第48話天からの使い 前編
オリーヴの事はユシスに任せることしかできず、俺はスイカさんと一緒に家で待つことしかできなかった。
「大丈夫ですよきっと。むしろ少しでも遅れていたら、私達も巻き込まれていた可能性がありましたから」
「でも、わたし……」
「彼女達が心配なのは分かります。しかし私達には何もできない以上、ここでこうして信じて待つしかないんです」
スイカさんにひたすら諭される俺。勿論無事であることは信じてる。けど、心のどこかでこの不安を拭いきれない自分がいる。
(怖いのか、俺)
何もできないまま信じるしかなくて、非力な自分に嫌気もさす。
(希、頼むから無事でいてくれ)
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「ぅあ、あ」
「どうしたのシオン?!」
突然鳴り響いたサイレント共に、シオンは突然体を震わせその場にしゃがみ込んでしまった。私は慌てて彼女を介抱するが、シオンが見せた表情は今までに見たことがないほど怯えていた。
(こんなサイレン、五年間で一度も聞いたことなんてなかった。一体何がこの街で起きようとしているの?)
「おねえ、ちゃん、おねえ、ちゃん」
「シオン?」
「わたしのせい、で、おねえちゃんが……」
シオンがうわ言のようにお姉ちゃんお姉ちゃんという。
(シオンにお姉ちゃんがいたなんて話、一度も聞いたことなかったけど……)
この反応から見ると、シオン自身も言うことを避けていたのかもしれない。
「ノゾミちゃん、シオン!」
異変に気付いたのか飛翔のマスター、クルトさんがやって来た。
「く、クルトさん、シオンが」
「ああ、分かっている。シオンのことはこっちに任せて、ノゾミちゃんは先に逃げてくれ」
「え? 逃げるって?」
「このサイレン、恐らく、いや間違いなくアレが来る」
「アレ?」
「説明をしている時間はない。時間がある今のうちに街から出てくれ。俺達もあとから追う」
「わ、分かりました」
シオンを一度クルトさんに任せ、私は言われた通り街の外へ向かうが、
「ノゾミちゃん、上だ!」
「え?」
クルトさんに言われ上を見上げる。すると上空から何かが降ってきた。
「イタッ!」
私はそれを寸前のところで避けるが、僅かに反応が遅れ傷を負ってしまう。
「大丈夫か?!」
「大丈夫です、クルトさん。これくらい。それより今降ってきたのって……」
私はそれに目を向ける。空から私に向けて降ってきたのは一本の槍。そしてそれを投げてきたのは、上空にいる……。
「あれ、は……」
黒い翼を持った異形の群れだった。
(もしかしてあれが、話に聞いていた……)
魔物。
光がこの世界に呼ばれた理由。
(こんなのと光はこれから戦おうとしてるの?)
「あ、ぁ……」」
初めて見た魔物に怯えてしまった私は、その場から動けなくなってしまう。
(怖い、逃げないといけないのに怖くて動けない。どうしよう助けて、光)
届くはずのない助けを求めるけど、勿論届くはずもない。
(私、こんなところで終わりたくないよ)
「ノゾミちゃん!」
地上にいる私達に気づいた魔物の群れが降下してくる。死を覚悟した私は目を瞑る。
(光……!)
しかしその直後の事だった。断末魔がその場に鳴り響いたのは。
「……え?」
私は恐る恐る目を開く。するとそこには、
「大丈夫……?」
魔物の群れを一瞬にして殲滅した金色の翼を持った少女がいた。
「て、天使?」
突然現れた天使に私、そしてクルトさんが言葉を失う。
「どうしたの? どこか痛い?」
ポカンとする私を不思議に思ったのか、水色のボブカットよ天使は首を傾げながらこちらを見つめている。
「あ、え、えっと、その、さっき槍が掠ったけど大きな怪我はないです」
「そう、ならよかった」
天使は淡々と答えるとまだ残っている魔物の群れへと向かっていった。
「話は聞いたことがある。この世界には神がいるようにその使いの天使もいるって」
「神の使い?」
この世界の神様のことは私はよく知っている。なら、私を助けてくれたのは……。
(どこかで私たちを見ているの?)
「とりあえず彼女のおかげで逃げる隙ができた。ノゾミちゃん、今度こそ先に逃げるんだ」
「は、はい。クルトさんも、シオンも、皆絶対無事に脱出してください、約束ですよ」
「ああ、分かってる」
私は今度は迷うことなくオリーヴから出ていく。それとすれ違いに、空には先ほどの比ではない数の魔物達がやって来ていた。
(どうしてこんな事に……!)
私は何もできない悔しさを滲ませながら、オリーヴを後にしたのだった。
そしてこの後すぐ、魔物に押し切られたオリーヴの街は壊滅を迎えたのだった。
飛翔やシオン達の行方も分からないまま……。
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オリーヴの時間から二日が経った頃。
未だ家に帰らないユシス。
そして行方が掴めていない希。
何も知ることができず、眠れない日々が続く中で来客があった。
「貴方がセフィ?」
「え? う、うん」
「やっと見つけた。ずっと探してた」
「探してたって、えっとあなたは?」
「私はフィア。シェリ様の命でここに来た天使」
「シェリ様?」
その名前を他人の口から聞くなんて思ってなかった。
「これから私は、貴女のことを絶対に護る。貴女が聖女になるその時まで、この命に変えても」