第64話聖女日記~恋心~
「ソフィ、俺は騎士団長としてではなく一人の人間としてお前を守りたい」
ユシスさんから突然言われた告白に近い言葉に、私も、会場もどよめきたっていた。
「え、え?」
戸惑う私にユシスさんは私に振り返って言葉を続ける。
「俺今日ソフィと再会して、話をして分かったんだよ。お前は誰かが守らないといけないんだって。それは付き人とか騎士団長とかそういう立場上の話じゃない。一人の男としてソフィ、お前を守りたいんだ」
「ユシスさん……」
「突然こんなことを言われて戸惑うのは分かるよ。でも今だからこそ俺は言いたい、ソフィ、俺はお前が好きだ」
「ゆ、ユシスさんが私を……好き?」
「勿論一人の男としてな」
面と向かって好きと言われて私の顔が熱くなる。
(ああ、やっぱり私もユシスさんの事が好きなんですね。でも……)
「とりあえず、そ、その、返事は待ってもらいますか。今は……」
「あ」
この時既に私の返事は決まっていました。しかし場所が場所でしたので、一度戴冠式が終わってから返事をさせてもらうことにしたんです。
「悪いなソフィ。待たせてしまって」
「いえ、私が無茶を言ったんですから」
同じの夜。教会に彼を呼んだ私は、改めてユシスさんの気持ちを確かめることにしたんです。
「さっきはその、迷惑をかけたな」
「いいんですよ。少し驚きはしましたが、嬉しかったから……」
「嬉しかった?」
「こんな私を好きになってくれる人がいて、守ってくれるって言ってくれて凄く嬉しかったんです。でも」
「でも?」
「私はユシスさんの気持ちに応えることができません」
戴冠式の時。
彼が私を守ってくれて、目の前で好きって言ってくれて自分の心臓がすごくドキドキしていました。これがもしかしたら恋心なのだろうって。
でも私は、そんな自分の気持ちを押し殺そうって決めたんです。
「理由を……聞いていいか?」
「私は今日知っての通り聖女になりました。聖女になったということはこれから先、何度もユシスさんい迷惑をかけるかもしれません。それに私はきっと貴方よりずっと早く亡くなってしまいます。そんな迷惑ばかりの私が、ユシスさんの恋人になってはいけないんです」
以前フィーネ様は私にこう教えてくれました。
『私達聖女は、世界を癒す存在です。その力ゆえに命も短いです。ですからもし誰かを好きになって、家族になりたいと願っても相手を不幸することになってしまいます。そうならない為にも私達聖女は誰かと恋人にならないように生きてきているんです』
『それはつまり、女としての幸せは捨てるということですか?』
『残酷かもしれませんがそれが現実です』
私はフィーネ様のその言葉に頷きました。私がなる聖女は世界のための存在、個人としての幸せは考えてはいけないと。
だから私は彼の気持ちを受け止めることができませんでした。
「私はユシスさんのことが好きです。でも、貴方を不幸にしてしまうくらいなら私だけ不幸になればいいんです。聖女になると決めたときそう覚悟したんです。だから……」
自分の気持ちを押し殺して言う私に、その時ユシスさんは優しく抱きしめてくれました。
「あ......」
「聖女が幸せになってはいけないって誰が決めた? この世界にそういう法律でもあるのか?」
「いえ......」
「ならいいだろ? 俺はソフィが好きだし、お前も好きだって言ってくれた。ならいいじゃないか」
「ユシス、さん......」
私を抱き締めてくれたその身体は、私よりも一回り大きくてとても暖かかった。
「改めて聞く、ソフィ。俺の恋人になってくれるか?」
「......はい」
こうして私とユシスはお付き合いすることになったのでした。
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私とユシスが恋人になったというニュースは、世界中に瞬く間に広がって、色々な反響を呼んだ。
「そ、ソフィ様、ずるいですよ! 私というものがりながら」
「な、ナインちゃん!?」
聖女教会や、
「あ、聖女様だ」
「騎士団長も一緒よ」
「流石お似合いのカップルね~」
街の中を歩いても皆に祝福され、私とユシスさんは別の意味で有名人になったのでした。
「なんか悪いなソフィ。疲れるだろ」
「いえ平気ですよ。これから何度もあることですし、今の内に慣れないといけません」
「だな」
二人で一緒にいられる時間は多くなかったですが、私とユシスさんは立場を忘れ恋人としての時間を二年近く過ごしていきました。
しかしその平和も突然の出来事で崩れ始めたんです。
「ソフィ様、最近食事をとらなくなりましたね。どうかしましたか?」
「食欲が沸かないんですよ。体調が悪いだけだと思いましたが、目眩も酷くて」
キッカケは最近自分の体調が優れないことをナインちゃんに相談した事からでした。
「......その症状、どれくらい続いていますか?」
「えっと、それがかれこれ一ヶ月くらい続いていまして」
私はもっと詳しい症状をナインちゃんに伝えました。
「ソフィ様はユシス様と付き合い出してから、どれくらい経ちますか?」
「もうすぐ二年ですが」
「......なら、あり得なくもない話ですが。ちゃっかり色々とやっていたんですね」
「な、なんですか、色々って」
「ソフィ様、よく聞いてください。今の貴女の症状を聞いて、原因が何となく分かりました」
「げ、原因ですか」
「ソフィ様、もしかしたらですけど、妊娠をしている可能性が高いです」
「......え?」




