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第55話それぞれの意志

(聖女ユリエルが、俺と同じ……計画の参加者?)


スイカさんから語られた衝撃的な事実に俺は驚きを隠せない。


「おかあさんが、そのけいかくに?」


そしてそれはユイも同様で。計画を少しだけ理解している彼女も驚きを隠せないでいた。


「こんな話をされても分からないと思いますけど、聖者転生計画は今よりもっと昔から行われていたんです」


「もっと、むかしから……」


あの二人はそんな事を言っていなかったから、てっきり俺が一番最初だと思っていた。けどそれはもっと昔から行われていて、成功したのが今のユリエルということらしい。


(そんな計画を聖女教会は裏でやっていたのか。世界のためとはいえいくらなんでもそれは……)


言ってしまえば聖者転生計画は、一人の命を犠牲にして行われている計画だ。それが人知れず行われていて、人知れず犠牲を生み出していたとしたら、


「ひどすぎる」


「え?」


「そんなのひどすぎますよ。だって聖女のためにだれかが犠牲になっているなんて、ひどいし悲しすぎます」


俺はいつの間にか涙を流していた。それが悲しみから来ているのか、それとも同情なのかは分からないけど、もしそれが事実ならば悲しすぎる。


「セフィちゃんの気持ちは分かります。が、それが世界のためなら仕方がない事でもあります。なによりユリエル様がそれを望んだのですから」


■□■□■□

「ユリエルが聖者転生計画の、参加者……」


その言葉を聞いて私も最初言葉を失った。計画のことを知ろうとしただけなのに、まさか聖女の秘密を知ることになるなんて思いもしなかった。


「私は元々聖都から遠く離れた村に住んでいた、どこにでもいる二十歳くらいの普通の女の子でした」


そんな村にある日、とある女性が彼女の村を訪れた。


「後から知ったんですが、彼女は当時の聖女だったんです。その人は今の私と変わらないくらいの女性で、私にこう声をかけてくれたんです」


『もし力が与えられたら、貴女は私と同じ人間になりたい?』


「最初何を言っているか分かりませんでしたが、もうその時から計画は始まっていたんだと思います」


「でもどうして……ユリエルはその計画に?」


「それから数年後、私の村が魔物に滅ぼされたんです」


「村が魔物に?」


「唯一生き残った私は、絶望の中で生きていました。魔物を恨みすらして、この命を捨てようとしました。けどそんな時に、手を差し出してくれた方がいたんです」


『貴女の命、世界のために使ってみない?』


「それが全部の始まりだったんです」


ユリエルはそこまで話すと、一息をついた。


「信じられない話かもしれませんが、これが聖者転生計画の始まりであり、私という人間の始まりです」


「……」


私は何も言えない。セフィちゃんから聞かされなければ、こんな話信じなかったし、調べようともしなかった。けど、私が知らないところでこんなことが起きていたなんて、にわかにも信じられない。


(けど)


「信じますよ……ユリエルが噓を言っていっるようには思えませんし、なにより」


「彼女もそうだから、ですよね」


「え?」


「先ほども言ったように私は彼女と一度話して、その正体も分かっています。だから聖女にならないかと誘ったんです」


そしてセフィちゃんは断ったということ。


「彼女の秘める力は、先代のソフィ様にも引けを取りません。私に残された時間を考えると、彼女が聖女になるのが相応しいって思うんです」


「でもそれだと、今リラーシア学院で必死に頑張っている生徒たちの思いを踏みにじりますよ」


「そんなことは分かっているんです。でも急ぐ気持ちも分かってください」


「ユリエル……」


彼女の気持ちも分かる。分かるけど、


「ねえスイカ」


「なんですか?」


「今言うのは間違っているかもしれないですけど、私、第二の人生を授かって、家族もできて、貴女と出会えてすごく幸せなんですよ。だからこの計画に参加したのも、次の誰かに継ぐのも間違っていないと思っています」


「つまりそれは、彼女もその一人になってしまったのは間違ってないと?」


「はい。私は自分がしていることが間違っているとは思いません。私のこの意志を誰かが継いでくれるなら、たとえそれが間違った道でも進みます」


ユリエルは真っすぐにこっちを見ている。私が見えるのは微かな光景だけど、その意志だけは間違いなく伝わっていた。


「ユリエルの意志は分かりました」


だから私の意志を伝えなければならない。


「ただ、私はそれに賛同できません」


「……貴女はそう言うと思っていました。だから調べに来たんですよね?」


「私はこの計画の間違いを必ず見つけ出します。聖女という悲劇を、聖者転生計画という悲劇を終わらせるために」


■□■□■□

「どうして泣いているんですか?」


すべてを話し終えた後、スイカさんは優しく声をかけてくれた。


「だって、今まで、ずっとひとりだって思っていたから」


知らなかった。

自分以外の誰かが、自分と同じような境遇にいることを。あの時彼女がかけてくれた言葉にそんな意味があったことを。


「……今話した通り、私はこの計画が間違っていると思っています」


「……はい」


「だからもし貴方がユリエル様に着くというなら止めません。その先にある答えは、貴方自身で見つけてください」


俺は静かに頷く。

スイカさんの言うように大半の人がこの計画は間違っていると言う。俺もその一人だ。


(でもユリエルのような人もいる)


だからスイカさんはあえて俺にそう言ったのかもしれない。


「そういえば今の話、ユイに聞かれてたら」


「心配ありませんよ」


スイカさんが俺の隣を指さす。


「すぅ……すぅ……」


隣では寝息を立てるユイの姿があった。


「……もしかしてこうなるって分かっていて話しましたか?」


「秘密です」


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