第56話手違い転生者 前編
ユイをスイカさんの部屋から運び出し、ベッドで寝かした後。
(少し外に出るか……)
色々なことを一度整理するために一人で海岸を散歩していた。
(スイカさんもユリエル様も、どっちも間違ってはいない。けど、世界の為か人一人の命の為か……)
もし俺がこれを選ぶ日が来たらどちらを選ぶのだろうか。
「眠れない?」
ふと後ろから声を掛けられる。
「あんな話をきいて、眠れるわけがないよ」
振り返るとそこにはフィアがいた。
「って、さっきへやにはいなかったよね」
「居なくても何となく分かる」
「わかるの?」
「私だって何も知らずに貴女の目の前に現れたわけじゃない。私が貴女を守ると言ったのはそういう意味でもあるから」
「……そう、だったんだ」
天使は神の使いだし、シェリ達の命で来たのなら俺の事情を知っていてもなんら不思議ではない。けど俺は、少しだけ怖くなったりもした。
(ずっと隠していたことが、ここ最近いろいろな人に知られてる……)
スイカさんには自ら話したとはいえ、ユイにもバレ始めているしこうしてフィアにも既に知られている。五年もの間誰にも話していなかった秘密が、少しずつ知られていくことに俺は怖くなった。
「聖者転生計画、話だけはシェリ様達から聞いていた。それが本来貴方が受けることじゃなかったことも」
「本当なら希が今こうしてこの場所に立っているはずだったんです。けどすこしてちがいで」
「貴方が転生することになった」
「……ほんとうおかしな話だよ」
俺は砂浜の少し坂になっているところに腰かけてフィアの顔を見る。彼女は相変わらず無表情だったけど、夜に見ると少しだけ美しくも思えた。
「嫌なら断ればよかったのに」
「断ろうとは思ったよ。けど、自分の代わりに誰かがするくらいなら、自分がやったほうがいいっておもったから」
結果的に希もこっちの世界に来てしまった訳だけど、あの時の俺はそうする選択肢しか残されていなかった。
「すごくお人好し」
「かもね。でも今はその選択が間違ってはいなかったって思う」
「後悔してないの? だってあなたはこれから世界の為にその命を使うことになるのかもしれないのに」
「それは……確かにそうかもしれない。でもそれを希がやってたらってかんがえると、じぶんがやってせいかいだって思えるよ」
「そのノゾミという人が好きなの?」
「すきだったよ。こくはくだってするつもりだった」
けどそんな想いはいとも簡単に打ち砕かれ、今も少しだけ後悔が残っている。
「でもこのまえ再会できて、うれしくもあったけど少しだけ悲しかった」
「悲しい?」
「だって希のためにこの世界に来たのに、彼女もきちゃったから」
そして彼女は今も行方不明のまま。護るために転生したのに、結局彼女を危険な目に合わせてしまった。
(結局俺がしてきたことって無駄だったんだ)
「そろそろわたしへやにもどるね」
これ以上会話が続かないと思った俺は、彼女に背を向けて部屋へと戻る。
「そう、おやすみなさい」
フィアからは何故か少し寂しそうな声が返ってきたが、俺は気にも留めることはなかった。
「彼女が言っていた通り、もしかしたらこの計画は誰も望んでないかもしれない、シェリ様」
その後彼女がボソッと呟いた一言も、波の音にかき消され聞こえることはなかった。
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私は悪い人間だ。
「どうしてあのときうそを?」
セフィちゃんが何か私達に隠し事をしていることを知っていながら、意地悪なことを聞いてしまった。
(おとまり会のときからずっときになっていた。セフィちゃんがわたしたちになにかひみつごとをしているって)
「あたしもちょっと気になっていたんだ」
「わたくしもですわ」
寝たふりをした私は、セフィちゃんが部屋を出て行ったのを確認して、アリエッテちゃん達の部屋に来ていた。
「きのせいだとは思うんですけど、ずっときになっていたんです。おかあさんの反応が」
「聖女教会にいったときだよね。ユリエル様がセフィちゃんをすぐにでも聖女にしようとしてた」
「それって偶々とかではありませんの?」
「だからきのせいだって思ったんですよ。でも……」
私はある計画の話を知ってしまった。
「せいじゃてんんせいけいかく」
「何ですの? それは」
「むずかしいはなしはわからないんですけど、セフィちゃんとスイカさんが話をしていたないようです」
「あ、あたしその言葉すこしだけきいたことがある。たしかそれって」
「てんせいという言葉は、うまれかわるという意味らしいんです。聖女教会にあったほんにそうかいてありました」
「せいじゃにうまれかわる……」
「むずかしいことばですわね」
アリエッテちゃんの言う通りまだまだ幼い私には難しい言葉だった。勿論セフィちゃんも同じはずだった。
(それなのにどうして……)
「それをさっき二人が話をしていたんです。おまけにセフィちゃんはなにもしらないとうそを言っていました」
セフィちゃんはあの時から私に噓をついていたのか、沢山考えても分からなかった。
「わたし、どうすればいいかわからないんです。セフィちゃんが私たちにどうして黙っているのか。友達なのに、どうして何も話してくれないのか」
「ユイちゃん……」
「だからちょくせつ聞こうって決めたんです」
「ちょくせつ?」