第60話ズル
色々あったミニ旅行も、二日目は帰りの支度等の時間でほとんどが終了した。
「たった一日だけのりょこう、あっという間でしたわね」
「あたしすごく楽しかったよ。ありがとうね三人とも」
「わ、わたしもはじめての海だったので、すごくたのしかったです」
「わたしもたのしかったよ」
別荘を出発前に、四人で別荘を眺めながら、旅行の思い出に想いを馳せる。
「色々あったけど、あたしはますます三人と友達になってよかったって思ったよ」
「さいしょのころは私もこのような仲になるとは思いませんでしたわ」
「また来年も四人できたいですね」
「うん、来年もぜったいにこようね」
トラブルとか色々あったけど、何だかんだで俺もこの旅行はいい思い出になった。初めての夏休みは本当に色々なことがありすぎて正直まだ頭が混乱しているところはあるけれど、何だかんだでこの二日間が一番楽しかった。
(問題はこの先だな)
ただ面白いことだけがあった訳じゃないのは事実で、昨日ユイにお願いしたことや、自分が男であることを明かした上でのこの先の友人関係とか、休みが明けてからはやらなければならない事が沢山だ。
「皆さん、帰りの馬車が来ましたので、そろそろ帰りますよ」
「「「「はーい」」」」
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帰りの馬車の中。
「それじゃあセフィちゃんは、アリエッテちゃん達にも自分のことを話しちゃったんですね」
「いずれはなすことですし、もう黙っていることもできなかったから仕方がなかったんです」
「私があの場で余計な話をしてしまったからですよね、ごめんなさいセフィちゃん」
旅疲れもあってアリエッテ達が眠っている中、俺はスイカさんに昨日あったことを話した。
「それで今の話からすると、今度改めてユリエルに会いに行くんですか?」
「まだ約束もしていないから分からないですけど、ユイがお母さんに聞いてみるって言っていました」
「それでセフィちゃんはユリエルに何を聞こうとしているのですか?」
「それは勿論、計画についてです。ユリエル様が自分と同じたちばのにんげんなら、もっと話をしやすいと思ったんです」
「でもユリエルはセフィちゃんがそのことを知っていることを知りませんよ?」
「そこは何とかウソをついてしのぎます」
彼女は最初の時点でセフィがセフィでないことを知っていたので、俺が知っていてもきっと不思議がらないと思ってはいる。
(少し無理やりな気がするけど、話せばきっと分かるはずだ)
「セフィちゃんがその気なら私は止めませんが、くれぐれも気を付けたほうがいいですよ」
「どうしてですか?」
「貴女が話す相手は世界の中心人物。もし一つでも間違いが起きれば、打ち首になる可能性だってあります」
「う、うちくび?!」
「大げさに聞こえると思いますが、それだけの相手と今度は個人で、真面目な話をしようとしているんです。以前の時のように簡単にはいかないって考えたほうがいいですよ」
「……わかりました」
スイカさんにそこまで言われてしまえば、俺も気を付けなければならない。
(肝に銘じておかないとな)
その後馬車はあっさりと聖都へと到着する。
「ではわたくしの家はこっちですので、またなつやすみ明けのが学院で」
「じゃあねーフラン」
聖都についてからはそれぞれが道の途中で離れていき、
「セフィちゃん、きのうのはなしはおかあさんに聞いてみますね。それでは」
「うん、じゃあねユイ」
途中で聖女教会に寄るというユイとも別れて、気づけば、アリエッテ、セフィ、スイカさん、フィアの四人きりになっていた。
「なんか二日目はすごくあっという間だったねセフィちゃん」
「うん。ほとんど馬車での移動の時間だったから、すごく短かった」
「そのぶんいちにち目はすごくたのしかった。あたし、あんなに楽しいりょこうはじめてだったから」
「それは私もだよアリエッテ」
二人で談笑しながら帰り道を歩く。
「ねえねえセフィちゃん」
けど途中でアリエッテがふと足を止めた。
「うん? どうしたのアリエッテ」
「あたしね、きのうセフィちゃんからあのはなしをきいて、すごくびっくりしたの。けいかくは名前だけ聞いたことがあるくらいだったから、まさかそんなのが実在するなんて思わなかった」
「……うん、ふつうじゃありえないはなしだとおもう」
「でもセフィちゃんはそのありえない事で、あんなありえない力を手に入れたんだよね?」
アリエッテの言うあり得ない力とは、多分潜在力測定とサバイバルピクニックの時に見せた力のことを指しているのだろう。
「それってさ、言い換えればズル、だよね」
そしてそのありえない力を彼女はズルだと言ってみせた。
「さいしょはねセフィちゃんがみせた力は、先代のソフィさまから継いだちからだと思っていたの」
「……」
「けど、それはちがったんだよね。セフィちゃんが得たそのちからは、ズルして得たちからだったんだよね」
「アリエッテ、それはべつにちがくて」
「違くないよ!」
語尾を強めて言うアリエッテに俺は言葉を失う。
「きのうは責めないなんていったけど、いちにち考えておもったの。そのけいかくでもしセフィちゃんがすごいちからを手に入れていたのなら、ズルしてセフィちゃんは聖女になろうとしているんだなって」
「ズルなんてそんな」
「だからあたし決めたの。そんなズルい力さえも越えて、実力でせいじょになってみせるって」
「アリエッテ、私は」
「ごめんねセフィちゃん」
アリエッテは俺が引き留めるのを無視して走り出してしまう。残された俺は彼女を追うこともできずに、その場に立ち尽くしていた。
(俺が得た力は、アリエッテがいうズルなのか? 本当に……)