日記を持ったまま家を飛び出していた。
「お、おいソフィ! どこに!」
制止するユシスの声も無視して、俺は夜の町へ駆け出していた。
「ユシスさん、なんかありましたか? 今誰かが出ていった音がしましたが」
「スイカさん、今すぐセフィを追ってほしい」
「え?」
「俺、やっぱり親として失格だよ」
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「はぁ......はぁ......」
ユシスの話の続きは日記にこう記されていた。
『聖者転生計画、私は絶対にしない計画だと思っていました』
「どう、して」
『でも私とユシスの愛の証、それを残すためにはこの方法しか浮かびませんでした』
「どうして知ってて、俺を」
『二人は難しくても、一人でもいい。この計画が成功して、せめて私がこの子の成長を少しでも見守れるならそれでいいんです』
「育ててくれたんだ。どうして、本当のセフィだって知っていたのに」
『お願いです神様、聖女としての最後のお願い、聞いてください』
「ここまで、ずっと......」
走り続けていた足が止まる。ずっと隠されていたセフィの出生の秘密を今知って、俺の頭は混乱するばかりだった。
(ここまで俺は何の為に嘘をついていたんだよ。せめて二人が、この事を知らないで生きていてほしいってそう思っていたのに)
全部を知っていて尚一年間でも育ててくれた母親に、ソフィに、俺は何一つ感謝の言葉も言えなかった。
「ちくしょう、ちくしょう」
俺は、今まで何の為に生きてきたんだ。