第52話カナヅチと料理音痴
スイカの誘惑(?)を何とか乗り越え、全員でビーチへ。
「べっそうって聞いて予想してたけど」
「もしかしてここにいるのは、私たちだけ、ですか?」
アリエッテとユイが声を漏らす。彼女達が言うように、別荘から見えていた海は何とプライベートビーチだった。
「さあ、私たち以外はいませんのでどうぞ自由に過ごしてください。飲み物等は事前におとうさまがよういしてくださったので、そちらもご自由に」
「うみだー!」
フランの言葉を遮るように真っ先に走り出したのはアリエッテ。こちらも続きたいところだが、ユイと同様まだ水着に着替えてないのでグッと我慢する。
「ユイ、私たちも着替えにいこ」
「は、はい!」
ユイを連れて離れたところで二人で着替えをする。
「わたし海に行くの初めてなんです」
「ユイも? わたしもなの」
「聖都のまわりにはうみなんてないですから」
「わたしの家もそうだったよ」
海があるのを知ったのは割と最近だった。山という概念があるなら、海があってもおかしくはないとは思っていたけど、夏休みに入ってから色々ありすぎてそんな事も思い出す余裕もなかった。
「セフィちゃんの水着かわいいですね」
「そういうユイも。すごくかわいい」
「ありがとうございます」
俺が、いやスイカに選んでもらった水着は黄色を基調としたフリル付きの水着。ユイの水着は水色のシンプルなものだったが、それよりも目が行くのは、
(小学一年生にしては大きいよな……)
「セフィちゃん、どうかしましたか? わたしの顔になにか付いていますか?」
「あ、ううん。何もついてないよ。それより着替えが終わったし行こう」
「はい」
まさか胸を見ていたなんて言えるわけもなく、ユイと共に皆のところへ戻る。
「あ、来ましたわ」
「セフィちゃん、こっちこっち!」
ビーチに戻ると既にアリエッテ達は泳ぎ始めていて、スイカはパラソルとか色々敷いて、フィアと一緒に休んでいた。
「もう泳いでるの? 早いよふたりとも」
「そっちが遅いだけですわよ。わたくし達は待たされたんですわよ」
「そうそう、こんな暑いのに海に入らないほうが難しいって」
「そうなんだけど」
「折角なら一緒に入りたかったですね」
アリエッテの言う通り、今日も猛暑だ。その中で砂浜の上に居続けるのは難しいと思うが、
(着替えて向かえる距離なら先に言ってくれよ)
気を取り直して。
「ねえアリエッテ、海にきたらなにをして遊ぶの?」
「いろいろあるよ。誰が長く泳げるか、とか。ボール遊びとか。あとは砂でお城をつくるのもいいかも」
「どれもたのしそう」
こちらの言葉で言い換えると遠泳やビーチバレーで遊ぶみたいな形だろう。
「あとは、これもどうでしょうか」
「こ、これは」
スイカがどこからともなく取り出したのは、緑色の丸い物体。
(既視感あるけど、これってもしかしなくても)
「この果物を目隠しして棒で叩き割るなんて遊びもありますよ」
要するにスイカ割り。
「どれも楽しそうですね」
「うん」
ベタといえばベタだけど、海といえばこれという感じがして俺は好きだ。
「ねえねえどれからやる?」
「うーん、とりあえず暑いから泳ぎたいかな」
「さんせーい」
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「はぁ……はぁ……」
「いやぁ、まさかセフィちゃんがカナヅチだったなんて」
「なん、で……」
遠泳終了後。俺は想定外の事態に見舞われていた。
(折原光の時は問題なく泳げていたのに……なんで)
セフィがカナヅチということが初めて判明したのだ。いくら泳ごうとも身体は浮かず沈み、泳ごうにも体が全く前に進まない。
「ま、まあ、泳ぐの初めてだったから、ちょっと慣れてなかっただけ」
「本当に?」
「ほ、ほんとうだよ!この程度泳げなかったら、大人にだってなれないし」
じぃぃぃ……。
アリエッテ達に疑いの視線を向けられる。今まで当たり前のようにできていたことができなくなると焦るし不安になる。
(明らかに身体を動かせていなかった。人生であんな経験したの初めてだ)
「とりあえず疲れたし、すこし休憩にしよう」
四人でスイカ達の元へ向かう。二人は相変わらず泳がず、日光浴を楽しんでばかりいた。
「休憩ですか?」
「はい。スイカさん達は泳がないんですか?」
「私はあまり泳ぎすぎると危険なので、遠慮はしていますが、フィアは何故か泳がないんですよね……」
「私は泳ぎに興味がないだけ。飛んでた方が楽」
「身も蓋もないこと言わないでくださいよ」
大人二人がこんな感じなので、海を楽しんでいるのはセフィ達四人だけだった。
「はぁ……まだ泳いだだけなのに、すごく疲れた」
アリエッテとユイが一度場を離れ、フランと二人だけになるら、
「情けないですわね。アリエッテなんてあんなに元気なのに」
「わたしは別のほうめんでたいりょく使ったから」
「あ、そうでしたわね」
「そういうフランはどうなの?」
「もうクタクタですわよ」
「人のこと言えないじゃん」
「でも、楽しいですわよね」
「たしかに」
フランとダラダラ喋っていると、離れていたアリエッテ達が何かを持って戻ってきた。
「二人とも、ご飯にしよう」
「す、スイカさん達も一緒に食べましょう」
どうやらお昼ご飯の用意ができたらしい。
「あれ?よういした料理と違いますわ」
「実はわたしお弁当を作ってきてみたんだ。皆で食べよう?」
■□■□■□
小学生ながらにしてわざわざ用意してきたアリエッテの弁当は、一言で言うなら、
『異物』そのものの見た目をしていた。
「い、いちおう聞くけど、アリエッテ、これはわたしたちが食べられるものなんだよね?」
思わず俺は尋ねてしまう。
「食べれるよ? もしかしてセフィちゃんが苦手なものとか入っていた?」
「そ、そうじゃなくて」
好き嫌いとかそういう問題以前の話をしているのだが、アリエッテは全く気付いていないようだった。
(これ食べて死ぬなんてことはないよな?)
気のせいかもしれないが異物は時々動いているように見える。
「と、とりあえずフランが一口目をたべて」
「わ、わたくしがですか?! どう見てもこれはどくみ、ですわよね」
「フランなら立派なぎせ……身代わりになれるよ」
「言い直した意味ありませんわよね?!」
「どうしたの二人とも。せっかくなんだから食べてよ」
フランとお互いに譲り合っていると、アリエッテに不審がられる。
「ご、ごめんアリエッテ、わたしおなか減ってないからあとで食べるね」
「え? でもさっきはおなかへったって」
「ちょ、ちょっとおなかの調子が悪くなっちゃって」
俺はその場から立ち去るように後ずさりをする。
「だ、だからわたし部屋で休んでいるね! あとはフランがぜんぶたべてくれるから」
そしてそのまま別荘へとダッシュ。
「あ、ちょっと!」
「ずるいですわよ、セフィ!」
(すまないフラン、犠牲になってくれ)
その後フランの悲鳴が聞こえたのは言うまでもなかった。