第47話再会の翡翠〜病娘〜
希がこちらの世界に来てから知り合ったシオンという女性。希は彼女から告白されたというが、
「ねえセフィちゃん、教えて。ノゾミとはどういう関係なの?」
彼女はとんでもない子に好意を持たれてしまったのかもしれないと、目の前まで迫るシオンを見て思う。
(これが異世界版のヤンデレか?)
そんな事を考えながら俺は後ずさる。彼女が放つ異様なそれは、その場しのぎでは到底納得してもらえなさそうなものだった。
(下手な嘘ついたら殺される。なんでこんなのと出会ったんだよ希は!)
俺は何とかして彼女から逃げようと覚悟を決めたその時だった。
「シオン、マスターが探して……って、何をやっているの二人とも」
シオンを探しにやって来たノゾミが、たまたまこの部屋に入って来てくれたのだ。
「あ、の、ノゾミ、これは、その……」
「その様子だともしかして……」
慌てふためくシオンに何かを勘付いた希は、ポンと手を叩く。
「シオンったらセフィちゃんにまで手を出すなんて、見境がなさすぎ!」
「え?」
「はい?」
こうしてあらぬ誤解だけ生まれたこの夜は、その後何事もなく更けていくのだった。
「今度絶対に聞き出してみせるから」
「お、おてやわらかに……」
そして…。
長かった翡翠の都での一日も終わり翌朝。
「お世話になりました」
「おせわになりました」
このままタダで宿泊するのも申し訳ないとのことで、スイカさんさんの提案で朝早くにオリーヴを発つことに。
「また遊びに来てください、歓迎します」
「はい、是非」
「またねノゾミお姉ちゃんたち」
帰り際には朝まで仕事をしていた希とシオンも、わざわざ見送りに来てくれたのだが、両者の表情は真逆だった。
ずっとこちらを睨んでくるシオン
それに全く気づいていない希
勿論希に悪気はないだろうし、シオンもそれには気づいているはずだ。
(複雑な関係、なんだけど、中心にいるの小学生なんだよなぁ…)
これには俺もため息が出る。結局昨晩のことは何が正しかったのかは分からない。
(今は考えても仕方ないか)
「じゃあ帰りましょうか、セフィちゃん」
「うん」
そんなことを考えながらも、スイカさんさんに連れられ帰りの馬車に乗る。その間も希は手を振ってくれ、シオンも仕方なく手を振ってくれた。
それに手を振りかえした後、視線を馬車の中に戻した。
「セフィちゃん、初めての旅行は楽しめましたか?」
「うん、すごくたのしかった。また来たい」
「そうですね、私もまた来たいです」
スイカさんには分からないことだが、セフィ、いや、俺としては今回の小旅行には大きな収穫があった。希が俺と同じようにこの世界に来ていて、俺が知らない生活を送っている。それが知れただけでも大きな収穫だったし、何より……。
(五年前に伝えられなかった言葉、伝えられたからいいよな。本人に伝わってないけど)
こうしてセフィにとっては初めての小さな旅行は終わりを告げたのだった。
◾️◽️◾️◽️
「ねえノゾミ」
光が乗る馬車が見えなくなった後、シオンがふと口を開いた。
「どうしたの? シオン」
「ノゾミは聖女って知ってるよね?」
「知ってるけど、突然何?」
「なら聖女の秘密は?」
「秘密?」
「ノゾミは外の世界から来たから知らないけど、聖女はね」
この時何でシオンがこんな話をしたのかは分からない。けど私は今日初めて知った。光が目指している聖女の本質が何なのか。そして聖女になった先に待っているものが。
「聖女になったら……死ぬ?」
「うん。どういう繋がりでそうなるのかは分からないけど、歴代の聖女がそうだった」
「じゃあもし、セフィちゃんが聖女になったら……」
「歴代の聖女と同じ道になると思う」
つまり光が今度こそ本当に死んでしまう。シオンは勿論イコールではないと付け加えたけど、初めて知らされたその事実は何よりもショックな出来事だった。
「で、でもどうしてそんな話を私に?」
「それは……ノゾミがあの子に異常に執着してるから。もっと私のことを見てほしいし」
「しゅ、執着っていうかそれは……放っておけないからで」
「放っておけない? 昨日出会ったばかりなのに?」
「あ……」
昨日何とか隠し通そうとしたことがついにボロが出てしまう。彼のことを心配するがあまりの失言だった。
「やっぱりノゾミ、何か私に隠してる?」
「それ、は……」
もういい加減シオンには言い逃れできない、そう覚悟した時だった。
オリーヴ全体に今まで聞いたことがないサイレンが鳴り響いた。
「え、何、この音」
「あ、あ……」
途端にシオンの体が震え出す。
「シオン、どうしたの?!」
「おかあ、さん」
「シオン!!」
◾️◽️◾️◽️
帰りの馬車は旅行の疲れと朝早かったこともあって、ずっと眠っていた。そして再び起きた時にはあっという間に家に到着していた。
「ただいまおとうさん」
「ただいま帰りました」
「よかった二人とも、無事だったんだな」
「無事?」
出迎えてくれたユシスの言葉に疑問符を浮かべる。
「実は今、知らせが入ってな。オリーヴが魔物の襲撃に遭って、壊滅的な被害らしいんだ」
「え?」
「俺も騎士団長の仕事で今からまた向かうから、二人は大人しく留守番していてくれ」
ユシスの言葉に俺は頭が真っ白になる。
オリーヴに魔物が襲撃?
朝まで何も起きなかって平和な街が?
いや、そんな事より、
(希!)
「セフィ! どこへ行くんだ」
俺は家を飛び出してオリーヴへもう一度向かおうとした。しかし.
「い、いまからオリーヴにもどる!」
「馬鹿、子供一人に向かわせられるわけないだろ! それに馬車無しでどうやって向かうんだ」
「で、でも、ノゾミが……」
「とりあえず落ち着いてください、セフィちゃん!」
「う、ぅぅ……」
二人に止められて何もできない。あの街には希がいるのに、今すぐ助けに行かないといけないのに、俺は……。
「うわぁぁ!」