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第62話聖女日記~言葉~

(嘘、だろ)


 ソフィの日記に書かれていた聖者転生計画という名前。計画自体はかなり前からったとは聞いていたが、まさかそれをソフィも認知していたなんて思いもしなかった。


(まさかソフィは......いや、考えすぎか)


 突然生まれたある予感を振り払って、俺は日記の続きに目を通す。


『聖者転生計画、それを初めて知った私は動揺を隠せませんでした。人為的に産み出す聖女、私とは違って普通の人間が神様の手によって生まれ変わらせる、普通では考えられない計画。そのおぞましさに私は震える手を抑えられませんでした』


 ■□■□■□

「フィーネ様、これはどういうことですか!?」


「ソフィ? 貴女がその手に持っている本、まさか」


 そんな計画が存在したことを知った私は、いてもたってもいられずにそのままフィーネ様を問い詰めました。


「聖女教会は......こんな恐ろしい計画をやろうとしていたんですか?」


「貴女も知っていますよねソフィ。私達聖女の今を」


「それ、は......」


「これはそのためのものです。たとえ非道だと言われても、いつかはこの計画が成功すると私は願っています」


「フィーネ様......」


 今までのフィーネ様とは思えないくらいに強い言葉に、私は何も言い返すことができませんでした。そして私はその時に決断することになったんです。


「......分かりました」


「え?」


「計画を続けさせないためにも、私が聖女になります。こんな間違った計画で聖女がこの先誕生するくらいなら、私が子供を産んでいつかその子が聖女になれるように育てます」


 私はこの決断をしたことを日記を書いている今でも後悔をしていません。誰かを犠牲にして聖女を作るより、私の血を継いだ子供が聖女になる方が連鎖が続くことがなくなるはずです。


「本当にいいのですか?」


「フィーネ様から頼んでおいて、今さらずるいですよ」


「......そうですね。ではソフィ、これから貴女には聖女になってもらうための全てを学んでもらいます」


「はい、よろしくお願いします。フィーネ様」


 聖女になりたい理由は、世界のためではありませんでしたが、私はこの日を境にフィーネ様の元で本格的に聖女について学び始めたのでした。


 それから一年後。


「フィーネ様、貴女のおかげで今日の戴冠式を迎えることができました」


 病で床に伏して、長らく意識を取り戻さないフィーネ様に代わって、私が聖女になる日を迎えることができました。


「久しぶりだなソフィ、いやソフィ様。まさか聖女になるなんて二年前は思わなかったよ」


 そしてその戴冠式で私は、二年前に王立記念祭で出会ったユシスと再会することになりました。


「あ、あまりその呼び名で呼ばないでくださいユシス騎士団長」


「そっちもやめてくれ」


 私は聖女として


 彼は王国騎士団長として


 お互い立場が大きく変わった中で、再会を果たすことになったのです。


 ■□■□■□

「たった二年前まではお互いこんな立場になるなって思わなかったな」


「私もですよ、ユシスさん」


 二年前。

 私はまだフィーネ様の付き人、ユシスも前王国騎士団長のサポートのような役割という立場でした。ユシスに騎士団長としての素質があるという話を聞いていましたが、まさか自分が聖女になるなんてそんなこと

 ......。


「なあソフィ、お前は本当に大丈夫なのか?」


「え?」


「聖女になることが、本当は怖いんじゃないのか?」


 ユシスがふと私にかけてくれた言葉に、その時私の心は揺らいでしまいました。


(怖い、なんて聖女の私が口に出してはいけないんです。たとえユシスの前だとしても)


「無理しているんじゃないのか? 俺は聖女についてそこまで詳しくはないが、この世界は聖女でできているようなものだソフィ、お前は本当にそれになれるのか?」


「......なれ、ますよ。私はその覚悟があって、今日まで聖女になるための全てを学んできたんです。ユシスさんにはそれが分かりませんよね」


「ああ、分からないな」


「なら」


 私の心が揺れ動くような言葉を言ってほしくなかった。


 本当は怖いし逃げたい。


(でも私がせいじょになったのは、世界のためだけじゃないんですよ、ユシスさん)


「分からないけど、今のお前の気持ちは分かる。本当は揺らいでいるんだよな」


「ち、違います! 本当は何もわからないのに、どうして貴方はそこまで私に言えるんですか? 私はあと数時間で聖女になるんですよ? その私にどうして貴方はそこまで」


「俺はお前が心配だからなんだよソフィ」


「しん、ぱい?」


 ユシスからそんな言葉を言われるなんて思わなかった私は、ここで心臓の脈拍が急上昇したのを感じる。


(え、あれ、今私......)


「どうした?」


「まさか、ユシスさんに、心配されるなんて思っていませんでした。私、誰かに心配されたことなんてなかったので」


「そうなのか? ご両親とかは」


「小さい頃に......」


「そうか......ソフィも、そうだったんだな」


「え?」


「俺も一緒なんだよソフィ。小さい頃に魔物との戦いに巻き込まれて両親を亡くしている。いわゆる戦争孤児なんだ」


「ユシスさんも......私と同じ」


 その言葉を聞いて、私の胸は張り裂けそうになって、顔も熱くなってしまいました。


(私、もしかしてユシスさんに......)

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